自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

我々は物語を生きている~経済と貨幣の歴史①

2019-08-27 14:55:30 | 物語

 お金は使うとなくなり、お金がないと生きていけない。だから仕事をして稼ぐ。でも給料が安いと、仕事をしても仕事をしても、生活は楽にならない。規模拡大してコストダウンが経済の常識というが、それでは小規模経営は成り立たない。しかも大量生産は地球や自然に負担をかける。我々のお金や経済についての常識が、我々を苦しめる。物々交換は今でも行われることがあるが、物や労働等の価値を交換する媒介としてお金がある。では、そのお金はどこで生まれるの?市中銀行で皆さんが借金することにより生まれている。銀行にお金が溢れているわけではない。銀行が皆さんの「借金返済」を信用してお金を貸し出すことでお金が生まれる(信用創造)。お金の貸し借りは、銀行口座に記帳していたので「万年筆マネー(通帳マネー)」とも言った。現在なら「キーボードマネー」と言うところか。銀行の信用創造(帳簿操作)でお金と利子が生まれる。銀行だけがどうしてお金と利子を作れるのか?

 「学校では教えてくれない「お金の本質」。それは物々交換ではなく信用取引に始まった〈Rootportの世界史で見るお金〉。貨幣の本質は信じる心、すなわち信用である。しかも譲渡することが可能な信用である(フェリックス・マーティン『21世紀の貨幣論』(2014年))。」貨幣について考えるには、貨幣経済が成立する以前からの人類の行動、「なぜ人は他の人にモノを与えるのか?」について考える必要がある。

 「経済学の父」と言われるアダム・スミスは「見えざる手」の『国富論』で知られているが、人間は利己的で自分勝手な生き物のはずなのに「なぜ社会は秩序を保ち道徳的に振る舞えるのか?」と考え抜いた。『国富論』の前提となった『道徳感情論』では、人間は他者という存在と「共感」できるので、見えざる手によって富者の富は、貧しい人へも公平に分配されるはずだと説いた。松岡正剛氏は貨幣経済の前の実体交換の経済社会(「社会に埋め込まれた経済」)について、マルセル・モースの『贈与論』とカール・ポランニー『経済と文明』を紹介(1507夜0151夜)し、貨幣経済の前の実体交換の古代社会では、「互酬的な贈与の経済」が社会に埋め込まれ、道徳と経済は重なっていたと解説している。ポランニーは「社会に埋め込まれた経済」であった古代社会が、現在では「社会のほうが経済」によって支配されていると批判している。しかも、貨幣の支払い、尺度、交換手段のすべてに言語が共通しているとし、経済の起源には言語にも見られるようなソーシャル・コミュニケーションの本質が関与していると見た。
 宗教も貨幣も信用することで成立する物語である。この世は人それぞれの経験から生まれ育つ物語の世界であり、我々は一人一人の物語を生きているとも言えよう。文明は物語の原点である言語を文字や数字として残すことにより始まったように、社会に埋め込まれていた「互酬性や贈与の経済」を貝とか銀とかに代替することで、貨幣が生まれたと説明することもできよう。
 参考:モース『贈与論』を超コンパクトに要約する
     マルセル・モース『贈与論』と今日
     義務はどこから来るのか?マルセル・モース「贈与論」
     1507夜『贈与論』マルセル・モース|松岡正剛の千夜千冊
     0151夜『経済の文明史』|松岡正剛の千夜千冊
     言語の起源 文字の歴史


 貨幣が生まれ、貨幣が経済を支配するようになると、道徳と経済は分離され、社会の原点である人と人のつながりが利害関係により希薄となる一方で、貨幣経済は世界に拡がってグローバル化し、文明の発達は社会から自然、さらに地球までも破壊しつつある。
 「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」 

 イスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリ教授は著作『サピエンス全史』で、「人類の台頭はいかにして起こったか?」(動画:日本語TED)を問い、七万年前から三万年前にかけて、人類に言語から物語の想像力が生まれ、フィクションを信じる「認知革命(新しい思考と意思疎通の方法)」が登場したという。想像を現実と信ずることで宗教や貨幣も生まれ、生き方を規定するルールを生む側から権力も生まれた。何故、「認知革命」が7万年前から3万年前に起きたのか?この時期は最終氷期と重なり、今から7万年前から7万5千年前に、「インドネシア、スマトラ島にあるトバ火山が大噴火を起こして気候の寒冷化を引き起こし、その後の人類の進化に大きな影響を与えた」という「トバ・カタストロフ理論」が関係していると思われる。また、ロシアの極寒の大地に、ヤナRHSという3万2千年前の遺跡近傍で、毛深いマンモスの大量蓄積も見つかっている。
 「認知革命」の物的証拠は一点では明示しにくいが、洞窟壁画は祈りのために画いたものと考えれば、ある意味では想像力の誕生を説明できる一つになるかも知れない。いずれにしても、寒冷化にもかかわらず、「われわれ現生人類(ホモ・サピエンス)はアフリカに起源し、本格的に他の大陸への拡散を開始したのは約5万年前」と考えると、「認知革命」によって起きた移動とも考えられよう。以上が人類進化に関する私の理解だが、詳しくは次のNHK番組を紹介しておきたい。

 衝撃の書が語る人類の未来~サピエンス全史 ホモ・デウス 
 TED日本語:人類の台頭はいかにして起こったか?

 参考:認知革命を振り返る / 書評『サピエンス全史』
     人類の誕生とその進化:人間と動物の境界をめぐって
     アジアにおけるヒトの拡散―近年の研究成果と動向― p.76-89
     総説 現代人の起源―研究の現状と将来の展望― 海部陽介
     ブログ「雑記帳」:海部陽介「現代人の起源―研究の現状と将来の展望―」



初稿 2019年8月27日

最新の画像もっと見る

コメントを投稿