チューリヒ、そして広島

スイス・チューリヒに住んで(た時)の雑感と帰国後のスイス関連話題。2007年4月からは広島移住。タイトルも変えました。

WUNT 70周年

2020年07月14日 14時36分52秒 | Weblog
ドイツ・テュービンゲンの老舗出版社、Mohr Siebeck 社が出している、新約聖書研究叢書、Wissenschaftliche Untersuchungen zum Neuen Testament、略して WUNT が、第1巻の刊行から70周年を迎えたとのこと。

WUNT は1949年、ヨアヒム・エレミアス(ゲッティンゲン)とオット・ミヘル(テュービンゲン)によって始められました。写真の文章によれば、当時はブルトマン学派が主要な新約研究叢書を支配していた時代で、WUNT は時流にそぐわないような研究、たとえば古代ユダヤ教や新約周辺世界および時代史についての研究を出版しようとしたそうです。



WUNT 第1巻として1950年に刊行されたのは、K. G. クーンの『18祈祷と主の祈りと韻』(K. G. Kuhn, Achtzehngebet und Vaterunser und der Reim)。わずか50数頁の研究書ですが、今でも電子書籍版で手に入ります(79ユーロ)。第2巻は、H. ビーテンハルト『原始キリスト教と後期ユダヤ教における天の世界』(Hans Bietenhard, Die himmlische Welt im Urchristentum und Spätjudentum)。1951年刊行ですが、今ではお目にかからなくなった「後期ユダヤ教」(Spätjudentum)という表現が時代を感じさせます。いずれの書物も、WUNT 創設の精神に適った内容です。

WUNT は1974年から第2叢書(2. Reihe)を設け、博士論文をこのシリーズから次々に出していきますが、これは当時の監修者だったマルティン・ヘンゲルの功績です。この第2叢書からは、佐藤研 (Q und Prophetie, 1988) や嶺重淑 (Besitzverzicht und Almosen bei Lukas, 2003) 、また遠藤勝信 (Creation and Christology, 2002) も出版されています。自分の学位論文もこの叢書から出してもらいました (Glaube zwischen Vollkommenheit und Verweltlichung, 1997)。



WUNT 2. Reihe の第1巻は、M. L. アッポルド『第四福音書における「一つ」というモチーフ』(M. L. Appold, The Oneness Motif in the Fourth Gospel, 1976)。第1巻が英語なのは、ヘンゲルが目指した WUNT の国際化を反映しているのかもしれません。

WUNT は現在450巻(刊行準備中のものを含む)、第2叢書は527巻(同)まで出ています。過去に出された分はいずれも電子書籍で入手可です。現在の責任監修者は Jörg Frey (Zürich)。