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チューリヒ、そして広島

スイス・チューリヒに住んで(た時)の雑感と帰国後のスイス関連話題。2007年4月からは広島移住。タイトルも変えました。

お薦めの1冊:『死海文書 VIII 詩篇』

2018年12月30日 13時29分03秒 | 紹介
『死海文書 Ⅷ 詩篇』
(勝村弘也・上村静訳、ぷねうま舎、2018年6月、3600円+税)

1946年から47年にかけて、死海近くのある洞穴で発見された巻物に端を発し、次々と文書の断片が見つかったことから、「死海文書」をめぐる歴史は始まりました。建造物の遺跡発掘も行われ、一連の文書を所有していた宗教共同体の存在も明らかになっています。「クムラン教団」などと呼ばれているこの集団は、ユダヤ教の一派で、紀元前140年頃から紀元後70年頃まで、禁欲的な共同生活を営んでいたと見られています。

この「クムラン教団」が所有していた文書が翻訳出版されることになり、その第1弾として詩篇(「感謝の詩篇」「外典詩篇」など)が刊行されました。冒頭の「死海文書とは何か」によれば、800余りにも上る死海文書のうち、聖書写本を除く約600文書から「ある程度意味を成す分量の文章が残っているものすべてを訳出する」(xii頁)という壮大な企画の始まりです。これまで死海文書については、英語版やドイツ語との対訳版を参照するか、日本語では、1963年に山本書店から出された『死海文書:テキストの翻訳と解説』を見るくらいしか出来ませんでしたが(この古い書物についての評価が本書にはきちんと書かれていないようです)、この企画が完成すれば、日本語でも原典からの丁寧な翻訳を味わうことが可能になるわけです。四半世紀ほど前、死海文書にはキリスト教に関する不都合な真実が描かれている(からカトリック教会が隠蔽しようとしている)とか、イエスに関する新しい事実がわかるとか、様々な憶測が飛び交ったものでしたが、そういった邪推は別としても、キリスト教成立と時期を同じくするユダヤ教集団がどのような信仰を持っていたのか、それはキリスト教とどのような共通点や相違点を持っていたのかといった事柄は、やはり私たちの関心を大いにひきつけます。

全12冊が計画されているこの『死海文書』、正確な翻訳を作り出す訳者の苦労は並大抵のものではないはずですが、この貴重な書物が安価で提供されることにも驚きと感謝を覚えます。訳者の解説に助けられながら、訳文を追っていきたいと思います。旧約正典の「詩篇」と比べてみるのも面白いかもしれません。


(最近こちらのブログが更新できていないので、「広島聖文舎便り」に連載している紹介文を転載することにしました。「広島聖文舎便り」は毎月1回、紙版で発行されている通信です。)

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