自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

9.NSP抗体検査を問題にしてワクチンを否定する根拠はない

2015-04-08 21:22:29 | ワクチン

三谷 口蹄疫に感染したかどうかは抗体検査で確認できますが、これまでのワクチンでは自然感染でできた抗体とワクチン接種でできた抗体を識別できませんでしたから、ワクチン接種した家畜は感染の可能性があるとして全頭殺処分するしかありませんでした。しかし、NSPフリー・ワクチン(精製ワクチン)の製造が可能となり、NSP抗体陰性であればワクチン接種していても感染していないことが証明できるようになりました。
 2010年の宮崎口蹄疫で使用されたのはNSPフリー・ワクチンでしたが、国の専門家はその説明をしていませんし、NSP抗体検査もしていません。なぜ、NSP抗体検査をしなかったのかという質問に対しては、NSP抗体検査技術が完璧でないとか、多数の家畜をNSP抗体検査するのは非現実的だと説明しています。
 しかし、抗体検査は感染畜がいない清浄国になったことを証明するために必要で、ワクチン接種をしているかいないかは関係なく必要です。ワクチン接種した場合にNSP抗体検査が必要なだけです。予防ワクチンを接種している台湾は定期的にNSP抗体検査を実施しています。
 このように実施例があるNSP抗体検査を、完璧でないとか多数に検査するのは非現実的だと言うのは、キャリアにゼロリスクを求めるのと同じで、ワクチン接種を否定するための説明にすぎないのではないでしょうか?それとも感染拡大が終息したことを証明する抗体検査と、感染を拡大させる恐れのあるものを早く見つける遺伝子検査を混同しているのでしょうか?

山内 キャリアにゼロリスクを求めているためと思います。英国動物衛生研究所で行われたワクチン接種動物に口蹄疫ウイルスを接触感染させた実験では、キャリアになる牛がおり、それらの一部ではNSP抗体を検出できない可能性があることが2005年に報告されています。そして、清浄国で発生した際にNSPフリーワクチンの応用については科学的データがないため理論的可能性が問題になっているのだろうと思います。2010年の宮崎の発生はマーカーワクチンが用いられた最初の例です。この際にワクチン接種家畜についてNSP抗体検査や遺伝子検査のためのサンプルが採取してあれば、貴重な成績が得られたはずです。

三谷 ワクチン接種家畜のNSP抗体検査や遺伝子検査は専門家の立場なら当然したいと思うはずですが、それを拒む政治的力が働いたのでしょうか。日本の口蹄疫対策については問題が多すぎますね。
 キャリアの問題やNSP抗体検査の問題点を列挙してワクチン接種を否定するのは、「生かすためのワクチン」を準備せず、根拠もなく国際貿易を意識して「産業を守るため」には殺処分しかないと考えている、あるいは行政の無謬性を意識して殺処分しかないと主張し続ける背景があるのではないでしょうか。いずれにしましても、国の専門家が「最新の科学的知見と国際的動向」に真摯に向き合い被害を最小にする意志を持たないで、キャリアの問題と同様にNSP抗体検査にゼロリスク論を吹聴して現場を混乱させるのは、科学者として恥ずべき行為であり、最も慎むべきことだと思います。

初稿 2012.8.12


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1 コメント

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「殺処分」の目的は何か? (野中公彦)
2012-08-22 20:13:19
「殺処分」の目的は何か?

口蹄疫に罹った動物の殺処分の目的は、ウイルスを拡散させないという一点しかない。であるから迅速性とワンセットでしか蔓延防止に効果が無いことは言うまでもない。

家伝法上2010年宮崎での口蹄疫対応の殺処分に理由があるとあえて言えるかもしれないのは、せいぜい1例目、6例目として発表されている初期とされているケースだけである。

「殺処分待機」など当然ながら家伝法に規定がない。
規定があるのは緊急ワクチンである。

目的の無い動物殺しだけをやっていれば何の効果も無い。
伝染病が流行するのは必然である。みだりに動物を殺すことは、法で禁止されている。

農水省が口蹄疫対応であからさまに犯罪をやったが、この国には、あらゆるチェック機構が全く働かない免疫不全国である。悪徳官僚らはそのことを熟知している。


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