人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

黒沢清監督「スパイの妻」を観る ~ 身を挺して国家の不都合な真実を暴露しようとする夫に対し「正義よりも幸福を選びたい」妻はどうしたか?

2020年10月23日 07時58分18秒 | 日記

23日(金)。わが家に来てから今日で2213日目を迎え、米連邦選挙委員会によると、大統領選を目前に控えたトランプ陣営の手元資金は、フェイスブックなどSNS向けの広告を増やしたことなどから、9月末時点で6310万ドル(約66億円)となり、8月末(1億2110万ドル)から48%減少した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     SNSに広告出してもフェイクだと止められる  どうせ負けるのに66億円も出すのか

 

         

 

昨日、夕食に「ポークシチュー」と「生野菜サラダ」を作りました シチューは今秋初メニューです。お酒はワインですね

 

     

 

         

 

昨日、新宿ピカデリーで黒沢清監督による2020年製作映画「スパイの妻」(115分)を観ました

舞台は太平洋戦争直前の1940年の神戸。貿易会社を経営する福原優作(高橋一生)は、妻の聡子(蒼井優)をヒロインとして素人映画を撮ることを趣味にしている 満州へ物資の買い付けに行く際も撮影機材を持参していくほどの映画好きだった 夫の留守中、聡子は幼なじみの憲兵隊長・津森(東山昌大)と旧交を温めようと家に招くが、彼は福原夫妻の西洋かぶれ的な優雅な暮らしぶりが、戦争が始まろうとしている時代にそぐわないと忠告する 満州から帰った優作は女を連れて帰ったが、聡子は気づかなかった。数日後、女の死体が海で発見された。聡子は夫を疑い問い詰めるが、優作は「やましいことはない。自分を信じるか信じないか、どちらかだ」と迫る 聡子は夫を信じるが、どうしても納得できない。そして、会社の倉庫の金庫に秘匿されているあるノートとフィルムを密かに持ち出し、夫が何を隠していたかを知り、夫を問い詰める 優作は満州で 関東軍が行っていた恐ろしい行動を目撃し、それをフィルムに収めてきたのだった 優作は正義のため「日本にとって不都合な国家機密」を世に知らしめようとする 夫が反逆罪と疑われる中、聡子はスパイの妻と罵られようとも、愛する夫を信じて、ともに生きることを心に誓う 太平洋戦争開戦間近の日本で、抗えない時代の大きな荒波に夫婦の運命は飲み込まれていく

 

     

 

第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で銀獅子賞(最優秀監督賞)受賞作です

【以下、ネタバレ注意】

映画を観終わって、思わず「してやられた」と思いました 冒頭の 優作が製作した「スパイ映画」のシーンが最後まで影響を及ぼしているからです 映画の中で女優となった聡子が金庫を開けるシーンが出てきますが、聡子は後にこの金庫をリアルの世界で開けることになります そこに入っていたのは優作が満州で撮影した関東軍による細菌兵器開発のための人体実験の映像を収めた極秘フィルムであり、その実態を記した極秘ノートでした これを観ることによって「正義よりも幸福を選びます」と言っていた聡子は大きな不安を抱えながらも夫を信じ、夫と共に生きていこうと決意することになります 

2人はアメリカに亡命し、現地で日本軍の悪事を世界に向けて明らかにすることを決意します 優作の提案で、聡子はフィルムを持って神戸港の第2埠頭から貨物船の木箱に隠れて直接アメリカに渡り、優作は極秘ノートを持って出国し 香港にいる仲間からフィルムの原版を受け取ってからアメリカに渡り、現地で落ち合う手はずになります ところが、何者かの密告により聡子は出航前に発見され逮捕されてしまいます 聡子は軍の本部に連行され、憲兵隊長・津森の命令でフィルムが上映されます ところが、スクリーンに映し出されたのは満州の様子ではなく、優作が撮った聡子をヒロインとする「スパイ映画」だったのです 聡子は大きな声で笑い「お見事です」と叫びます。つまり、優作は国の不都合な真実を明らかにして「非国民扱い」を受けるのは自分だけで良い(妻を巻き添えにしたくない)と考え、聡子には本物の極秘フィルムを渡さず、自ら密告して聡子を逮捕させることにより、彼女の身の安全を図ったのではないか? したがって、優作はノートもフィルムも自分で持参して海外に向けて出航したのではないか このシーンでは、観ているわれわれも「お見事です」と叫ばざるを得ません

その後、聡子は特殊な病院に監禁されますが、見舞いにきた福原家の主治医・野崎医師にこう語ります

「先生だから告白しますが、私は狂ってなんかいません でも、狂っていないことが狂っているんでしょうね、この国では

現代はこうではない、と言い切れるだろうか

ところで、映画の中盤で 夫婦そろって映画館で山中貞雄監督「河内山宗俊」を観るシーンが映し出されます 冒頭の「原作・監督=山中貞雄 脚本=三村伸太郎」というタイトルロールの部分だけですが、なぜ黒沢清監督はこの映画を登場させたのだろうか? この映画は河原崎長十郎が河内山宗俊を、15歳の原節子がお浪を演じた時代劇(モノクロ・82分)ですが、製作は1936年です 「スパイの妻」の時代設定は1940年なので、2人はその当時の映画をほぼリアルタイムで観ているということになりますが、あえて時代劇を登場させたのは、素人ながら「スパイ映画」を撮っている優作の国際性・先進性を表すために、対比の対象として登場させたのではないか、と思います というのは、聡子が「あなたは日本の同胞を裏切るつもりなのですか 」と問い詰めた時、優作は「私は日本人というよりは コスモポリタン(世界主義者)だ」と答えるシーンがあるからです 世界が平和になるためには 日本が戦争に負けてもかまわない、という考えです

映画のラストは、「優作は戦争が終わった翌年、インドのボンベイにいたことが目撃され、その後アメリカに向けた航海の途中で死亡したと伝えられているが、その情報には不自然さがある」「聡子はその翌年、アメリカに渡った」という字幕が出ます この物語にはかすかな希望が期待できる「続き」がある、ということを暗示しているかのような終結です 予想以上に素晴らしい映画でした

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