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人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

ユライ・ヴァルチュハ ✕ サーシャ・クック ✕ クレイ・ヒリー ✕ 読売日響でワーグナー「トリスタンとイゾルデ」から「前奏曲と愛の死」、マーラー「大地の歌」を聴く

2025年08月20日 00時01分06秒 | 日記

20日(水)。わが家に来てから今日で3872日目を迎え、トランプ米大統領は18日、ホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領と会談し、ロシアによるウクライナへの再侵攻を防ぐための「安全の保証」を提供すると主張した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

   

   その前に停戦だ!  その後 具体的な安全保障体制の構築だ  相手は老獪なプーチンだからね

         

昨夜、サントリーホールで読売日響「第685回名曲シリーズ」を聴きました プログラムは①ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」から「前奏曲と愛の死」、②マーラー「大地の歌」です 出演は②のメゾ・ソプラノ独唱=サーシャ・クック、テノール独唱=クレイ・ヒリー、指揮=ユライ・ヴァルチュハです

指揮を執るユライ・ヴァルチュハは1976年、スロヴァキアのブラチスラヴァ生まれ サンクトペテルブルク音楽院とパリ国立高等音楽院で学び、イリヤ・ムーシンらに師事する 2009~16年にRAI国立響の首席指揮者、16~22年にナポリ・サンカルロ劇場の音楽監督、17~23年にベルリン・コンツェルトハウス管の首席客演指揮者を歴任 22年からヒューストン響の音楽監督を務める。現在、読響首席客演指揮者も務める

オケは14型で 左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスといういつもの読響の並び。コンマスは日下紗矢子、隣は戸原直という2トップ態勢を敷きます

1曲目はワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」から「前奏曲と愛の死」です この楽劇はリヒャルト・ワーグナー(1813-1883)が中世に流布していたトリスタン伝説に基づいて1857年から59年にかけて作曲、1863年にサンクトペテルブルクで初演されました 本曲は、最初に演奏される「前奏曲」と幕切れで演奏される「愛の死」を繋げて演奏するものです

ヴァルチュハの指揮で演奏に入ります 冒頭のチェロの立ち上がりが素晴らしい 次いで、それに被さる荒木奏美のオーボエを中心とする吐息が、輪をかけて素晴らしい その後は、次第にテンポを上げながら、フルートのフリスト・ドブリノヴ、クラリネットの中館壮志が加わった木管楽器と、分厚い弦楽器と重厚な金管楽器の渾身の演奏が続き、トリスタンとイゾルデの愛が交差しました 長い楽劇のエッセンスを最短時間で堪能したような気分です

プログラム後半はマーラー「大地の歌」です この曲はグスタフ・マーラー(1860-1911)が李白、孟浩然、王維らの漢詩をベートゲが翻訳した詩に基づき1908年から09年にかけて作曲、マーラーの死後の1911年11月20日にミュンヘンでブルーノ・ワルターの指揮で初演されました 次の6楽章から成ります

第1楽章「現世の愁いを歌う酒歌」(李白による)テノール独唱

第2楽章「秋に寂しき人」(銭起による)アルト独唱

第3楽章「青春について」(李白による)テノール独唱

第4楽章「美しさについて」(李白による)アルト独唱

第5楽章「春に酔う人」(李白による)テノール独唱

第6楽章「告別」(孟浩然、王維による)アルト独唱

メゾ・ソプラノ独唱のサーシャ・クックはアメリカ・カリフォルニア生まれ。グラミー賞を2度受賞したディーヴァ。メトロポリタン歌劇場をはじめ世界各国の歌劇場で活躍中

テノール独唱のクレイ・ヒリーはアメリカ・ジョージア州生まれ。2024年リチャード・タッカー賞を受賞したヘルデン・テノール。バイロイト音楽祭、バイエルン歌劇場などで活躍中

ヴァルチュハの指揮で第1楽章「現世の愁いを歌う酒歌」に入ります クレイ・ヒリーはオケの音を突き抜けるような圧倒的な破壊力で表情豊かに李白の詩を歌い上げ、強烈な印象を与えました 第2楽章では、サーシャ・クックが深みのある美しい歌唱で銭起の詩を寂寥感たっぷりに歌いあげ、聴衆を魅了しました

第3楽章以降も同様の印象ですが、第3楽章「青春について」におけるクレイ・ヒリーの楽し気な歌いぶり、第6楽章「告別」におけるサーシャ・クックの卓越したヴォイス・コントロールによる息の長い旋律が印象的でした ヴァルチュハ ✕ 読響は、ソリストに寄り添いながらドラマティックな演奏を繰り広げました 特にオーボエの荒木奏美、フルートのフリスト・ドブリノヴの演奏が冴え渡っていました

満場の拍手とブラボーが飛び交うなか、カーテンコールが繰り返されました 指揮者もオケもソリストも申し分のない圧倒的な名演でした

     

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ギャレス・エドワーズ監督、スピルバーグ製作総指揮「ジュラシック・ワールド 復活の大地」を観る ~ 「陸・海・空の3大恐竜のDNAを採取する」という使命を負った特殊工作員チームの運命

2025年08月19日 00時01分02秒 | 日記

19日(火)。わが家に来てから今日で3871日目を迎え、ウクライナ情勢をめぐり 欧州主要国とウクライナは17日、オンラインでの首脳会議を開いたが、ゼレンスキー大統領と欧州の首脳が翌8日に米ワシントンでトランプ米大統領と会談するのを前に、ロシアが求めるウクライナの領土割譲は認めないとの立場を確認した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

ゼレンスキー大統領の支持率が74%であることを考えると ウクライナ国民の主張は尊重すべき

         

昨日、夕食に「ビーフカレー」と「生野菜とモッツアレラチーズのサラダ」を作りました ビーフは今回 切り落とし肉を使いましたが、食べやすくて美味しかったです

         

昨日、TOHOシネマズ新宿でギャレス・エドワーズ監督、スティーブン・スピルバーグ製作総指揮による2025年製作アメリカ映画「ジュラシック・ワールド  復活の大地」(134分)を観ました

かつて世界中に放たれた恐竜たちは、気候や環境に耐えられず、赤道直下の限られた地域だけに生息していた 熟練の特殊工作員ゾーラ・ベネット(スカーレット・ヨハンソン)は、製薬会社の代表マーティン・クレプス(ルバート・フレンド)から、ある危険な任務を引き受ける それは心臓病に奇跡的な治療効果をもたらす新薬を開発するため、陸・海・空の3大恐竜のDNAを採取するというものだった チームとして集められたのはゾーラが最も信頼する傭兵ダンカン・キンケイド(マハーシャラ・アリ)と古生物学者ヘンリー・ルーミス博士(ジョナサン・ベイリー)だった チームは初代「ジュラシック・パーク」の極秘研究施設が存在した禁断の島へ足を踏み入れる そこはかつてパークの所有者が極秘の実験を行い、”極悪の種”と言われる20数種の恐竜が生き残った、地球上で最も危険な場所だった ゾーラたちは陸・海・空のどこから恐竜が襲ってくるか分からない脅威に立ち向かいながら、任務遂行のために歩みを進めていく

この映画は1993年にスティーブン・スピルバーグが製作した第1作「ジュラシック・パーク」から始まったシリーズの第7作です

夏休み中ということでか、多くの若い人たちが鑑賞していました

久しぶりに「ジュラシック・ワールド」シリーズを映画館で観ましたが、やっぱり面白い 同じSFX技術を使っていても、先日観た「ゴジラ ✕ コング  新たな帝国」とは大違いです ストーリーがしっかりしているし、出てくる恐竜たちもリアリティがあるし、危機に次ぐ危機の連続で息つく暇がないくらいです

この映画では、DNA採取の対象となる3頭の恐竜がメインに登場します 「陸の恐竜」として最大級の大きさの草食恐竜=ティタノサウルス 「海の恐竜」として最大級の肉食恐竜=モササウルス 「空の恐竜」として最大級の翼竜=ケツァルコアトルス このほか、小型の角竜(幼体)がドロレスと名付けられ、少女イザベラに懐き、行動を共にします これは「ウルトラマン」における「ミニラ」のような存在です

ところで、島の極秘研究施設のシーンで急に照明が点され明るくなったと思ったら、突然、映画「スタンド・バイ・ミー」のテーマ音楽が流れてきて、「あれっ?」と思いました 「スタンド・バイ・ミー」はスティーヴン・キングの同名小説を基にロブ・ライナー監督が制作し1986年に公開されたアメリカの青春映画です 物語は1950年代のオレゴン州の小さな町に住む4人の少年たちが好奇心から、線路伝いに”死体探し”の旅に出るという、ひと夏の冒険を描いていたものです ゾーラたちが恐竜のDNAを確保するために恐竜の生きる島に冒険に出たと考えると、映画「スタンド・バイ・ミー」への音楽版オマージュと言えるかもしれません

しばし夏の酷暑を忘れることが出来ました

  

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王谷晶著『ババヤガの夜』(英国推理小説家協会「ダガー賞」受賞作)を読む ~ ババヤガといえばムソルグスキー『展覧会の絵』の「鶏の足の上に建つ小屋」を思い出す / 今日はサリエリの誕生日

2025年08月18日 00時12分18秒 | 日記

18日(月)。今日はイタリアの作曲家アントニオ・サリエリの275回目の誕生日です サリエリは1750年8月18日にイタリアのレニャーゴで生まれました サリエリと言えば、1984年に公開され、アカデミー賞も受賞した映画『アマデウス』で、モーツアルトに嫉妬する凡庸な作曲家として描かれていました しかし、実際には1788年にウィーンの宮廷楽長に任命され、亡くなる直前の1824年までその地位にあったことからも分かるように、同時代には高い評価を受けていました 作曲家として、オペラ指揮者として活躍したほか、教育者としても評価が高く、ベートーヴェン、シューベルト、リストらもサリエリの指導を受けていました サリエリは弟子からの謝礼は受け取らず、慈善事業などにも熱心だったと言われています その意味では、精神病院で余生を閉じたとか、モーツアルトを毒殺したとかいう噂はまったく根拠がなく、サリエリにとって『アマデウス』は 事実を歪曲した はた迷惑な映画だったに違いありません

ということで、わが家に来てから今日で3870日目を迎え、ロシアで月次の出生や死亡数といった人口に関するデータに関する統計の公表停止が相次いでいる  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

  

  ウクライナ戦争での戦死者の大幅増加と 政府の出産奨励策の失敗を隠蔽するためらしい

         

王谷晶著「ババヤガの夜」(河出文庫)を読み終わりました 王谷晶(おうたに あきら)は1981年東京都生まれ。著書に「完璧じゃない、あたしたち」「君の六月は凍る」「他人屋のゆうれい」など 「ババヤガの夜」の英語版は2024年、ロサンゼルス・タイムズ紙で「この夏読むべきミステリー5冊」の一篇に選ばれた 2025年には日本人として初めて、英国推理作家協会賞(ダガー賞)翻訳部門を受賞した

祖父から空手、柔道、拳法などで身体を徹底的に鍛えられ、暴力を唯一の趣味とする新道依子は、関東有数規模の暴力団・内樹會に喧嘩の腕を買われる 会長が溺愛する一人娘・尚子の運転手兼護衛を任され、自家用車で尚子の通う女子大まで送り迎えをすることになる 尚子の母親は若頭のマサと駆け落ちして、どこにいるのか不明で、組を挙げて探し回っているところだった そんな中、依子は尚子が極悪非道のヤクザ・宇田川と結婚させられるという苛酷な運命を知り、彼女を束縛から解放してあげようと思うようになる

小説の冒頭から激しい暴力描写が展開し、文中でも何度も残酷な暴力シーンが描かれます その意味ではバイオレンス・アクション小説と言えるだろうし、女性同士の人生の話でもあるし、ヤクザの世界の話でもあります ただそれだけであれば、とてもダガー賞を取れないでしょう 何より、途中であっと驚くどんでん返しが待っているからこそ、傑作ミステリー小説と認められたのだと思います

ところで、タイトルの「ババヤガの夜」ですが、本書の中には「ババヤガ」という言葉は一度も出てきません その正体は、新道が子供の頃に祖母から聞いた話の中に出てきます

「私は鬼婆の話が好きだったよ その鬼婆は面白い家に住んでいるんだ。森の奥にあって、鶏の足が生えてて、地面から床が物凄い離れてる。だから普通の人は入れない 鬼婆はそこを人間の骨で飾ってる。そこで、他人を拐って食ったり、家畜を呪ったりして生きてる なんでも知っていて、なんでもお見通しで、魔法が使えて凄く強い 村人には怖がられている でも、心のきれいな優しい娘が丁寧にお願いすると、宝物をくれたり仕事をたすけてくれたりする 悪いこともするしいいこともする。畑を焼き払ったりもするし、純真な娘が王子様と結婚してお姫様になるのを助けたりもする 鬼婆が何をするか、敵なのか味方なのか、出てきた最初は分からないのが、鬼婆話の面白いところ 婆ちゃんの締めはいつも同じだった。『あんたも心のきれいな優しい娘になれば、鬼婆みたいな怖い人でも助けてくれるよ』って

つまり、「ババヤガ」は鬼婆のことなのです これで思い出すのは、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」です 最後から2番目の曲は「鶏の足の上に建つ小屋(バーバヤガー)」です 「暴力をふるう相手には容赦なく反撃を加え、弱い者には救いの手を差し伸べる」という意味では、新道依子こそババヤガではないのか、と思います

何故この作品がダガー賞を獲れたのか? 是非お読みになって、確かめてみてください

本日、toraブログのトータルアクセス数が990万PVを超えました これもひとえに普段からご訪問くださっているフォロワーの皆さまのお陰と感謝しております gooブログの最終投稿可能日まで残り43日ですが、それまでに何とかして目標の1,000万PVを達成したいと思っています   これからも毎日休むことなく投稿し続けて参りますので、モコタロともどもよろしくお願いいたします

【忘備録】2025年8月18日現在におけるtoraブログのトータル・アクセス数、ランキング等

 (ブログ開設から5298日目。投稿総数=5449本)

①トータル閲覧ページ数=9,900,950 P V

②トータル訪問者数  =3,381,497 I P

③gooブログ全体におけるランキング=3,204,169ブログ中137位

④にほんブログ村「コンサート・演奏会感想」におけるランキング=60ブログ中1位

⑤フォロワー数=2052人(1938人 + X分114人)

     

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下野竜也 ✕ 新日本フィルで「マーラー/交響曲第1番 徹底大解剖! オーケストラ付きレクチャー」を聴く / 第4楽章ラストのホルンの立奏はバルビローリの専売特許だった!?

2025年08月17日 00時03分31秒 | 日記

17日(日)。わが家に来てから今日で3869日目を迎え、トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領は現地時間15日昼(日本時間16日早朝)、米アラスカ州アンカレジで会談したが、トランプ氏は会談後の共同記者会見で「生産的だった」と話しつつ、ロシアが侵略するウクライナの停戦で合意できなかったと明かした  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

 トランプのことだ ウクライナ問題そっちのけの 米ロ間商取引が生産的だったんじゃね?

         

昨日、すみだトリフォニーホールで、下野竜也プレゼンツ!音楽の魅力発見プロジェクト第12回「マーラー/交響曲第1番 徹底大解剖!  オーケストラ付きレクチャー」を聴きました キャストは企画監修・司会・指揮=下野竜也、バリトン=宮本益光、管弦楽=新日本フィルです

本公演は次の2部で構成されています

第1部=オーケストラと大スクリーンを使用した特別レクチャー ~ マーラー「歌曲集『さすらう若人の歌』」より Bt:宮本益光

第2部=マーラー「交響曲第1番 ニ長調」(全曲演奏)

マーラー「歌曲集『さすらう若人の歌』」はグスタフ・マーラー(1860-1911)が1883年から85年にかけて作曲、91年から96年にかけて改訂し、1896年にベルリンで初演されました 第1曲「愛しい人が嫁いでゆくと」、第2曲「この朝、野原を通ったときに」、第3曲「ぼくは真っ赤に焼けたナイフを」、第4曲「ぼくの恋人の青いふたつの瞳が」の4曲からなります

マーラー「交響曲第1番 ニ長調」はマーラーが2部5楽章の「交響詩」として1883年から88年にかけて作曲、1889年にブタペストで初演、その後93年から96年にかけて改訂し、99年に4楽章の「交響曲」としてウィーンで初演されました 第1楽章「緩やかに、重々しく、自然な音のようにー最初はとてもゆっくりと」、第2楽章「力強く運動して」、第3楽章「緩慢でなく、荘重に威厳をもって」、第4楽章「嵐のように激動して」の4楽章からなります

自席は1階15列11番、左ブロック右から2つ目です

オケは14型で左奥にコントラバス、前に左から第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリンという対抗配置を採ります コンマスは崔文洙、隣は伝田正秀という2トップ態勢を敷きます オケのメンバーは上が白、下が黒の夏服で統一されていて、定期演奏会との差別化を図っています 涼しそうでいいと思います

プログラム前半は、下野が大スクリーンに映し出されたマーラー「交響曲第1番」の各楽章の主だった箇所の楽譜を解説し、実際に演奏してみせました 最初は第1楽章冒頭の「カッコウ」の鳴き声の部分についての解説です まずベートーヴェン「交響曲第6番”田園”」の第2楽章の「カッコウ」の鳴き声を演奏で示し、「これは3度で、これが普通です」と解説、次にマーラー「交響曲第1番」の第1楽章の「カッコウ」の鳴き声を演奏で示し、「これは4度で、普通ではありません」と解説しました そして「信号の音はカッコウの音型です」とトリビアを語りました さらに「私は暇なものですから第1楽章の中で何回『カッコウ』の音型が出てくるか数えてみたのですが、212回もありました」と説明しました。本当に暇ですね これ以降、第2楽章から第4楽章まで特徴的な部分の楽譜をスクリーンに示し、解説を加えました

その後、交響曲第1番の第1楽章に採用されたマーラー:歌曲集「さすらう若人の歌」の第2曲「この朝、野原を通ったときに」と、第3楽章に採用された同じ歌曲集の第4曲「ぼくの恋人の青い2つの瞳が」の2曲をバリトンの宮本益光が歌い、拍手喝さいを浴びました

  

プログラム後半はマーラー「交響曲第1番ニ長調」(全曲)です

下野の指揮で第1楽章に入ります オーボエの岡北斗、フルートの野津雄太、クラリネットのマルコス・ペレス・ミランダ、ファゴットの河村幹子といった木管楽器群が素晴らしい演奏を展開します 舞台裏で吹かれるトランペットも完璧です 第2楽章では低弦を中心とする弦楽器が渾身の演奏を繰り広げます 中盤でホルンが弱音演奏でベルアップ奏法を見せました 第3楽章の冒頭は、川瀬達也のティンパニに乗せて弾かれる菅沼希望のコントラバスがしみじみと沁みました オーボエとファゴットの演奏が冴えていました 間髪入れずに突入した第4楽章では山田圭裕率いるホルン・セクションの演奏が素晴らしい 中盤ではオーボエとクラリネットがベルアップ奏法を見せました また、ラストではホルン・セクションとトロンボーン(1)、トランペット(1)が立ち上がり、勇壮で輝かしい演奏を繰り広げました オーケストラの総力を挙げての熱演で圧巻のフィナーレを飾りました

満場の拍手とブラボーが飛び交うなか、カーテンコールが繰り返されました 下野は拍手を制して、「今回は12回目のレクチャー・コンサートでしたが、今回まで聴衆のリクエストの投票結果に基づいて作曲家・作品を選んできました 次回もやります(ここで、会場)。ただし、次回は投票によらずあらかじめ決めておくことにしました 来年取り上げるのはこの曲です」と宣言し、演奏に入りました 演奏後「演奏の通り、次回は滝廉太郎の『花』を取り上げます」とジョークを飛ばし、会場の笑いを一身に浴びましたが、演奏されたのはブルックナー「交響曲第4番”ロマンティック”」冒頭部分でした シモノーったら冗談キツイんだから~

下野は「リクエスト結果を見ると、ブルックナー『交響曲第4番”ロマンティック”』はマーラー「第1番」に次いで2位に入っています この曲について『長いので途中で寝ちゃいそうです。寝なくなる方法を教えてほしい』という質問が出ていますが、これについては、次回のレクチャー・コンサートで説明します」と語りました 来年も楽しいレクチャー・コンサートが聴けそうです

         

ところで、本レクチャー・コンサートを聴くにあたり、サー・ジョン・バルビローリ指揮ハレ管弦楽団によるCD(1957年8月録音)で予習しましたが、音楽評論家・三浦淳史氏による「解説」に「ホルンのベルアップ奏法」に関する興味深い記述があったのでご紹介ししておきます

「終曲は7本のホルンと5本のトランペットのために書かれたコラールの”ふし”をもつ凱歌を奏するコーダで締めくくられる この箇所にくるとバルビローリはホルンに『アップ』の指示を与えたものだ ホルン奏者はいっせいに起立して、ありったけの肺活量によって、そのふしを吹き鳴らすのだ その箇所でホルンを起立させるのはバルビローリのパテントだった 1955年の11月のこと、『ザ・タイムズ』紙の芸術欄で、バルビローリのパテントに異論が出され、『凱歌を奏するコラールを吹奏するにあたって、ジャズ・プレイヤーのようにホルン奏者を起立させることは、サー・ジョンにとって本当に必要なことなのだろうか?』と疑問を提示した これに対して バルビローリは、タイムズ紙の主幹あてに返事を出し(当時は評の無署名の時期であったから)、こう答えている。『私としては不必要な俗悪な行為(評はこうはいっていないのだが)などではなく、ホルン奏者を起立させることはマーラーのスコアに印刷されている指示にしたがったまでです』と」

つまり、ホルンの立奏はバルビローリのパテント(専売特許)でも何でもなく、マーラーの楽譜に指示が書いてあるという事実を、当時の一流新聞の芸術担当記者は知らなかったのです

もし、マーラー「交響曲第1番」第4楽章のラストでホルンを立奏させない指揮者がいたら、その指揮者はマーラーの指示に従っていないことになる、ということでしょうか

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METライブビューイング・アンコール2025 ⇒ 8月22日から東劇で上映開始 / Netflixで行定勲監督主演「リボルバー・リリー」を観る ~ 綾瀬はるかのクールな演技が素晴らしい

2025年08月16日 00時34分42秒 | 日記

16日(土)。「METライブビューイング・アンコール2025」の概要が松竹のウェブサイトで発表されました 今年は8月22日(金)から9月25日(木)まで東銀座の「東劇」で20演目が上映されます

「アンコール上映2025」の概要は以下の通りです (数値は本編上映シーズン。人名は主な出演者)

①ヴェルディ「アイーダ」24ー25 エンジェル・ブルー、ピョートル・ベチャワ

②ヴェルディ「ファルスタッフ」13-14 アンブロージョ・マエストリ、リゼット・オペローサ

③R.シュトラウス「サロメ」24-25 エルザ・ヴァン・デン・ヒーヴァー、ペーター・マッティ

④R.シュトラウス「ナクソス島のアリアドネ」21-22 リーゼ・ダヴィドセン、イザベル・レナード

⑤ドニゼッティ「愛の妙薬」17-18 イルデブランド・ダルカンジェロ、マシュー・ポレンザーニ

⑥ドニゼッティ「連隊の娘」18-19 プレディ・イェンデ、ハヴィエル・カマレナ

⑦モーツアルト「コジ・ファン・トゥッテ」13-14 スザンナ・フィリップス、イザベル・レナード

⑧モーツアルト「フィガロの結婚」24-25 マイケル・スムエル、オルガ・クルチンスカ

⑨モーツアルト「魔笛」17-18 ルネ・パーペ、マルクス・ウェルバ

⑩ロッシーニ「オリー伯爵」10-11 フアン・ディエゴ・フローレス、ジョイス・ディドナート

⑪ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」24-25 ジャック・スワンソン、アイグル・アクメトチナ

⑫ロッシーニ「ラ・チェネレントラ」13-14 ジョイス・ディドナート、フアン・ディエゴ・フローレス

⑬オッフェンバック「ホフマン物語」24-25 ベンジャミン・ベルナイム、プレディ・イェンデ

⑭ショスタコーヴィチ「鼻」13-14 パウロ・ショット、アレキサンダー・ルイス

⑮ジャニ―ン・テソーリ「グランウンデッド」24-25 エミリー・ダンジェロ、ベン・ブリス

⑯プッチーニ「トスカ」24-25 リーゼ・ダヴィドセン、フレディ・デ・トマーゾ

⑰ベートーヴェン「フィデリオ」24-25 リーゼ・ダヴィドセン、ルネ・パーペ

⑱マスネ「サンドリヨン」17-18 ジョイス・ディドナート、アリス・クート

⑲レハール「メリー・ウィドウ」14-15 ルネ・フレミング、ケリー・オハラ

⑳ワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」14-15 ミヒャエル・フォレ、ヨハン・ボータ

上記の20演目のうち、私のお薦めは以下の8作品です

1.ドニゼッティ「連隊の娘」18-19 プレディ・イェンデ、ハヴィエル・カマレナ、マウリツィオ・ムラーロ(エンリケ・マッツォーラ指揮、ロラン・ペリー演出) ⇒ カマレナのハイCが聴きものです

2.モーツアルト「コジ・ファン・トゥッテ」13-14 スザンナ・フィリップス、イザベル・レナード(ジェイムズ・レヴァイン指揮、レスリー・ケーニッヒ演出) ⇒ とにかく楽しいオペラです

3.ロッシーニ「オリー伯爵」10-11 フアン・ディエゴ・フローレス、ジョイス・ディドナート(マウリツィオ・ベニーニ指揮、バートレット・シャー演出) ⇒ フアン・ディエゴ・フローレスを聴いてほしい

4.ロッシーニ「セヴィリアの理髪師」24-25 ジャック・スワンソン、アイグル・アクメトチナ(ジャコモ・サグリパンティ指揮、バートレット・シャー演出) ⇒ 理屈抜きでハチャメチャに楽しいオペラです

5.ロッシーニ「ラ・チェネレントラ」13-14 ジョイス・ディドナート、フアン・ディエゴ・フローレス(ファビオ・ルイージ指揮、チェーザレ・ルエーヴィ演出) ⇒ ジョイス・ディドナートのロッシーニは最高です

6.オッフェンバック「ホフマン物語」24-25 ベンジャミン・ベルナイム、プレディ・イェンデ、エレン・モーリー(マルコ・アルミリアート指揮、バートレット・シャー演出) ⇒ ベルナイムの歌唱が素晴らしい

7.マスネ「サンドリヨン」17-18 ジョイス・ディドナート、アリス・クート、ステファニー・プライズ(ベルトラン・ド・ビリー指揮、ロラン・ペリー演出) ⇒ ディドナートのシンデレラが見もの・聴きものです

8.レハール「メリー・ウィドウ」14-15 ルネ・フレミング、ケリー・オハラ、ネイサン・ガン(アンドリュー・デイヴィス指揮、スーザン・ストローマン演出) ⇒ METの看板ディーヴァ、ルネ・フレミングとミュージカル歌手ケリー・オハラの最強のコンビによる楽しいオペレッタです

各演目の上映日程は下のスケジュール表の通りです

私の場合は 8月22日から9月25日までの上映期間中に23回コンサートの予定が入っているので、それ以外の日時で観たい演目があれば予定を入れたいと思っています

ということで、わが家に来てから今日で3868日目を迎え、ノルウェーのニュースサイトは14日、トランプ米大統領が7月にノルウェーのストルテンベルグ財務相に突然電話し、関税問題のほかノーベル平和賞の話題を持ち出し、「世界平和に尽力してきた自分こそ受賞に相応しい」と伝えたと報じた  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

一方的な関税措置で世界中を混乱に貶めておいて ノーベル平和賞が欲しいだと? 悪い冗談はやめろ

         

昨日は、息子が単身赴任先の白石市に戻るので、夕食はピザ・パーティーにしました ほとんど習慣化してしまいました ピザにはビールです

         

映画でも観に行こうかと思いましたが、危険な暑さなので、Netflixで行定勲監督による2023年製作映画「リボルバー・リリー」(139分)を息子と一緒に観ました

物語の舞台は大正末期の1924年、関東大震災からの復興で鉄筋コンクリートのモダンな建物が増え、活気にあふれた東京 16歳からスパイ任務に従事し、東アジアを中心に3年間で57人の殺害に関与した経歴を持つ元敏腕スパイ・小曽根百合(綾瀬はるか)は、東京の花街・玉野井の銘酒屋「ランブル」で女将をしていた ある時、消えた陸軍資金の鍵を握る少年・慎太(羽村仁成)と列車の中で偶然出会ったことで、百合は慎太とともに陸軍の精鋭部隊から追われる身となる 慎太は陸軍が戦争開始するために極秘で用意した莫大な裏金の隠し場所を示す文書を持っていた。それは戦争回避を主張する海軍省の山本五十六に届けられることになっていた。かつてリボルバー・リリーと呼ばれた拳銃使い百合は、陸軍の追手の銃撃から慎太を守りながら、山本のいる海軍省に赴く

この作品は、ハードボイルド作家・長浦京の代表作「リボルバー・リリー」を行定勲監督が映画化したアクションサスペンスです

ストーリー的には陸軍と海軍との裏の闘いがあったり、慎太の父親と百合との関係が明かされたりと、面白く観ることができました 列車の中での闘いのシーン、陸軍との銃撃シーンなど、身体能力の高い百合の活躍が見所ですが、終始クールな綾瀬はるかの演技が素晴らしい

ただ、ナイフで胸の奥深くまで刺されたり、銃撃を受けて血だらけになったりしたのに、すぐに回復して何事もなかったかのように動き回っているのは、不自然さを感じます

そこはエンタメと割り切って、目をつぶって楽しむのが正しい鑑賞方法かモしれません

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宮島未奈著「成瀬は天下を取りにいく」を読む / 服部百音 ✕ N響のコンサートに18歳以下の中高生を招待(9月2日)

2025年08月15日 00時20分43秒 | 日記

15日(金)。昨日、埼玉県S市の菩提寺に墓参りに行ってきました 当初は15日の予定で息子と2人で(娘は仕事)行くつもりでしたが、実家の都合で急きょ14日になったため、先約があった息子が行けなくなり、一人で行くことになりました 墓参りに前後して実家に住む妹夫婦を訪ねましたが、母屋の隣にあった工場兼物置(2階建て)が取り壊され、跡形もなくなり、草が生えていました 父親が建具職人だった頃の”遺産”でしたが、老朽化のため大地震でもあって近所に迷惑がかかるといけないので取り壊すことを決めていたのです また、家の前に生えていた夾竹桃も落葉の処理が大変ということで根元から切り落とし、無くなっていました これも一種の断捨離でしょうか

話は90度変わりますが、下記の案内の通り、サンライズプロモーション東京が18歳以下の中学・高校生を対象に服部百音のコンサートに招待します 枚数限定で先着順なので、希望者は早く申し込むことをお薦めします  ダメ元でトライしてみてはどうでしょうか

ということで、わが家に来てから今日で3867日目を迎え、米国務省は12日、世界約200か国・地域を対象とした2024年版の人権報告書を発表したが、ロシアやトランプ政権と関係が良好なイスラエル、エルサルバドルなどの記述が減り、バイデン前政権下の23年版より分量が大幅に縮小したというニュースを見て感想を述べるモコタロです

   

   本来なら ロシアやイスラエルに 多くのページを割かなければならないと思う 恣意的だ!

         

昨日の夕食は「鶏のから揚げ」にしました 息子が帰省中に1度は作って食べさせてあげたいと思っていました いつも通り、外カリカリ内ジューシーに揚がりました 唐揚げにはやっぱりビールです

         

宮島未奈著「成瀬は天下を取りにいく」(新潮文庫)を読み終わりました 宮島未奈は1983年静岡県富士市生まれ、滋賀県大津市在住。京都大学文学部卒業。2021年「ありがとう西武大津店」で「女による女のためのRー18文学賞」大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞 23年に同作を含む「成瀬は天下を取りにいく」でデビュー 坪田譲治文学賞、本屋大賞など多くの賞に輝く 他の著書に「成瀬は信じた道をいく」「婚活マエストロ」などがある

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」

この書き出しが凄い 主人公の成瀬あかりが幼稚園の頃からの幼馴染み・島崎みゆきに宣言するシーンです いったいこの娘は何を言い出すのか・・・と、一気に物語に引き込まれます 中学2年の成瀬は地元、大津市唯一のデパート西武大津店が1か月後に営業終了することを知り、閉店まで毎日 西部デパートに通い、ローカル番組「ぐるりんワイド」の中継に毎日映ると宣言したのです そしてそれを実行に移す顛末を描いたのが第1話「ありがとう西武大津店」です 成瀬はライオンズ・ファンではありませんが、西武デパートを熱烈に愛しています

第2話「膳所(ぜぜ)からきました」では、「島崎、私はお笑いの頂点を目指そうと思う」と宣言し、島崎を巻き込んで漫才コンビを組みM1グランプリを目指します ここで、成瀬が200歳まで生きることを目標にしていることが分かります

以下、第3話「階段は走らない」、第4話「線がつながる」(成瀬が坊主頭で高校の入学式に登場する)、第5話「レッツゴーミシガン」(成瀬が男子生徒から愛を告白される)、第6話「ときめき江州音頭」と連作短編の形でストーリーが続き、最後に「大津ときめき紀行 ぜぜさんぽ」が付録のように付いています

それぞれの物語で語られるのは、成瀬あかりの「他人のことは気にせず、自分らしく生きる」という純粋な生き方です 成瀬あかりは賢く、”無敵の主人公”と呼びたくなるほど強く、魅力的な女子生徒です 何でも人並み以上の能力を発揮しますが、それを自慢することをしない そういうところが読者に支持されているのではないかと思います 本書を読んだらきっと成瀬ファンになること請け合いです 「本屋大賞」は当然です

元気が出る本として広くお薦めします

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新国立オペラ、細川俊夫「ナターシャ」を観る ~ ハイテクを駆使した映像表現による舞台作りと総合的な演出にブラボー! 山下裕賀、森谷真理、冨平安希子ら日本人歌手陣大健闘!

2025年08月14日 00時28分08秒 | 日記

14日(木)。昨日は午前中、子どもたちと品川の親戚にお盆の挨拶に行き、鰻をごちそうになって、私だけオペラのためお先に失礼しました 鰻も煮物も漬物も、デザートのマンゴーとマスカットも美味しかったです

ということで、わが家に来てから今日で3866日目を迎え、米ホワイトハウスのレビット大統領報道官は12日の記者会見で、15日に予定する米ロ首脳会談でウクライナ停戦に合意するのは難しいとの見解を示し、ウクライナのゼレンスキー大統領は参加しないと明かした  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

紛争当事国のウクライナが参加せず 無関係のアメリカが参加するって どういう意味があるんだろ?

         

昨日の夕食は、息子が「ブリと夏野菜のスパゲッティ」「茄子のトマトソース・ソテー」「コーン・スープ」を作ってくれました スパゲッティはあまりにも美味しくて お代わりしました

         

昨日、新国立劇場「オペラパレス」で多和田葉子原作・細川俊夫作曲「ナターシャ」を観ました 私はプルミエ(初日)会員なので、本来は11日の公演を観る予定だったのですが、「フェスタサマーミューザ・フィナーレ」公演とダブってしまったので、振り替えの利くオペラをこの日に振り替えました

出演はナターシャ=イルゼ・エーレンス、アラト=山下裕賀、メフィストの孫=クリスティアン・ミードル、ポップ歌手A=森谷真理、ポップ歌手B=冨平安希子、ビジネスマンA=タン・ジュンポ、ビジネスマンB=ティモシー・ハリス、サクソフォン奏者=大石将紀、エレキギター奏者=山田岳。管弦楽=東京フィル、合唱=新国立劇場合唱団、指揮=大野和士、演出=クリスティアン・レートです

「ナターシャ」は多和田葉子の台本により細川俊夫が作曲したオペラです 新国立劇場オペラ芸術監督・大野和士による日本人作曲家創作委嘱作品第3弾として制作され、この度の世界初演となりました

難民のアラトは母なるものを求め地底への入口を探し、故郷を追われ彷徨う難民のナターシャと出会う 言葉が通じないながら名を伝え合った2人の前に”メフィストの孫”と名乗る男が登場する 2人は”メフィストの孫”に誘われ、海辺から離れ「森林地獄」「快楽地獄」「洪水地獄」「ビジネス地獄」「沼地獄」「炎上地獄」「旱魃(かんばつ)地獄」へと旅していく

振り替え後の自席は1階3列11番、左ブロック右通路側です こんなに前の席で鑑賞したのは初めてです 指揮者の横顔がよく見える位置です

ナターシャ役のイルゼ・エーレンスはベルギー出身のソプラノです 幅広いレパートリーによりヨーロッパ各国の歌劇場を中心に活躍しています 新国立オペラでは2018年の細川俊夫「松風」タイトルロールで出演しました 表現力豊かな歌唱で聴衆を魅了しました

アラト役の山下裕賀(やました ひろか)は東京藝大・大学院を首席修了 第92回日本音楽コンクール声楽部門第1位。大野和士✕都響ではベートーヴェン「第九」、ヴェルディ「レクイエム」などでソリストを務めたソプラノです 説得力のある歌唱と演技で存在感を示しました

メフィストの孫役のクリスティアン・ミードルはドイツのユーゲント・ムジツイールトコンクールで優勝 ザルツブルクのモーツアルテウムで学ぶ。深みのあるバスが魅力的でした

ポップ歌手A役の森谷真理は武蔵野音大・大学院、マスネ音楽院修了。新国立オペラ「ジュリオ・チェーザレ」クレオパトラで好評を博すなど多方面で活躍中 力強くも美しいソプラノと卓越した演技力で聴衆を魅了しました

 【追伸:訂正】(8月14日20:40)

 文中に「マスネ音楽院」とありますが、クラシックファンさんから「マネス音楽院」である旨のご指摘をいただきました。調べた結果、ご指摘の通りでした。お詫びの上、訂正させていただきます

ポップ歌手B役の冨平安希子は東京藝大・大学院、シュトゥットガルト音楽大学を修了 二期会のオペラ公演を中心に活躍中のソプラノです 表現力豊かな歌唱で存在感を示しました

サクソフォン奏者役の大石将紀は東京藝大・大学院修了、パリ国立高等音楽院修了。クラシック、特に現代音楽の分野で活躍中 「快楽地獄」におけるサックスのご機嫌なインプロビゼーションが印象的でした

エレキギター奏者役の山田岳は中学生のときジミ・ヘンドリクスに憧れギターを始める 国内外の音楽祭に招聘されるなど世界的に活躍中 「快楽地獄」におけるロックンロール的なカオスな演奏が素晴らしかったです

本公演で特に印象に残ったのはドイツ出身のクリスティアン・レートによるハイテクを駆使した映像表現による舞台作りと総合的な演出です

ところで2人の難民は「森林」「快楽」「洪水」「ビジネス」「沼」「炎上」「旱魃(かんばつ)」という7つの地獄を旅しますが、これを見て、モーツアルトの歌劇「魔笛」を思い出しました ザラストロの命により、タミーノは「沈黙の試練」を課せられますが、これをクリアします 次いでパミーナと2人で「火の試練」を、次いで「水の試練」をクリアして、2人はめでたく結ばれます これを「ナターシャ」に置き換えれば「洪水」「炎上」と「旱魃(かんばつ)」(誰もが砂漠では愛を失う)の3つの地獄に相当すると思います 魔笛に比べてナターシャでは4つも試練(地獄)が増えています 現代はそれだけ地獄が多いということでしょう 「快楽地獄」では一般的なエンターテインメント的な表現がある一方で、プラスチックにより海が汚染されていく様子が描かれます また、「ビジネス地獄」ではコーラスが じゃらじゃら(お金)、ばりばり(仕事に励む)、しゃらしゃら(表面的)といった擬音語によって現代人を揶揄するように歌います

こうしたことから、「ナターシャ」は現代の地獄(試練)をそのまま描いたオペラだということができると思います

また、主人公のナターシャはウクライナからの難民、アラトは日本からの難民という設定になっています さらに、このオペラでは日本語で歌われたり、ドイツ語で歌われたり、序盤では「海」という言葉が30以上の言語で重なり合って囁かれたりする「多言語オペラ」です したがって、グローバルな共通テーマを扱った先駆的なオペラと言えると思います

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新日本フィル「2026ー2027シーズン・ラインナップ」発表 / Netflixでアダム・ウィンガード監督「ゴジラ ✕ コング 新たなる帝国」を観る

2025年08月13日 00時39分44秒 | 日記

13日(水)。新日本フィルが公式ウェブサイトで「2026ー2027シーズン」のラインナップを発表しました

各シリーズの日程・プログラムは以下の通りです

Ⅰ.トリフォニーホール・シリーズ & サントリホール・シリーズ(共通プログラム:全7公演)

(1)4月11日(土)14時開演:トリフォニーホール、4月12日(日)14時開演:サントリーホール=①バツェヴィチ「オーケストラのための序曲」、②クララ・シューマン「ピアノ協奏曲イ短調」、③サン=サーンス「交響曲第3番」(指揮=カレン・二ーブリン、P=小林愛実)

(2)5月8日(金)19時開演:サントリーホール、5月9日(土)14時開演:トリフォニーホール=①ラヴェル「ラ・ヴァルス」、②ショスタコーヴィチ「チェロ協奏曲第1番」、③ブラームス「交響曲第2番」(指揮=ミシェル・タバシュニク、Vc=アンドレイ・イオニーツァ)

(3)6月12日(金)19時開演:サントリーホール、6月13日(土)14時開演:トリフォニーホール=マーラー「交響曲第3番」(指揮=佐渡裕、メゾソプラノ=藤村実穂子ほか)

(4)9月25日(金)19時開演:サントリーホール、9月26日(土)14時開演:トリフォニーホール:ブルックナー「交響曲第5番」(指揮=佐渡裕)

(5)10月17日(土)14時開演:トリフォニーホール、18日(日)14時開演:サントリーホール=①ムストネン「トリプティーク」、②ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第5番」、③メンデルスゾーン「交響曲第3番”スコットランド”」(指揮・ピアノ=オリ・ムストネン)

(6)1月23日(土)14時開演:サントリーホール、24日(日)14時開演:トリフォニーホール=①サン=サーンス「ヴァイオリン協奏曲第3番」、②リヒャルト・シュトラウス「英雄の生涯」(指揮=佐渡裕、Vn=アレクサンドラ・コヌノヴァ)

(7)2月20日(土)14時開演:サントリーホール、21日(日)14時開演:トリフォニーホール=①テレマン「リコーダー協奏曲ハ長調」、②J.S.バッハ「管弦楽組曲第3番」、③ベートーヴェン「交響曲第2番」(指揮・リコーダー=ドロティー・オーバーリンガー)

上記7公演で興味を引かれるのは6月のマーラー「交響曲第3番」と9月のブルックナー「交響曲第5番」です どうしても好きな作曲家の大編成による作品が気になります 他公演の指揮者はほとんど初めて目にする名前なので、何とも言いようがありません ただ、演奏曲目としては、クララ・シューマン「ピアノ協奏曲 イ短調」(P=小林愛実)、サン=サーンス「交響曲第3番」、ショスタコーヴィチ「チェロ協奏曲第1番」、メンデルスゾーン「交響曲第3番”スコットランド”」、サン=サーンス「ヴァイオリン協奏曲第3番」、J.S.バッハ「管弦楽組曲第3番」と魅力のあるラインナップになっています

Ⅱ.すみだクラシックへの扉シリーズ(全8公演。金・土の14時開演:トリフォニーホール)

(1)4月17日・18日:①モーツアルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲、②同「ヴァイオリン協奏曲第5番」、③ベートーヴェン「交響曲第7番」(指揮=アルマ・ドイチャー、Vn=中原梨衣紗)

(2)5月15日・16日:①シベリウス「トゥオネラの白鳥」、②グリーグ「ピアノ協奏曲イ短調」、③同「ペール・ギュント」第1組曲・第2組曲(指揮=コルネリオス・ミハイリディス、P=角野未来)

(3)6月5日・6日:①ブラームス「ヴァイオリン協奏曲」、②同「交響曲第1番」(指揮=佐渡裕、Vn=三浦文彰)

(4)7月3日・4日:①芥川也寸志「交響管絃楽のための前奏曲」、②伊福部昭「ヴァイオリンと管絃楽のための協奏風狂詩曲」、③吉松隆「交響曲第3番」(指揮=藤岡幸夫、Vn=木島真優)

(5)9月11日・12日:①ラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」、②同:組曲「マ・メール・ロワ」、③同「ダフニスとクロエ第2組曲」他(指揮=沼尻竜典、P=久末航)

(6)10月23日・24日:ワーグナー(マゼール編曲)「言葉のない『指環』 ~ ニーベルングの指環管弦楽曲集」(指揮=上岡敏之)

(7)11月13日・14日:①リスト「ピアノ協奏曲第1番」、②ドヴォルザーク「交響曲第8番」他(指揮=ジュリアン・ラクリン、P=石井琢磨)

(8)1月29日・30日:①プロコフィエフ:組曲「3つのオレンジへの恋」、②ハチャトゥリアン「ヴァイオリン協奏曲」、③チャイコフスキー「交響曲第4番」(指揮=佐渡裕、Vn=アレクサンドラ・コヌノヴァ)

上記8公演で一番興味を引かれるのは、7月の①芥川、伊福部、吉松の邦人作曲家によるコンサート(指揮=藤岡幸夫)です このほか9月の沼尻竜典指揮、久末航ピアノ独奏によるラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」も面白そうです 演奏曲目としては5月のグリーグ「ピアノ協奏曲 イ短調」(ピアノは角野隼斗の妹・角野未来)、6月のブラームス「ヴァイオリン協奏曲」(Vn=三浦文彰)、1月のハチャトゥリアン「ヴァイオリン協奏曲」などが面白そうです 一方、10月のワーグナー(マゼール編曲)「言葉のない『指環』 ~ ニーベルングの指環管弦楽曲集」は、フェスタサマーミューザのオープニング・コンサート(7/26)でジョナサン・ノット ✕ 東響で聴いたので、ノットとの比較で上岡のワーグナーを聴くのも一興かな、と思います

ということで、わが家に来てから今日で3865日目を迎え、トランプ米大統領が11日、「首都ワシントン(コロンビア特別区)の治安対策に州兵を派遣する。ワシントン警察を連邦政府の指揮下に置く」と表明したことに対し、50年ほど自治権を行使してきた特別区に対し連邦政府が介入を強めることを懸念する声が多く上がっている  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

何でもかんでも自分の支配下に置きたがるトランプは  ”部下に 任せられない”タイプの人間だな

         

昨日、夕食に「ビーフシチュー」と「生野菜とモッツアレラチーズのサラダ」を作りました ビーフは久しぶりにブロック肉を使いましたが、柔らかくて美味しく出来ました  ワインは息子が宮城県から持ってきた赤ワインです

         

Netflixでアダム・ウィンガード監督による2024年製作アメリカ映画「ゴジラ ✕ コング  新たなる帝国」(117分)を観ました

怪獣と人類が共生する世界。未確認生物期間「モナーク」が異常なシグナルを察知したことを発端に、ゴジラが君臨する地上世界とコングが生きる地底世界の2つのテリトリーが交錯し、ゴジラとコングが激突する しかし、その先には人類にとってさらなる未知の脅威が待ち受けており、怪獣たちの歴史と起源、さらには人類の存在そのものの謎に迫る新たな冒険が繰り広げられる

この映画は、2014年の「GODZILLA ゴジラ」から始まったハリウッド版「ゴジラ」シリーズ「キングコング:髑髏島の巨神」の世界観をクロスオーバーさせた「モンスターバース」シリーズの第5弾です

伊福部昭のゴジラのテーマを期待して観たのですが、まったく流れませんでした ひょっとして日本で製作する「ゴジラ」シリーズだけで使用されているのかもしれません

ゴジラ ✕ コングなので、モスラは出てこないのかと思っていたら、美しい華麗な姿を現したので良かった 初代のモスラの野暮ったさがなく、すっかり洗練されていて、ちょっと寂しさも感じました

         

今日は新国立劇場「オペラパレス」に細川俊夫「ナターシャ」を観に行きます

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原田慶太楼 ✕ 服部百音 ✕ 東京交響楽団でバルトーク「ヴァイオリン協奏曲第2番」、ニールセン「交響曲第4番」、芥川也寸志「八甲田山」を聴く ~ フェスタサマーミューザ・フィナーレコンサート

2025年08月12日 00時02分20秒 | 日記

12日(火)。昨日午前、宮城県白石市に単身赴任している息子が帰省しました お土産に宮城県の日本酒とワインを持ってきてくれたので、さっそく「夏限定にごり酒」を夕食時にいただきました とても美味しかったです

ということで、わが家に来てから今日で3864日目を迎え、トランプ米政権第1期で米国安全保障補佐官を務めたジョン・ボルトン氏は10日、世界の主要な紛争仲介者として名乗りを上げ、各国の首脳からノーベル平和賞候補として推薦されているトランプ大統領の最近の外交姿勢について、「彼は何よりもノーベル平和賞を求めている」と非難した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

   

   過去にヒットラーも推薦されたことがあるが 受賞はしていない 同じ独裁者のトランプは?

         

昨日の夕食は、娘が北海道旅行の際に送ってくれた「いくら」を基に、息子が「鮭いくら丼」を作り、大学時代の友人S君が送ってくれた「鰯」を梅煮にして、「豆腐と豆と野菜のサラダ」、「ハマグリの味噌汁」を作ってくれました いつもながらプロ級の味で、とても美味しくいだだきました

         

昨日、ミューザ川崎シンフォニーホールで「フェスタサマーミューザ フィナーレコンサート」を聴きました プログラムは①芥川也寸志「八甲田山」、②バルトーク「ヴァイオリン協奏曲 第2番」、③ニールセン「交響曲第4番 作品29 ”不滅”」です 演奏は②のヴァイオリン独奏=服部百音、指揮=原田慶太楼です

指揮を執る原田慶太楼は東京交響楽団正指揮者、愛知室内オーケストラ首席客演指揮者兼アーティスティック・パートナー、米ジョージア州サヴァンナ・フィル音楽・芸術監督を務め、2025年7月からオハイオ州デイトン・フィル音楽・芸術監督にも就任

開演前に原田、服部の2人によりプレトークが行われました 最初に原田が服部に「バルトークの第2番は、数あるヴァイオリン協奏曲の中でも1,2を争うほど演奏が困難な曲です なぜ、あえてこの曲を選んだのでしょうか?」と問いかけると、服部は「チャイコフスキーやメンデルスゾーンの方がチケットの売れ行きが良いと言われるのですが(会場)、自分としては、そればかりではなく、あまり演奏されない曲で美しく素晴らしい作品もあるので、そのような曲を取り上げるのも演奏家の務めだと思います バルトークもそういう曲です」と答えていました いつも思うのですが、彼女は芯がしっかりしています 服部だけ舞台袖に引き上げた後で、原田がこの日のプログラミングの趣旨を説明しました 「今年は芥川が生誕100年、バルトークが没後80年、ニールセンは生誕160年のアニバーサリーイヤーを迎えますが、この日演奏する作品はいずれも50代の時に作曲されました」と共通点を指摘しました トークの最後に「皆さん、ミューザの扇子、買いましたか?今日が最後ですよ。売れ残ると困ります。全員で買いましょう」とアジを飛ばして舞台袖に引き上げて行きました

会場はほとんど満席に近い状況です

オケは14型で 左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、その後ろにコントラバスという並び コンマスは小林壱成、隣はグレブ・ニキティンという2トップ態勢を敷きます なぜか、ティンパニが正面奥のほかに下手にも設置されています 原田の場合は通常ヴァイオリンが左右に分かれる「対抗配置」がほとんどですが、プレトークでの解説によると、3曲目のニールセンは「不滅」の演奏についてはこの配置を指定しており、ティンパニも2台登場させ、1台はできるだけ客席に近い場所で演奏するようにという指定があるそうです

1曲目は芥川也寸志「八甲田山」です この曲は芥川也寸志(1925-1989)が1977年に公開された森谷司郎監督による映画「八甲田山」のために作曲したもので、第1回日本アカデミー賞最優秀賞を受賞しています 演奏するのは第1曲「八甲田山」(タイトル)、第10曲「徳島隊銀山に向かう」、第37曲「棺桶の神田大尉」、第38曲「終焉」の4曲です

原田の指揮で演奏に入りますが、ほとんど「昭和」の世界です NHK大河ドラマ風の雄大な音楽がフルオーケストラで演奏されます

2曲目はバルトーク「ヴァイオリン協奏曲第2番」です この曲はベラ・バルトーク(1881-1945)がハンガリー出身のヴァイオリニスト、ゾルタン・セーケイのために1937年から38年にかけて作曲、1939年3月にアムステルダムで初演されました 第1楽章「アレグロ・ノン・トロッポ」、第2楽章「アンダンテ・トランクイロ」、第3楽章「アレグロ・モルト」の3楽章から成ります

ヴァイオリン独奏の服部百音(はっとり もね)は1999年生まれ。桐朋学園大学大学院修了。10歳以降様々な国際コンクールで優勝やグランプリを受賞 国内外でオーケストラとの共演を重ねるほか、自主企画によるコンサートも展開している

協奏曲の場合は通常、弦楽器の編成を縮小する(本公演では14型を12型に)例が多いのですが、服部の強靭な演奏力に対峙するためか、14型のままの編成を維持します

グリーンのラメ入り衣装で登場した服部が指揮台の下手にスタンバイしますが、彼女の前には譜面台がありません

原田の指揮で第1楽章に入ります ハープの和音連打に導かれて、服部のヴァイオリンが入ってきます 服部は目まぐるしく変化するテンポをものともせず、超絶技巧により切れ味鋭い演奏を展開します 第2楽章では独奏ヴァイオリンにより美しいメロディーが奏でられ、一息つきます と思っていると、一寸先は闇で、再びテンポが上がり情熱的な演奏が繰り広げられます 第3楽章は再び切れ味鋭い独奏ヴァイオリンが縦横無尽に天翔けます 原田 ✕ 東響とのコラボは「協奏曲」というよりは「競争曲」です 何かに憑りつかれたような熱狂的な演奏で曲を閉じると、服部がちょっとフラっとしてバランスを崩しました 一瞬、大丈夫か?と思いましたが、すぐに立ち直りました あまりの熱演に一時的に酸欠状態になったのかもしれません

満場の拍手とブラボーが飛び交うなか、カーテンコールが繰り返されました あれだけ難しい曲を終始暗譜で演奏し、両腕を酷使したのだからアンコールは期待しない方がいいな、と思っていたら、そこは不死身の服部百音です 左腕をぶるんぶるんさせて緊張した筋肉をリラックスさせてから、ファジル・サイ「クレオパトラ」の音楽を、いとも鮮やかに演奏、再び満場の拍手に包まれました 彼女はまだ26歳ですが、とてつもない精神力と表現力の持ち主です まだまだ彼女のチャレンジは続くでしょう すごく楽しみです

プログラム後半はニールセン「交響曲第4番 作品29 ”不滅”」です この曲はカール・ニールセン(1865-1931)が1914年から16年にかけて作曲、1916年にコペンハーゲンで初演されました 単一楽章ですが、4部から構成されています

オケは14型のままで、前述の通りティンパニが中央奥とステージ下手にスタンバイします

原田の指揮で演奏に入ります 第1部では弦楽セクションの渾身の演奏と、伊藤文嗣のチェロ独奏が印象的でした 第2楽章ではフルートの竹山愛、クラリネットの吉野亜希菜、オーボエの荒絵理子、ファゴットの福井蔵の演奏が冴えていました 第3部では厚みのある弦楽セクションのアンサンブルが印象的でした 第4楽章では2人のティンパニ奏者による掛け合いが迫力満点で、オケの総力を挙げて演奏されたフィナーレは爽快でした

満場の拍手とブラボーが飛び交うなか、カーテンコールが繰り返されました 原田はプレトークで「今から言っておきますが、アンコールをやります フィナーレ公演のアンコールはこの曲しかありません」と語っていた山本直純「好きです かわさき 愛の街」を、聴衆の手拍子を求め、聴衆参加型のアンコールで今年のフェスタサマーミューザを締めくくりました

         

本公演をもって7月26日から始まった「フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2025」も終了です オーケストラ・セット券(全11公演)を取ったので、全て同じ指定席(2階2CA6列53番)で聴きました 2階センターブロックとは言え、右端の方の席です 昨年までは1階席の良い席が取れていたのですが、次第に良い席が取りにくくなっていると感じます 今年の特徴は①初めて「九州交響楽団」が参加したこと、②プレトークが各公演とも20分間みっちり話されたこと(昨年までは5分とか10分で終わるトークがあり、ガッカリした)の2点だと思います このほか、例年どおり洗足学園音大のバレエ公演を観ましたが、秋山和慶氏の姿が見られなかったのが寂しかったです

この日の公演は、今年聴いた120回目のコンサートでした 今後は在京オーケストラの定期演奏会や新国立オペラ中心の従来ペースに戻ります

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芥川也寸志著「私の音楽談義」を読む ~ 生誕100年を迎えた作曲家による平明な文章で書かれたクラシック入門書:興味深いショスタコーヴィチのエピソード / 芸術は静寂から生まれる

2025年08月11日 00時04分13秒 | 日記

11日(月)。昨日の朝日新聞朝刊のコラム「日曜に想う」で吉田純子編集委員が次のように書いています

「闇はもはや贅沢品である。闇と静寂は畏れと自省をもたらす 芸術は静寂から、娯楽は喧騒から生まれる。思想統制と娯楽政策の両輪で、政府が国民を総動員していた時代があったことを忘れてはならない

「芸術は静寂から、娯楽は喧騒から生まれる」というのは名言です 「芸術は静寂から」の部分では、マーラー「交響曲第1番」第1楽章の冒頭を思い浮かべました

ということで、わが家に来てから今日で3863日目を迎え、イスラエル政府がパレスチナ自治区ガザ地区での紛争を拡大し、北部ガザ市制圧を承認したことを受けて、イスラエルのテルアビブで9日、紛争終結を求めるデモが行われ、数万人が参加した  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

   

   イスラエルは 紛争拡大よりも 人質解放を優先すべきだ  ネタニヤフはとち狂っている

         

芥川也寸志著「私の音楽談義」(中公文庫)を読み終わりました 芥川也寸志は1925年に東京・田端で芥川龍之介の三男として生まれる。1949年東京音楽学校研究科卒業。伊福部昭らに師事後、作曲家として「交響三章」「ラ・ダンス」などを発表 53年に團伊玖磨、黛敏郎と「三人の会」を結成。作品に「弦楽のための三楽章」、オペラ「ヒロシマのオルフェ」など NHK大河ドラマ「赤穂浪士」のテーマ音楽も手掛ける。このほか「音楽の広場」「N響アワー」の司会などテレビ出演でも親しまれた。89年に63歳で死去

本書は関西労働者協議会(関西労音)の機関紙「新音楽」に連載されたものを、1959年5月に単行本「私の音楽談義」として音楽之友社から刊行したものです 巻末の「解説」で音楽評論家の片山杜秀氏が次のように書いています

「芥川の信じる日本の音楽文化の理想的未来を実現するために、音楽を愛する労働大衆としっかり結びつきたくて、その回路を作る最良の規範と質を有する社会勢力として労音に魅力を感じ、深入りしていったのでしょう そもそも芥川の音楽観は音楽文化の主体として労働大衆を考えていたのですし、本書を読めば、音楽とは専門家や高尚な人々が民衆に外から偉そうに与えるものではなく、民衆の生活の中から内在的に迸り出てくるものでなければならず、芥川ら専門家は産婆役としての地位に徹するべきだと思い詰めていることが、極めて直截的に伝わってくるでしょう

本書は次の各章で構成されています

第1章「音楽談義」

第2章「リズム談義」

第3章「旋律談義」

第4章「ハアモ二ィ談義」

第5章「形式談義」

第6章「楽器談義」

第7章「音楽談義再説」

アラカルト

本書の「帯」に書かれている「クラシック音楽をもっと身近に。現代音楽の作曲家が残した、かぎりなくやさしい音楽入門」の通り、今から66年前の一般的な労働大衆にも分かるような平明な文章で書かれています ただ、時代があまりにも離れすぎているので、現在からみると 時代背景やエピソードに古さを感じます 例えば、著者はヨーロッパ諸国と違い、日本にはクラシック専門のコンサートホールやオペラ専門のオペラハウスがないことについてさかんに嘆いてます また、映画については、映像はともかく音が酷いと嘆いています これらは、東京のみならず地方各地にもコンサートホールが作られ、映画館ではドルビー・サラウンド・システムによる大迫力サウンドが当たり前の現代社会からは隔世の感があります しかし、音楽そのものに対する音楽家としての考えや姿勢は古いも新しいもありません

第2章から第4章までは「音楽の3要素」である「リズム」「メロディー」「ハーモニー」を取り上げていますが、著者は基本になるのは「リズム」であると強調しています これは彼の「交響三章」や「弦楽のための三楽章」などで聴かれる「オスティナート」に特徴的に表れています

著者は最後の「アラカルト」の中の「青少年向作曲法序説」で、作曲家を目指す人のためのアドヴァイスを書いていますが、そのうちの一つは音楽を聴く人のためのアドヴァイスとしても通じるものがあります

「貴方の音楽的体験を豊富にしていくことです 学校唱歌しか知らない人はその範囲でしか音楽を考えることができません まず、いい音楽、名曲、傑作といわれる音楽を数多く聴くことです それは貴方の音楽的感覚と知識を高めるばかりでなく、創作意欲を湧き立たせ、音楽に対する正しい思考力を増やし、ウマク出来た音楽とマズク出来た音楽とを判断する力を養うという点で、作曲生活をどれだけ豊かにするか分かりません

本書を読んで一番面白かったエピソードは、「アラカルト」に収録された「ショスタコーヴィチの笑い」です   芥川はショスタコーヴィチと親交があったことで知られています

「絶えず何かにおびやかされているように、眼玉をせわしなくきょろつかせている、見るからに気の弱い神経質そうなこの男 ポケットからタバコを取り出す。けいれんするような手つきでさぐりあてた1本を口にくわえるとあわただしくマッチ箱をさがす。あっちのポケット、こっちのポケット・・・・ その動作はまことにせせこましく、フットボールの選手が機敏にグラウンドを走りまわるさまにやや似ていないこともないが、その他のあらゆる点でこの2つのものはくっつかない

「たしかに彼はフットボールが好きでたまらないらしく、この話が続いている間、うすいくちびるをななめにまげて薄笑いを続けていた 仮面の笑いー不思議な笑い方である。笑いにフィルターがかかっている フットボールの話はまだよかった。話題が音楽に移るとぼくはすっかり困惑してしまった。話が一向にのってこない まるで2人の人間がいるようで、どちらに焦点をあわせていいのかわからない。そのうちに、ぼくの相手になっているのは2つの仮面で、本物はどこか別のところにいるような錯覚さえ起こしそうになった ぎごちない会話が続いた。『今のお仕事は?』『新しい11番目の交響曲を出来れば夏までに書き上げます。これは1905年の革命の歌が主題になっています この頃はどうも身体が疲れて仕方がありません。だから、仕事は朝から5・6時間しかしません。朝はものを考えるのに一番よいように思います』『作曲にピアノはお使いになりますか?』『ほとんど使いません。その方が音楽を深く考えられるような気がします』。彼の表情はまるでスポークスマンのそれで、とても自分のことをしゃべっている人の顔とは思えない そして時々例のフィルター・カットの笑いが浮かんでは消える。こんなやり取りをしている間に、ぼくは少しずつクセモノの正体がわかってきたような気がした。おそらく彼は猛烈なお人好しで、少年のような天真爛漫な精神の持ち主に違いない だから、無遠慮に批判の問題を切り出した時も、『われわれの間の批判は同志的なものですから、もし批判を恐れる人がいたら、それは臆病というより他ないでしょう。(そして例の笑いを浮かべながらフットボールと同じ調子でしゃべりだす)。重苦しい音楽ばかり出来たら、聴く方はやりきれないでしょう。楽しい音楽もたくさん必要ですよ 私の音楽についていろんなことをいう人がいますけれども、これからも私は軽い面白い音楽をたくさん書こうと思っていますよ』という 『好きな外国作品は?』と訊くと、いとも簡単に『レスピーギのローマの泉。それからミヨーのフランス組曲。それから・・ブリッテンの作品。それから・・・ボギーとベス。ガーシュイン。それから・・・』と続けた

ショスタコーヴィチの人と成りがよく描写されていて興味深いものがあります 絶えずせせこましく動き、本物は別のところにいるような錯覚を起こしそうになる、天真爛漫な精神の持ち主・・・という描写は、まるでモーツアルトみたいだな、と思いました

好きな外国作品は意外に感じました すべてがショスタコーヴィチの作品とは真逆の作品だと思ったからです

本書はアマチュア・オーケストラ「新交響楽団」の創設指揮者でもある芥川也寸志による音楽入門書です 平明な語り口で書かれており、すらすらと読めます クラシックファンに限らず幅広くお薦めします

         

今日はミューザ川崎シンフォニーホールに「フェスタサマーミューザ・ファイナル・コンサート」を聴きに行きます

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