チューリヒ、そして広島

スイス・チューリヒに住んで(た時)の雑感と帰国後のスイス関連話題。2007年4月からは広島移住。タイトルも変えました。

お薦めの1冊:『クリスマスの原像』

2017年12月11日 14時58分58秒 | 紹介
クリスマスの原像 福音書の降誕物語を読む
(嶺重淑著、かんよう出版、2017年11月、1500円+税)

 クリスマスが近づくと、今年はどういう話をしようかと頭を悩ませる説教者は少なくないのではないでしょうか。何しろ、クリスマスで取り上げる聖書箇所は限られており、毎年同じような聖書箇所から違う話を引き出して語らないといけないのですから、その苦労は察するに余りあります。その一方で、クリスマスの行事を繰り返しているうちに、自分の中で降誕物語のイメージが固定して、ついつい聖書が語る降誕の出来事に尾ひれをつけて語ってしまうという危険も、「クリスマス慣れ」には潜んでいます。毎年繰り返されるクリスマス。だからこそ、聖書が語る降誕物語とていねいに向き合い、聖書が語るクリスマスのメッセージとは何かに耳を傾ける静かな時間が必要です。

 聖書とのそのような対話を助けてくれる格好の書物がこのたび出版されました。本書は、マタイ福音書とルカ福音書が語る降誕物語の注解ですが、全体で約150頁という薄さながら、段落の構成や物語の起源、各節の説明、そして段落ごとにどのようなメッセージが読み取れるかを詳しく、それでいて読みやすく示してくれる最良の手引き書です。ルカ福音書研究の第一線に立つ新約聖書学者であり、同時に大学の宗教主事として学生にキリスト教のメッセージをわかりやすく伝えている著者の「伝える力」が遺憾なく発揮されています。著者の牧師としての経験から出た配慮でしょうか、説教者が準備のためにひもとくのにもちょうど良い長さと情報量であるように思いました。

 もちろん説教者だけでなく、クリスマスの聖書物語をていねいに自分で読みたいと思っているあらゆる人にお勧めします。聖書の物語にはこのような意味が込められていたのかと、今さらながら唸ることがきっとあるでしょう。クリスマスが近づいた今、まず手に入れたい一冊です。出版が近づいている著者のNTJルカ福音書注解(日本キリスト教団出版局)もますます楽しみになってきました。


(『広島聖文舎便り』2017年12月号掲載の拙稿です)