自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

10.ワクチン接種と国際貿易と国内流通問題

2015-04-08 21:22:55 | ワクチン

三谷 「口蹄疫は感染が確認されたときには、その農家の家畜はすべて感染していると判断すべき」とか「口蹄疫を撲滅するには殺処分して埋却するしかない」という考え方に従えば、感染の疑いがある農家の家畜全頭を殺処分し、埋却するしかありません。しかし、殺処分を最小にしてウイルスの感染拡大を阻止するには、ワクチン等を活用して「口蹄疫との共生」を考える必要がありますが、国はなぜワクチン接種した家畜を全頭殺処分したのでしょうか?

山内 OIEコードでは、清浄国で口蹄疫が発生した場合の清浄国復帰の条件として、(a)感染・疑似患畜をすべて殺処分した後3ヶ月、(b)感染・疑似患畜とワクチン接種家畜をすべて殺処分した後3ヶ月、(c)感染・疑似患畜とNSP抗体陽性家畜をすべて殺処分した後6ヶ月という3つの選択肢があり、今回の宮崎の場合は(2)の条件でを選択しましたが、重要な点は、政府が(c)という選択肢のあることを国民に伝えず全頭殺処分しか方法がないといった対応を行ってきたことです。また、OIEによる清浄国復帰が認められても、国際貿易では世界貿易機関(WTO)のSPS協定(衛生と植物防疫のための措置)にもとづいて、輸出相手国と個別に協議して清浄性を認めてもらわなければなりません。このことについての説明もなかったと思います。日本は2011年2月に清浄国に復帰しましたが、米国が日本からの牛肉輸入を認めたのは2012年8月でした。

三谷 政府は清浄国復帰を3ヵ月早める目的から(b)の選択をしましたが、OIEから清浄国回復が認められるのに(c)と同等の6ヶ月以上が必要でした。また、米国が日本からの牛肉輸入再開を認めたのは、OIEから清浄国回復が認められてさらに1年半も経過しています。政府が(b)を選択した理由はこれらの事実で完全に否定されています。このことを政府はどう説明するのでしょうか。ことに口蹄疫発生中の疫学調査をせず、移動制限解除後に清浄性確認のためのサーベイランス(抗体検査)をするという不可解な対応をしています。このことと清浄国認定が遅れたことと関係があるのではないでしょうか。
 また、ワクチン接種を理由に殺処分した農場には感染源が疑われている大型農場の関連農場が含まれていたという地元の不信感がありますが、この点は第12項で触れたいと思います。

 いずれにしても貿易対策と防疫対策の問題を分けて考える必要があり、防疫対策の専門家は感染拡大をいかに早く阻止して被害の拡大を防止するかに専念すべきであり、「殺処分して埋却するしかない」ということを前提にした防疫演習ではなく、「最新の科学的知見と世界的動向」に関する情報収集をして、「生かすためのワクチン」を防疫対策に取り入れるように真摯に取り組んで欲しいものです。

 もう一点、国際貿易とワクチン接種の関係ですが、ワクチン接種した家畜とその生鮮生産物はOIEコードにより輸出できません。日本は緊急ワクチン接種したものは輸出しなければ良いだけです。一方、ウルグアイのように予防ワクチンを接種している清浄国は、全頭ワクチンを接種しているので、一部ではなく国として輸出できないことになります。また、日本が清浄国に回復する間の短い期間のためにウルグアイが日本への輸出体制を整える努力をすることも考えられません。
 それよりも国内流通で出荷が遅れたり、ワクチン接種した家畜の価格が暴落することを恐れて、全頭殺処分を求める政治的力が強いのではないでしょうか。ことに鶏や豚は生産のサイクルが早いので、出荷制限やワクチン接種よりも殺処分で補償してもらった方が良いというグループが政治的力を持ち、国もその方が簡易だと考えているということもあるでしょう。

 これに関連して、OIEコードでは口蹄疫清浄国をワクチン接種清浄国と非接種清浄国に区分しています。ワクチン非接種清浄国はワクチンを使用しないで口蹄疫発生を終息させた場合は3ヵ月で清浄国回復が認められる条件を満たしますが、緊急ワクチンを接種した場合は6ヵ月が必要です。なぜワクチンを接種したら清浄国回復が3ヵ月遅れるのか科学的な理由が分かりません。一方、ワクチン接種清浄国で口蹄疫が発生した場合もNSP抗体陽性畜を殺処分することで6ヵ月後に清浄国回復が認定されますが、清浄国回復が認定されてもワクチン接種清浄国と非接種清浄国に区分されます。このように同じ清浄国をワクチン予防接種と緊急接種によって2つに区分する理由も分かりません。清浄国は清浄である点ではいずれも同じあり、これらワクチン接種による清浄国の区分や清浄国回復条件が違うのは科学的根拠があるのでしょうか?

山内 ワクチン接種清浄国と非接種清浄国という取り決めは、NSPフリーワクチンが認められる前から設けられていたはずです。ともかく、現在でもこのような非科学的な区分が残っている背景には、口蹄疫ワクチンの効果は予防ではなく発病防止という誤った見解があると思います。現在のNSPフリーワクチンの信頼性についてOIEの専門家委員会でどのような議論が行われているのか分かりません。

三谷 「予防ではなく発病防止という誤った見解」と解釈すればよく理解できますね。このOIEコードの非科学的な部分を改定しようとしているのか、改定の方向に反対しているのか、日本のOIE専門委員の立場は不明ですが、貿易や国内流通の問題は生産、流通および消費者の理解で解決していくべき問題であり、家畜衛生の問題ではありません。家畜衛生にとっては口蹄疫が発生した場合には、家畜を生かして被害を最小にして終息させることが使命だと思いますから、「口蹄疫を撲滅するには殺処分して埋却するしかない」という考え方は見直す必要があるのではないでしょうか?

山内 世界はウイルスにとって地球村となっています。口蹄疫ウイルスもさまざまな経路で侵入する可能性があります。その現状をしっかり認識した上で、ご指摘のように「生かすためのワクチン」を活用することが必要です。英国農務省は2001年まで口蹄疫対策は日本と同様に殺処分のみといった立場をとってきました。しかし、王立協会などの強い勧告を受けて「生かすためのワクチン」に方向転換しています
 なお、世界の研究は「生かすためのワクチン」に重点を置いています。現在の口蹄疫ワクチンは口蹄疫ウイルスを大量に増殖させて不活化したものですが、米国は10年ほど前から生きた口蹄疫ウイルスを使わないで製造できる組み換えワクチンの研究を行っていて、その結果開発されたワクチンについて最近ベンチャー企業に条件付きの製造が承認されました。まだ実用化にはもう少し改良が必要なようですが、米国本土での製造が承認された最初の口蹄疫ワクチンとして、「生かすためのワクチン」対策を支えるものと期待されています。
 日本もこれまでの殺処分一辺倒の方針を見直すべきです。

初稿 2012.9.5


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