自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

ワクチン接種後に殺処分した本当の理由は?

2013-02-23 23:46:27 | ワクチン

「ワクチン接種して殺処分」、なぜ?
誰もが思う素朴な疑問を、NHKのドラマ「命のあしあと」は次のように表現してくれました。
役場「ワクチンを打った牛は、肉牛としては出荷できんとですよ。」
修平「それはどういうことですか!ワクチン打つとでしょう!」
・・・
遥花「そんなのおかしいて!そしたら、これが人間やったらどうなるの?みんなにうつさないために、かかった人を殺すの?」

この素朴な疑問への答えを求めるために、ブログ「牛豚と鬼」では、これまで2本のNHK報道番組を書き起こし、
 2010年5月29日、「A to Z 口蹄疫 感染拡大の衝撃」
 2011年4月22日、「特報フロンティア なぜ”SOS”はとどかなかったのか」
それぞれの番組で語られた問題点を次のように指摘しました。
 「ワクチン接種したら、殺処分しかない」という非情な虚構
 「殺処分神話」を生んだ動衛研村話法

ここでは、農水省の審議会である家畜衛生部会と委員会の議事録を基に、わが国ではなぜワクチン接種して殺処分したのか、その経緯を追跡してみました。

1.口蹄疫防疫指針作成の経緯

 わが国は2000年、2001年と口蹄疫とBSEが発生し、これを契機として特定家畜伝染病防疫指針が作成されました。このうち口蹄疫防疫指針作成の検討を第1回牛豚等疾病小委員会 (2003年12月16日)で公式に実施した議事概要によりますと、ワクチンについては次の論議がなされています。

〇事務局(責任者:栗本衛生管理課長)
ワクチンについては、考え方は変わっていないか。摘発・淘汰(スタンピングアウト)が基本というのは世界の趨勢であることに変わりないか。
〇福所委員(動物衛生研究所海外病研究部長)
コード上、清浄化が遅れるという問題やキャリアとなる問題、発生後の調査における影響などがあり、スタンピングアウト(感染動物の殺処分)が基本という考え方は変わっていない。
〇事務局
イギリスでの牛の処分風景が流れたとき、そこまでするのかという話しもあったようだ。情緒的な意見なのかもしれないが。
〇福所委員
動物愛護の面から見ればそういったこともあるのかもしれないが、経済活動をするうえで処分はやむを得ない。将来的に感染防御が可能なワクチンが開発されれば別だが、現段階ではスタンピングアウト方式の考え方は変わらない。
〇寺門委員(元家畜衛生試験場長)
大量処分しなければならない場合、リングワクチネーション(感染地域の周辺にリング状にワクチン接種して感染拡大を防止する)などやらなければ・・・ワクチン、処分の話は考えないと。
〇柏崎小委員長(元家畜衛生試験場長)
要領の中には規定すべき

 この議事概要を解説しますと、事務局の「ワクチンを使わないのは現在も世界の趨勢か?」という質問に対し、福所委員は「国際ルール(OIEコード)上、 清浄国回復が遅れるという問題やウイルス保有動物( キャリア)が残り、清浄性確認のための抗体検査に支障があり、殺処分による防疫措置は今も変わらない」とし、寺門委員は「(感染動物の殺処分が基本だが、)大量処分の場合はリングワクチンと処分のことは考えないと(いけない)」とし、柏崎小委員長は「『口蹄疫防疫指針』に規定すべき」としています。なお、衛生管理課は現在、動物衛生課、家畜衛生試験場(家衛試))は現在、動物衛生研究所(動衛研)になっています。

 この論議は口蹄疫防疫指針(2004年12月1日:農林水産大臣公表)に次のように規定されました。
第1 基本方針
1 殺処分等
2 移動の規制及び家畜集合施設における催物の開催等の制限
3 ワクチン
1.現行のワクチンは、口蹄疫の発症の抑制に効果があるものの、感染を完全に防御することはできないため、無計画・無秩序なワクチンの使用は、口蹄疫の発生又は流行を見逃すおそれを生じることに加え、清浄性確認のための抗体検査の際に支障を来し、清浄化を達成するまでに長期間かつ多大な経済的負担や混乱を招くおそれがある。このため、ワクチンの使用については、慎重に判断する必要がある。
 このため、我が国における本病の防疫措置としては、早期の発見と患畜等の迅速な殺処分により、短時間のうちにまん延を防止することが最も効果的な方法である。
 万が一、殺処分と移動制限による方法のみではまん延防止が困難であると判断された場合であって、早期の清浄化を図る上で必要がある場合には、ワクチンの使用を検討することとなるが、ワクチンの使用に当たっては、農林水産省と協議し、計画的な接種を行うことが必要である。

 つまり、このワクチンの規定では、前段でワクチンについての問題点を指摘し、中段ではワクチンを使用しないで殺処分を基本とすることを示し、後段において殺処分と移動制限では感染拡大を阻止できなくなったときワクチンの使用を考えるが、使用に当たっては農林水産省と協議が必要があるとしています。

 このように福所委員の意見は、前段と中段に取り入れられ、ワクチンは使用しないことが基本とされていますが、ワクチンを使用する場合は農林水産省と協議するとあります。寺門委員と柏崎小委員長が指摘したリングワクチンと殺処分の規定は防疫指針には組み込まれなかったので、今回の「ワクチン接種して殺処分」したのは農林水産省の決定、すなわち動物衛生課長の決定と解釈できます。
 動物衛生課長はワクチン接種後に殺処分をしたいが、殺処分の補償を法的に決めていなかったために、ワクチン接種が大幅に遅れたということでしょう。

2.「ワクチン接種国は清浄国と認めない」という日本の論理矛盾

 動物衛生課長はワクチン接種後の殺処分を何を根拠に決定したのでしょうか。清浄国日本は輸入により絶対にウイルスを侵入、潜伏させないという強い信念と経済的理由からか、「ワクチン接種国は清浄国と認めない」という貿易の論理を生み、これが「ワクチンを接種したら殺処分する」という防疫の論理を派生させました。これら科学的でない論理は防疫指針に規定できなかったけれど、関係者にとっては当然の動衛研村の掟であったということでしょう。

 この「ワクチンと殺処分」についての非科学的な論議は、科学的に検討して規定された国際ルール(OIEコード)と矛盾し、関係者の間にさえ混乱をもたらしている状況が、2005年4月28日に開催された第3回牛豚等疾病小委員会及び第15回豚コレラ撲滅技術検討会の速記録(3.その他)に詳細に残されています。この速記録から口蹄疫ワクチンに関係する部分を抜き出して見ましょう。 詳細は速記録にリンクしていますので、ここでは簡潔に抜き出します。

池田国際衛生対策室長
口蹄疫につきまして、OIEのコードの中でもワクチンを接種して清浄な国・地域が認められているところでございます。 一方、我が国の口蹄疫に対する対応は、これまで一貫してワクチンを打っている国は清浄国とは認めませんという立場をとってきたわけであります。ワクチンも精製度が低いものであれば例えば非構造蛋白が含まれて、非構造蛋白が牛の中でも生産されてしまう。OIEでは、非構造蛋白の検出をもってウイルスを野外とワクチンと分けるというようなことを言っているわけですが、それは実態上なかなか難しいのではないか。その辺についてご意見を伺わせていただければと思います。

柏崎委員長(元家畜衛生試験場長)
事務局が欲しい回答は、ワクチンを接種しても、そういうところからウイルスの侵入、そのリスクはいかがなものでしょうかということだと思うのです。それは危険であるとか、そういう意見が言える根拠はあるやなしやということだと思うのですが。

藤田委員(OIEアジア太平洋地域代表:元農林水産省畜産局衛生課長)
OIEの立場からすると世界の科学的なコンセンサスを得ながら決めているということだと思うのですが。

寺門委員(元家畜衛生試験場長)
この間の高病原性鳥インフルエンザのときもお話が出たのですけれども、ワクチンは打っていても、それがOIEの基準であるならばとめることはできない。OIEでは、そこが清浄であれば、打っていてもよろしいと、そういう形になってくるわけですね。それに対して、それでは困るというのは、こちらとしては科学的な形でぶつけなければいけないわけでしょう。(こちらがワクチンを禁止しても)一方でワクチンを打っているものを入れてもいいよという国際的な話が出てくると、一体どうするのかということで頭が混乱してしまうのですよ。

池田国際衛生対策室長
混乱しないために科学的な根拠があれば一番いいのですけれども、ともかく日本の場合はバリバリの清浄国なわけで、その立場に立って何が言えるかということだと思うのです。少しでも危険性があるとすれば、そこを主張することによって我々の立場を表明できると思うのです。反論できるところを教えていただければ大変ありがたいということでございます。

寺門委員
そういう場合には科学的なものはデータをもってしないと、ただフィーリングの世界になってしまう。文献を探してきて文献をぶつけることもいいかもしれませんけれども、足らないところは、国内においても具体的なデータをつくっていくとか、そういうふうな形を考えないと具体的な対応案は出てこないのではないか。

柏崎委員長
藤田委員、何かありますか。

藤田委員
国際的なスタンダードで科学的に予防注射をしてオーケーだと決めているということになると、今も話がありましたように、それはこういう点でだめなのだという科学的根拠を一点つける。 もう一つの方法は、これはOIEが言うのがいいのかどうかですが、そういうことを証明する輸出国の我々でいうとベテリナリー・サービシス(獣医療組織)のエバリュエーション(評価)をして、果たしてその証明がきちんとしているかどうかという、それは後の方法として、あることはあるんです。

柏崎委員長
わかりやすく言いますと、ワクチン接種で発生していないといっても中身はいろいろありますよと。衛生のステータスで、危険な地域でもあり得る可能性はあると。

藤田委員
サーベイランスはこういうことでどうやっていますか、何はどうやっていますか、この証明はそれで正しいですかという輸出国の評価を輸入国はできるようになっていますので。

柏崎委員長
それはインターナショナルに認められるんですか。

藤田委員
認められます。

柏崎委員長
わかりました。貴重な意見をありがとうございました。

熊谷委員(東京大学教授)
少なくともヨーロッパで使っている口蹄疫のワクチンは精製がかなり進んでいるから、これは大丈夫だろうと。だから、エマージェンシー・ワクチネーションに繰り入れてやろうと(緊急ワクチン接種は認めようと)。ただ、危険性はまだありまして、さっき言ったような100%とか、完全に区別ができるかといいますと、それはまだ否定し切れない。ただ、少なくともヨーロッパでつくったワクチンは、今考え得る中でベストの鑑別試験をやれば、そういう危険性は非常に少なくなり、実用的だろうというふうに言われているように思うのです。

清水(実)委員
抗体識別の話はワクチンの話と抗体の検出系の話の両方にかかわることだと思うので、
動物衛生研究所では抗体アッセイ系の検討をしておりまして、
一部については台湾で野外試験等もやっているんです。
私は詳しいデータを知らないので話さなかったのですけれども、
ぜひ海外病研究部に相談していただければと思います。

柏崎委員長
どうもありがとうございました。

 この速記録には、福所委員(動物衛生研究所海外病研究部長)の発言が記録されていませんから、会議は欠席していたのでしょう。しかし、福所委員は第1回牛豚等疾病小委員会 (2003年12月16日)で、「発生後の調査における影響がある」と抗体識別検出にも否定的であったことは先に説明した通りです。
 

3.「ワクチンを打っている国は清浄国とは認めない」という日本の掟の破たん

1) 日本でワクチン接種を認めないゼロリスク論の破たん
 「ワクチンを打っている国は清浄国とは認めない」という日本の掟は、ゼロリスクを求める願望かもしれませんが、ゼロリスクの証明は「悪魔の証明」と言って事実上不可能です。ワクチンを接種する、しないにかかわらず、清浄国に口蹄疫ウイルスが存在しないことを証明するのは、全頭検査をしない限り不可能です。また、全頭検査をしても、検査法が100%正確かどうかを疑いだすと、これは「悪魔の証明」というよりも、統計学を無視した論議です。そういえば動衛研村はBSEの疫学調査でも、代用乳が感染源とは考えられないと統計学を使って嘘をつき、BSEは微量の肉骨粉で感染するので、いつ、どこで発生してもおかしくないと講演し、NHKで解説していた教授を思い出します。
 国際ルール(OIEコード)は、清浄国で緊急ワクチンを接種した場合は、移動制限区域内に口蹄疫感染牛がいないことをNSP(非構造体タンパク質)抗体検査で証明すれば、ワクチン非接種清浄国の回復を認めるというもので、ワクチンもNSP抗体検査も実用化できていることを認めています。この国際ルールに日本はワクチン接種はキャリアを生むなどのゼロリスク論を持ち出して反論しようとしますが、科学的に証明できない問題なので、動衛研村自身が混乱している状況をよく速記録は残してくれました。しかし、あまりに非科学的な論議を公開するのは問題と自覚したのか、この速記録を最期に議事録は非公開となってしまいましたが。

2) 輸入国は輸出国の獣医療組織の評価ができる。
 ワクチン接種した場合の防疫体制や検査体制に信用が置けない場合は、輸入国は輸出国の獣医療組織等の評価ができます。OIEによる清浄国復帰が認められても、国際貿易では世界貿易機関(WTO)のSPS協定(衛生と植物防疫のための措置)にもとづいて、輸出相手国と個別に協議して清浄性を認めてもらわなければなりません。日本は2011年2月に清浄国に復帰しましたが、米国が日本からの牛肉輸入を認めたのは2012年8月でした。藤田委員(OIEアジア太平洋地域代表)は身内の議論ではこのことを指摘していますが、一般にはこのことは説明されていません。

3) OIEコードの清浄国認定とワクチン接種動物の輸出禁止規定
 OIEで清浄国回復が認定されてからアメリカへの牛肉輸出が認められたのに1年半必要でしたが、OIEの清浄国認定においても移動制限解除後6ヵ月、清浄国回復申請後4ヵ月必要でした。2000年にはワクチンを接種していませんので、移動制限解除後3ヵ月、清浄国回復申請後1ヵ月で清浄国に認定されています。
 緊急ワクチンを接種した家畜を全殺処分した場合もOIEコードでは3ヵ月で清浄国に復帰できるはずですが、OIEの清浄国認定においても申請国の防疫体制や検査体制が評価されますので、日本が移動制限を解除後に清浄性を確認したことが問題とされたのではないでしょうか。 「ワクチンを打っている国は清浄国とは認めない」とワクチンを打って全殺処分をしたのに、3ヵ月で清浄国回復できなかったことは、皮肉で不名誉なことです。
 さらに、OIEは日本のような国があるからでしょうか、ワクチン接種動物の輸出は禁止しています。したがって、「ワクチンを打っている国は清浄国とは認めない」ことは、恥ずかしいほどに根拠のない主張なのです。

4) 「ワクチンを打っている国は清浄国とは認めない」という掟が宮崎を破たんさせた
 「ワクチンを打つと口蹄疫に感染しにくくなります。ただ、完全に防ぐことはできません。感染 を確実に断ち切るためには、殺処分しなくてはなりません。」
 
動物衛生課長は「動衛研村の掟」を守るために、このような動衛研話法でワクチン接種後の殺処分を強行して、宮崎に口蹄疫の大惨事をもたらしました。このような動衛研村の人々を、最近、国際獣疫事務局(OIE)第80回総会は理事や委員に選出し、金賞で表彰するという不思議な決定をしています。OIEが国家間の政治的利害関係で運営されているためなのか、動衛研村の人々に目覚めてもらいたいためでしょうか。

4、日本に対する世界の信用を取り戻すために

 口蹄疫防疫指針は日本で口蹄疫が発生したとき、いかに被害を少なく早く終息させるかを考えて公表されたものですが、ゼロリスク論を持ち出して大惨事にしてしまいました。動衛研村にはその自覚と反省があるのでしょうか。動衛研村話法は日本のメディア、政治家、学者、行政の間を利害を伴いながら循環して”殺処分神話”として定着し、農家や獣医師を信じ込ませたとしても、世界の口蹄疫研究家は誤魔化せません。2010年6月7日に川島家畜衛生課長(現動物衛生課長)に届いた手紙では、ワクチン接種して殺処分しないように忠告しています。この世界からの忠告を無視して、健康な家畜を指定家畜として予防的殺処分することを合法化してしまいました。”殺処分神話”を守ろうとする動衛研村話法は世界の信用を失っていますが、お国のために働いた農家と獣医師の名誉(敗戦後のように?)を守ることで許されるのでしょうか。日本の恥ずかしい口蹄疫防疫指針は見直されようとしていません。

 旧防疫指針は殺処分を伴わないワクチン接種を想定していたと考えるのが普通ですが、改定された防疫指針は殺処分を想定したワクチン接種となっています。これは2010年の大惨事の原因となった「殺処分を伴うワクチン接種」を反省せず、明日発生するかも知れない口蹄疫に、殺処分の防疫措置で備えているということです。
 殺処分は「必要ない」というよりも、「してはいけない」理不尽な戦争と同じです。わが国は”大東和共栄圏”という神話で侵略戦争をしましたが、お国のために戦った国民の名誉(?)を守るためなのか、その戦争を真摯に反省しようとしていません。しかも、二度と戦争はしない(させない)ために作った憲法九条を、戦争の反省をしないまま改正しようという勢力が力を増しています。改憲村と動衛研村の体質は全く同じで、これが日本の体質だとすると、恥ずかしく、悲しく、悔しいことです。みなさん、騙されないように、若くて素朴な気持ちを持ち続けてください。

 美しい日本の山河を汚染し、住み慣れた土地から人々を追い出し、家族や地域社会を崩壊させた悲惨な原発事故を私たちは経験しました。しかし、”安全神話”と”経済成長神話”を守ろうとする原子力村話法で、原発事故に真摯に向き合おうとしない日本、その曖昧で隠ぺい体質の日本に対する世界の信用をいかに取り戻すかという強い危機感をもって、国会原発事故調査委員会は、インターネットで委員会の様子を英語の同時通訳付きで発信しました。
 口蹄疫対策に真摯に向き合おうとしない日本。口蹄疫の惨事は、「ワクチンを打って殺処分」することを、手当金に惑わされて合法化した国会にも責任があります。日本の口蹄疫対策に対する世界の信用を取り戻す危機感を持って、国会口蹄疫惨事調査委員会を立ち上げて欲しいものです。

初稿 2013年2月23日 更新1 2013年2月24日 更新2 2013年2月25日 更新3 2013年2月26日

 


 

 

 

 
 

 


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