自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

4.予防的殺処分から生かすためのワクチン接種へ

2015-04-08 21:19:59 | ワクチン

三谷 予防的殺処分がいかに被害を大きくし、ワクチンの効果がいかに大きいかを韓国の例と英国の研究報告で具体的に紹介してみたいと思います。

 348万頭という大量殺処分の惨事となってしまった韓国は、予防的殺処分による防疫対策を基本とし、感染が確認された農場から半径500mから3km以内の牛や豚の殺処分を実施し、感染を全国に拡大させてしまいました。最初の口蹄疫発生が確認された2件の養豚農場から半径3km以内の132農家2万3千頭の殺処分をしていますが、翌日の30日に確認された3例目の韓牛農家は1例目から8kmも離れていました。しかも12月1日から2日に確認された15戸の農家はこの3例目の韓牛農家に近かったのです。もし、予防的殺処分が有効であるとすると、半径8km以上の殺処分が必要だったことになります。 

 しかし、最近の英国の報告(引用 p.44-46)によると、口蹄疫に感染した牛が他の牛を感染させる時期は症状発現0.5日から平均1,7日と短く、感染初期と自然治癒して抗体価が高くなった牛の感染力は無視できることを示しています。

 これらのことからも韓国の予防的殺処分は時間をかけて大量殺処分して被害を大きくしただけで、感染拡大の阻止には何も貢献しなかったと思います。また、感染が全国的に拡大した12月25日からワクチン接種を開始し、1回目のワクチン接種が終了した2月10日からは殺処分の範囲を大幅に見直し、牛と繁殖豚は患畜のみ、肥育豚は患畜と同じ豚房群のみに変更されましたが、感染拡大は終息しています。このことはワクチンの効果が出るまでに感染する家畜がいたとしても、集団としての感染拡大はワクチンで完全に阻止できることを実証しているのではないでしょうか。韓国は口蹄疫発生が確認された農場から半径500mから3kmを予防的殺処分するのではなく、まずはその半径内の農場のウイルス感染の有無を遺伝子検査等の疫学調査で確認して、殺処分とワクチン接種の範囲を決定すべきだったと思います。 

 一方、日本では1頭でも感染が確認された農場は全頭殺処分をしています。しかし、企業化して飼養規模が大きくなっている日本では、口蹄疫の遺伝子検査を病性鑑定に導入しても、陽性であれば全頭殺処分が待っていると思えば、今回の大規模農場と同じ隠蔽が起きると思います。農場で感染が確認されたら、直ちに農場の全頭殺処分をするのではなく、農場の家畜の遺伝子検査をして陽性が多い場合はさらに周辺、例えば半径3km以内の疫学調査もして、殺処分とワクチン接種の範囲を決定すべきだと思います。それが「最新の科学的知見」に拠る防疫対策になるのではないでしょうか?

山内 同感です。繰り返しになりますが殺処分を前提にするのではなく、「生かすためのワクチン」の原則にもとづく対策を検討すべきと考えています。
 日本には欧米のような口蹄疫専門家が不在だったことが、今回の大量殺処分を招いたものと考えています。しかし、2000年、2010年と2回の発生を経験し、口蹄疫ウイルスを用いた研究も行われるようになり、口蹄疫についてウイルス学や疫学などに関する知識・経験が蓄積されてきています。それらが防疫指針に生かされていないのは残念なことですが、早急に今後の防疫対策に生かされることを期待しています。

三谷 世界の口蹄疫防疫対策は、殺処分から生かすためのワクチン接種に変わっています。また、口蹄疫対策は感染の拡大を阻止することが第一ですから、遺伝子検査で陽性畜が確認された場合には殺処分しても、抗体検査陽性畜は直ちに殺処分する必要はありません。さらにワクチン接種した場合は遺伝子検査陽性畜も殺処分の必要はありません。抗体陽性畜の殺処分は清浄国に回復するために今は必要ですが、感染拡大を阻止するための殺処分は必要がないからです。抗体陽性は治癒していることを示しています。人のインフルエンザを予防するためにワクチン接種や患者の外出禁止が有効ですが、治癒した人を永遠に外出禁止にすることは考えられません。

 しかし、日本では健康な家畜も治癒した家畜も、国の専門家が感染拡大の恐れがあると判断した場合は、直ちに殺処分ができる防疫指針になっています。日本は防疫指針を改定して、今では廃止されている韓国の予防的殺処分を合法化してしまいました。また、口蹄疫が発生した農場の全殺処分は農場単位の予防的殺処分のことで、この中には健康な家畜も治癒した家畜も含まれています。殺処分は急ぐ必要がありますから、緊急ワクチンを接種して殺処分は感染畜のみにすることが最も明瞭で殺処分を少なくする方法でしょう

初稿 2012.7.16 2015.4.5 更新


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