7日(火).暑い一日だった昨日,初台の新国立劇場にプッチーニのオペラ「マダム・バタフライ」を観に行きました 蝶々夫人=オルガ・グリャコバ(ソプラノ),ピンカートン=ゾラン・トドロビッチ(テノール),シャープレス=甲斐栄次郎(バリトン),スズキ=大林智子(メゾ・ソプラノ)といったキャスト,イブ・アベル指揮東京フィルです.
「お江戸日本橋」「宮さん,宮さん」「君が世」など,日本ゆかりのメロディーが随所に散りばめられて馴染みやすいオペラです.蝶々夫人というと,日本人が演じるのなら自然でいいのですが,欧米人が日本髪を結って歌を歌うと,どうも違和感があります.でも,きょうのグリャコバはロシア人ということもあってか,それほど違和感はありませんでした 演出は栗山民也で,確かこれが新国立の「蝶々夫人」の同じ演出の3回目です.第1幕,第2幕ともまったく舞台転換なしで,場面はまったく動きません.真ん中に天井なし・障子だけの部屋があって,舞台左に階段が,右に坂があります.そして舞台中央奥には星条旗が風にはためいています.このままでは観客は飽きてしまうでしょう.しかし,それを補っているのが照明です
日本人であることを捨て,宗教を捨て(ピンカートンを愛するあまりキリスト教に改宗する),芸者の身分も捨てて,仮の結婚式を挙げたものの,アメリカ人にもなれず,妻にもなれないーこのオペラはそんな一人の女性の心理劇を描いたものだ,という説がありますが,その心理を表現していたのが”照明”でした 希望にあふれているときは明るい照明,失望したときは暗い照明,その切り替えによって蝶々さんの心の動きを現していました.
照明の力を最大限に発揮したのがフィナーレです.子供を引き取りたいというピンカートン夫妻の意思を伝えられ,観念した蝶々さんは子供に別れを告げ,父の形見の短刀で自決します.その一瞬に舞台がパッと明るくなり,子供が奥から現れて蝶々さんに近づきます.その直後に照明が落とされ真っ暗になります.この明から暗への急転換に劇的な音楽が重なります 3回も同じ演出で観ると,そろそろ新しい演出で観てみたいものだと思いますが,その都度あらたな発見があることも否定できません.オペラって本当に奥が深いと思います