鐔鑑賞記 by Zenzai

鍔や小柄など刀装小道具の作風・デザインを鑑賞記録

鉤文透図鍔 埋忠 Umetada Tsuba

2010-09-19 | 
鉤文透図鍔 埋忠


鉤文透図鍔 銘 長州萩住埋忠作

 桃山時代に京都に栄え、後の金工文化の基礎を成したのが明壽に始まる埋忠派。その流れは江戸や播磨、肥前にも及んでいるが、長州にも影響を及ぼしていることを証明する作例である。図柄や造り込みなど作風はまさに京の埋忠派のそれ。貝合わせのように二つの楕円形を組み合わせて巧みに二つ木瓜形を創出し、鉤状の文様を陰に透かして図柄としている。さらに地面には金の布目象嵌を散している点も埋忠系らしい。
 地鉄は焼手によって抑揚変化があり、仔細に観察すると、鍛え肌が窺いとれる。地の表情に加え、投げ付けたような金布目象嵌の表情も大きな見どころである。京都から移住した埋忠系の工は岡田家の初祖正知であるとされているが不明な点は多いが、その時代が江戸前期であることに異論はない。埋忠と切る長州鐔工は幕末まで続いたが、本作はその初期のものであると鑑られる。資料的な価値の高い得がたい作例である。□