明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(265)フォトジャーナリスト豊田直巳の見た福島・原発震災のまち(10月4日開催)

2011年09月19日 01時30分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110919 01:30)

毎度、京都の企画の案内で恐縮ですが、10月4日(火)の午後6時半から、
フォトジャーナリストの豊田直巳さんをお招きして講演会を行います!
豊田さんは、イラク・パレスチナ・サラエボなどを取材してきたフォト・
ジャーナリストで、とくに劣化ウラン弾の問題などをおいかけてきました。

僕自身は、大学が同じだったこともあり、その後、ある取材現場でばっ
たり出会ってから連絡を取りあってきました。イラクなどの取材の話を
聞くために、京都に招いたこともありますが、311後は、福島をはじめ、
被災地に飛び込んで取材している姿を何度かネットなどで拝見して
いました。

その豊田さんの取材内容を詳しく知るきっかけになったのは、8月に
飯舘村で酪農をしてこられた長谷川健一さんをお招きしたときのこと。
なんと長谷川さんから、豊田さんが、彼の家にも取材に訪れ、随分、
親しくなって写真を撮っていることを知りました。

可愛がっていた牛を手放した日のことを長谷川さんが話された時も、
「豊田さんたちなんか、みんなボロボロ涙を流しながらシャッターを
切ってたぞ」と言っていました。そのとき、取材者として現場に立ち
会った彼は何を思い、何を感じたのだろうかと思いを馳せました。

そんな彼から久しぶりの電話があり、京都に来る用事ができたと聞き
ました。それならぜひ話をみんなで聞きたいということに。「劣化ウ
ラン弾のことから話そうか?」という彼に対して、「いやもう、福島
のこと、豊田直巳のみた福島を話してよ。当事者の長谷川さんの話を
聞いて深く胸を打たれたけど、そこに訪れ、立ち会っていた側の話を
ぜひ聞かせてよ」と答えました。

実は豊田さんは、すでにこうした内容を、本にまとめています。
岩波ブックレットです。そのタイトルが『福島 原発震災のまち』です。
帯には「震災直後から現地を密着取材する著者が住民たちの生の声を
伝える渾身の記録!」と書いてある。実際、読んでみるとまさに渾身の
書きつけであることが伝わってきます。ぜひぜひ、手にとってみて
欲しい本です。

しかし直に豊田さんが何を見て何を思ったのか聞いてみたいし、質問も
してみたい。それで講演会という運びになりましたので、お近くの方、
ぜひお越しください。なお、ブックレットもぜひ手にとって欲しいので、
現場で即売します。講演会の後にサイン会もやってしまうのでお得です!!


当日は京都市のひとまち交流会館で18時半から行います。少し前に開場
します。まずはじめに僕が露払いで、内部被曝についての解説を30分
だけさせてもらいます。それから豊田さんのスライドをふんだんに交え
た講演が1時間、質疑応答30分、サイン即売会と流れます。
なおその後に近くでお酒でも飲みながらさらに話を聞くつもりです!

以下、案内を貼り付けます。

******************************

「フォトジャーナリスト豊田直巳の見た福島・原発震災のまち」

311以降、福島原発のすぐそばまで接近して取材を行うなど、被災地とそこに
いる人々の状況をカメラに収め続けてきたフォト・ジャーナリスト豊田直巳
さんをお招きして、原発震災のまちと人の様子をうかがいます。

豊田さんはこれまでイラクに赴いて劣化ウラン弾の取材も行ってきました。
被曝米兵にも取材し、放射線と人の関係を丹念に記録してきました。311の
直前にはチェルノブイリも訪問。まさに放射線被曝の問題を第一線でおい
かけてきた第一人者です。

その豊田さんをお招きして、ふんだんな写真と共に豊田さんのみた福島の
お話をうかがいます。酪農家の長谷川健一さんとの触れ合いをはじめ、
魅力的な話がいっぱいです。みなさま。ぜひお越しください。


10月4日(火)午後6時半から
ひとまち交流館第4会議室

内部被曝についての解説を守田敏也が30分ほど行ってから、豊田さんに
お話ししてもらいます。講演1時間、質疑応答30分のスケジュールです。

豊田さんは、福島現地取材内容を、『福島 原発震災のまち』という本
(岩波ブックレット)にまとめています。当日サイン即売会も行います。
みなさま、ぜひお越しください!


主催 「豊田直巳さんの話を聞く会」
問合せ先 片岡ダイスケ 090-6005-6878(予約不要)
参加料500円



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明日に向けて(264)必読!チェルノブイリ被害実態レポート(前書きがアップされました)

2011年09月18日 23時30分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110918 23:30)

友人が参加しているTranslators United for Pease(平和をめざす翻訳者たち)が
速報925号で、「チェルノブイリ被害実態レポート第1回「前書き」<チェルノブイ
リを忘れない>」をネット公開しました。非常に重要な内容です。ぜひご覧
下さることをお勧めします。長い内容になるので、転載はせずにアドレスのみ
記しておきます。
http://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=957

このレポートは、チェルノブイリ事故の犠牲者がいったいどのぐらいであるかに
ついて述べたもので、結論として、約100万人という数字が出されています。
これに対して、IAEAなどの国際機関が2006年に出した数字は4000人。0.4%にし
かなりません。レポートはこれがとんでもない虚偽の数であることを暴いたもの
です。

レポートの名は、『チェルノブイリ――大惨事が人びとと環境におよぼした影響
(Chernobyl: Consequences of the Catastrophe for People and the
Environment)』。2009年に出版されました。より正確には死者の見積もり数は
98万5千人とされています。まとめたのは、ロシアの科学者アレクセイ・ヤブロ
コフ博士を中心とする研究グループで、英語文献だけでなく、ロシア、ウクライナ、
ベラルーシなど、現地の膨大な記録や文献が精査されています。

現在、翻訳チームが岩波書店からの出版を目指して奮闘中ですが、現在の事態の
中で情報を早く伝える必要性にかんがみて、今回、前書き部分を出版に先んじて
ネットに公開してくれています。次にその前書きについてみていきますが、
前書きのクレジットは、ディミトロ・M・グロジンスキー教授(生物学博士)、
ウクライナ国立科学アカデミー一般生物学部長、ウクライナ国立放射線被曝防護
委員会委員長となっています。


前書きが訴えているのはチェルノブイリ事故後、原発の危険性を覆い隠したい
国際的な動きと、危険性を正しくレポートしようとする動きの中で評価の二極化
が生じたことです。それは前述のように100万人対4000人にまで開いているわけ
ですが、前書きが指摘するのは、本来行われるべきであった低線量被曝について
の系統的な研究が行われなかったこと、そのため住民の被曝を防止する対策が
きちんとなされなかったために、健康被害が増大してしまったこと、にもかかわ
らず、放射能を怖がりすぎたためにこれらの結果が出たという説明がされたこと
です。

さらにこれらの論拠を強化するために、それまでの放射線と細胞との相互関係
に関する基礎的な知見の変更すらが画策され始め、それまで原子力推進側がとって
きた放射線の効果に関しての「しきい値のない直線的効果モデル」までも否定
するキャンペーンがはじまりました。つまり放射線の人体への影響は、その量と
比例して大きくなる。このためほんの少しでも影響が認められ、これ以下は
安全という「しきい値」は考えられないという見解が否定されだしたのです。

本レポートはこうした論議に終止符を打つことを目的としています。そのために
ロシアとウクライナ政府が、1986年から10年間の事故に関する文章を機密解除し
たことなどもうけて、被害状況を精査していますが、そこにはかなりショッキン
グな内容が書かれています。例えばウクライナのキエフでは、事故前は90%の
子どもが健康とされていたものの、現在では20%しか健康な子どもがいないこと。
さらにウクライナ内のポレーショーでは、健康と言える子どもは存在せず、
すべての年齢層で、罹病率があがっていることなどです。

前書きは、こうした実態だけでなく、内部被曝の危険性もまた、隠されてきた
ことを指摘しています。またこうした内容を調査し、明らかにしようとして
きた機関が不当に解散されそうになったり、資金提供が止められたりしたことも
指摘している。そのように放射線被害から人を守ろうとするのではなく、放射線
被害を隠そうとし、まっとうな調査すらゆがめようとしてきた中で、被害者が
100万人にいたってしまったのです。


詳しくはぜひ前書き全文を読んでほしいですが、私たちが何よりも読みとらねば
ならないのは、これは今、福島後の私たちの国で起こっていることだということ
です。死者の推計が100万人にも及ぶような被害、それと同等か、それに近いだけ
の放射性物質が、福島原発から出てしまっています。

そして何よりも注意すべきことは、にもかかわらず、その実態を隠し、さらに
内部被曝の危険性を覆い隠して、避けられるべき被曝をも避けさせず、むしろ
被曝を拡大することで、被害を甚大化していくことが今、行われているという
ことです。まさにチェルノブイリ以降と同じ事が、進みつつあります。

その象徴として指摘したいのが、私たちの国の首相官邸ホームページに、この
レポートで全面否定されているIAEAの2006年の報告が掲載されていることです。
しかも日本政府の場合は、その一部しか掲載していない。なんと100万の0.4%
でしかない、死者推計4000人という数すら載せていないのです。書かれている
のは、原発内で被曝して3週間以内になくなった28名と、甲状腺癌で亡くなった
子ども15名という数字のみ。これだけを読むと、事故の影響による死者は43名
(0.004%)にしかみえないような書き方がされている。詐欺的トリックです。
http://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g3.html

ここに象徴的にあらわされているのは、私たちの国が、チェルノブイリの経験を
生かすどころか、事故隠しの手法を生かそうとしていること、そのためあたら
避けられる被曝までもが拡大しつつあるという事実です。いやそれだけでなく
避難地区の設定基準や、飲食物の基準値など、多くのものが旧ソ連よりも非常に
甘く設定されてしまっています。旧ソ連では移住義務のある地域、あるいは
移住権利のある多くの地域が、日本ではそのままにされている。そのためこの
ままでは、チェルノブイリの経験よりも、より甚大な被害を私たちの国は出して
しまう可能性がある。

そんなことは絶対にあってはなりません。チェルノブイリのその後の経験、
かの地の人々の苦しみを無にしてはいけない。そこで得られた知見をこそ生かし、
より効果的な避難や放射線防護対策を行っていく必要があります。

本レポートはそのための有力な手がかりになります。それを逐次こうして発表
してくださるのはとてもありがたいことです。ぜひみなさん、本文を参照し、
これをプリントし、それぞれの地域の多くの方、行政や学校関係者等々に
配りましょう。それだけの価値がある文献です。

翻訳チームのみなさんに感謝しつつ、同レポートの紹介を終えます!





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明日に向けて(263)内部被曝-怒りを胸に、楽天性を保って最大防護を-(矢ケ崎さん講演碌)

2011年09月16日 23時30分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110916 23:30)

すでにお伝えしたように、本日、兵庫県弁護士会館にて、矢ヶ崎克馬さんの
講演会が行われました。タイトルは「内部被曝-高線量と低線量内部被曝は
全く違う。怒りを胸に、楽天性を保って最大防護を-」です。僕もかけつけ
てノートテークしてきました。速報としてお伝えしたいと思います。
なおこれはあくまでも「守田がかく聞いた」内容であることにご留意ください。

************************

内部被曝 
怒りを胸に、楽天性を保って最大防護を
矢ヶ崎克馬 琉球大学名誉教授

ご紹介いただきました矢ヶ崎です。自己紹介を少しさせていただきます。
私は長野県松本の育ちです。青年期に松本城をにらみながら暮らしました。
私が琉球に渡ったのは1974年でした。まだ学習している時に、1972年、施政
権の返還が勝ち取られました。大変、感激しました。なんとか沖縄県の皆さ
んと一緒にやることがあるという思いになりました。

私は物性物理学が専門でした。超伝導などの基礎研究です。物理学と教育の
基盤整備ぐらいならできるかと思いました。ドクターを出たものは、研究条
件がいかにいいかで職場を選ぶのですが、私は研究条件のないところに飛び
込んでいくという無謀なことをしました。それでも学問を、市民の生活と離
れたところでやってはいかんという思いで、沖縄に渡りました。

物性物理学を行いながら、大学院生時代を広島で過ごして、被爆者の方々と
触れてきたので、学問研究は市民生活と切り離してはいかんという思いで、
沖縄に飛びました。平和の問題についてなんとか自分なりの道を開拓して
いかなくてはならないと思って、沖縄にわたりました。

私が琉球にいってからすぐに、米軍基地に核兵器部隊があることが発覚して
大騒ぎになりました。核の密約に大きな土台をもっていますが、そのときに
琉球大学の中に核兵器について語れるものが一人もいない。これはいかんと
思い、2年半にわたり土曜日に核問題のあらゆることを勉強しました。大学
の一つの教養科学の授業として、核の授業というものを設定することができ
ました。

大学のあらゆる分野から先生に教壇にたってもらい、あらゆる分野から一言
ずつ、一番大事なことを教える授業を設定しました。今も継続していて、学
生に大きなモチベーションを与えています。

その次に、沖縄県に劣化ウラン弾が投下されるという事件がありました。
そのときアメリカが県民に向かって、劣化ウラン弾は放射能ではないといいま
した。まだ内部被曝について勉強してなかったのですが、県民がなめられては
たまるかとアメリカに抗議を始めました。私の基盤は物理学で、放射線がどの
ように作用するかを考察してきましたが、劣化ウラン弾の危険性をそれなりに
みなさんに知って頂くことができたと思います。

そうこうしているうちに2003年に、原爆症の訴訟が行われ、全国の共通の証言
として内部被曝の問題を証言してくれと依頼をうけました。恥ずかしながらそ
のときにはじめて被爆者の内部被曝の問題を読みました。しかしICPRの問題を
体系的に批判したのは私がはじめてでした。そのとき多くの同僚はやめとけ
やめとけといっていました。

しかし現場の被爆者の方は間違いなく放射能の埃を吸って、内部被曝をして
いるのですね。しかしアメリカの核戦略の中で、そういうことはありません
ということで、アメリカはまず内部被曝のもとになる埃がないことにしてしま
いました。内部被曝のありようがないことになってしまった。それで多重がん
になって苦しんでいる人が、あなたは被曝していませんといわれて苦しんでき
たのが現場の姿でした。
裁判は19もありましたが、すべてにおいて、内部被曝の影響が認められ、
いくつかは全面勝訴、すべての判決で勝訴が勝ち取られました。

今、福島でこの事態がおこって、内部被曝という言葉を知らない人はないので
はないのではないかと思います。それで私の、走り出してから学ぶ学問スタイ
ルもちょっと主張していいのではと思います。普通の学者のスタイルとあまり
に違うので恥ずかしい思いもありますが、私は学問は市民とともに切り開く
文化であるということをこれからもモットーにしていきたいと思っています。


今日は内部被曝でどんなことが起こるのかということ、チェルノブイリでどの
ようなことが起こったかをお話したいと思います。内部被曝についての学問は、
科学的にみると大変歪んでいます。物性物理学などとまったく違います。そこ
では真理を発見したら、その人が助手であろうとなんであろうと凄い意味を
持ちます。しかし内部被曝の分野は真理は語ってはいけないものになっていて、
国民を苦しめるものになっています。

内部被曝は放射能の埃を食べたり飲みこんだりして、体のなかに入れてしまう
ことでおこります。目に見えない非常に小さいつぶですが、原子の数では、
10億個も、100億個も含まれます。放射性の原子ですから、埃の中からいっぱい、
放射線が出ます。体の中から被曝するのが内部被曝です。

これに対して放射能の埃が体の外にあるとき、被曝するのが外部被曝です。
放射線は原子によって出て来るものが違いますが、α線、β線、γ線がありま
す。α線、β線は短くしか飛ばない。γ線は遠くまで飛びます。だから放射線
が体をつき抜ける恐ろしいイメージがあります。しかしこの中ではγ線が一番
優しい悪さをします。

なぜ突き抜けて行くのかというと、体の中にある分子や原子との相互作用が弱
い。ところどころ、相互作用がおこり、分子を切断しますが、それでもエネル
ギーを余らせてしまうので、体の外に出ます。
しかしα線やβ線は、相互作用が強い。α線は空気中だと4.5ミリしか飛ばない。
しかしその分、たくさんの相互作用を及ぼします。短い距離の中でギシギシと
分子や原子とぶつかります。β線は1メートルしか飛ばない。体の中にあると
1センチです。

そのため外部被曝では、ほぼγ線だけと言いきってもいいと思います。1メートル
以内の時のみβ線にもあたります。ところがこれらが体の内部に入るとぜんぜん
違ってきます。体の中でたくさんの分子を切ってします。それが放射線の作用
です。

放射線の作用はもう少し難しく言うと、電離といいます。電離放射線といいます。
放射線は電子を原子から吹き飛ばすのです。電離とは分子切断のことであり、
DNAなども切断します。それが放射線の一番恐ろしいところです。

分子は原子と原子の周りをまわっている電子が、ペアをつくることによって結び
つきをつくって、原子の結合を作りだします。ここに放射線がくると、電子が
とびだして、この結合がきれてしまいます。これが分子が切られてしまうという
プロセスです。それがいろいろな悪さをします。

御用学者さんが放射線を少しは浴びた方が健康のためにいいといいますが、そん
なこと、原理からいっていいはすはないです。
分子が切られることで、わたしたちがまず想像するのは、例えば暑さを感じる、
寒さを感じるなど、あらゆる機能が分子を通じて行なわれています。そのため
たくさん切られると生体機能が維持できなくなります。そうした破壊の相がまず
考えられます。急性症状がでてきて、場合によっては死に至ります。高線量で
こうした状態がでてきます。

もうひとつ、これとはまったく違う悪さの仕方があります。細胞が生き残るが
ゆえに悪さをする場合です。これが低線量での悪さです。DNAがたくさん密集し
て切られると、ところどころ切られた場合と結果がずいぶん違ってきます。
ところどころの場合は修復が可能です。これがγ線での結果です。しかしα線
などでいっぱい切られると、再結合しようとしたときに、つなぎ間違えるという
ことがおこります。

遺伝子が変性してしまいます。そうすると変性されたものが何回もコピーを繰
り返していくと癌になってしまいます。晩発性の癌です。それを及ぼすのが内部
被曝です。これまでの放射線化学は、現象論ばかりで、なぜその症状が起こるの
かの本質論を語っていません。なんでそのような現象がでてくるか、きちっと
説明しうる状態で、説明できていると私は信じています。

今いった、外部被曝と内部被曝、高線量と低線量と比較すると、高線量の場合は
ともに生命機能の破壊の相があらわれます。しかし低線量の場合は、もっぱら
内部被曝で被害がでてくるのです。

アメリカの核戦略で、内部被曝が今の国際放射線防護委員会の規定からごそっと
抜けてしまっているのです。ICRPは高線量だけみています。低線量をまったく
みていません。そのため御料学者さんは高線量の危険性だけをいって、100ミリ
シーベルト以下はデータがないといいますが、大ウソです。チェルノブイリの
後でいっぱい研究が重ねられています。こうした核戦略に一番貢献しているのは、
日本です。

分子切断した対象が、遺伝子であれば、つなぎ間違えた変性が、数十回重ねられ
て癌にいたります。これには時間がかかります。晩発性といわれる被害になり
ます。もう一つ、あらゆる生物がそうですが、種の保全の面で非常に大きな問題
があります。子孫に遺伝子の不安定さが伝わって行きます。

遺伝子ではなく、細胞分子などがやられると、そのまま健康被害が起こります。
これは被爆者のみなさんの状態をみると、原爆ぶらぶら病などといわれるような、
何をしても根気が無い、すぐにくたびれてしまうようないろいろな症状がでて
きます。

それで福島について、文科省がメッシュ測定をおこなって、線を網目にして福島
県だけで2200か所測定したものがあります。それでちょうど福島市と郡山市の
青色のゾーンがありまして、ここが線量が高くなっています。この部分は栃木県
や埼玉県や千葉県にもあります。ホットスポットといわれる地帯です。

これをチェルノブイリと比較しました。チェルノブイリのルギヌイ地区のデータ
があります。それがまず私たちが比較していい汚染内容を持っています。なので
かなり突っ込んで分析しました。

ウクライナの法定汚染ゾーンがあります。1年間にどれだけ被曝するかの数をみて
いきますが、一番高いところは移住義務、次が移住権利、次が管理強化という
ゾーンになります。注目するところは、移住権利のところが、自然の放射線より
1ミリシーベルトだけ高い所とされていることです。この地域はもともと年間0.6
ミリシーベルトで、1.6ミリ以上だと、1ミリ高い場所になるのです。

ウクライナはこの年間被曝許容量1ミリシーベルトという条件をきちんと守って
いるのです。日本はそんなことをやるどころか、20ミリシーベルトと値を上げて、
我慢しなさいといっています。「頑張ろう福島」とかいいますが、「我慢しな
さい福島」と私には聞こえます。その点、ウクライナには1ミリを守ろうとした
誠実さがあります。

ここで強調したいのは、1ミリとはどれぐらいの放射線なのかです。誰もが少ない
値だと思ってしまいます。しかしこれは毎秒1万本の放射線があたる値です。1年
では億になります。けして放射線量が低いなどとは言えたものではないです。
ウクライナの誠実さは厳格に実施されていますが、しかしこれによって住民が救わ
れているかというと、まるっきりそうではないのです。

ルギヌイ地区の分布は大部分が管理区域です。85.2%です。移住権利地区と、
移住義務地区は、14.8%です。それに対して福島市は義務と権利を加えて33%に
もなります。これをみると福島はルギヌイ地区より高い放射線を浴びていること
がわかります。郡山市は、ルギヌイと同じぐらいの線量です。ただし管理地区に
入らないところも福島・郡山の方が多いところにも特徴があります。これは今後
のこれらの地域の健康状態をかなり示すことになります。

ルギヌイ地区の健康状態がどこに乗っているかというと、今中哲二さんが、
「チェルノブイリ事故による放射能災害、国際共同研究報告書」を書いています。
これをみると、100ミリ以下ではデータがないなどというのがいかにでたらめか
分かります。実際には100ミリ以下でいっぱい病気がでてきているのに、いかに
公式記録に載せないかが苦慮されてきたことがわかります。

ルギヌイ地区では、免疫力の低下がまず第一にあげられています。感染症の増加
長期化などさまざまな症状があらわれています。特徴的なのはガンの第3期から
4期にある人の平均余命が、胃がんで60ヶ月だったものが、1992年には8ヶ月に
落ちています。肺ガンでは40ヶ月が、8ヶ月です。さらに1996年には、2.3ヶ月
と2ヶ月にまで落ちています。

新生児の病気にかかる率や、先天性形成障害、精神神経的障害も増えています。
これについてICRPの医師たちは、これらの原因を、放射能を浴びたのではないか
心配するころからくるストレスのせいにしています。

一番ショッキングなのは、老化がもの凄く早まっていることです。年齢別に比較
するとピークの死亡率を一番高くカウントする年齢が10歳若くなってしまった。
平均余命では1985から1990、1992年で男性の死期は15年近く短縮し、女性は5年
から8年短縮しています。女性の方が子孫を残していくために強さがあるのですが、
そこでも5年から8年短くなっている。

子どもの甲状腺の病気と癌については、特徴的に事故から5年経ったときに、突然、
もの凄い数であらわれてきています。1995年で9年後で1000人中100人の子どもが
病気になり、1000人中12、3人が癌になっています。こういう実情があるのに、
政府からたくさんの研究者を派遣して病気の痕跡がないという報告が出ている。
科学をかたっているので余計に怖さが際立ちます。

今、ICRPと言いましたが、テレビに出て来る御用学者さんはこれの基準に沿ってい
ます。ヨーロッパではECRRという内部被曝をみる見方をする科学者たちがいます。
さきほど外部被爆でも破壊の相と、生き延びる相があるといいましたが、ICRPは
破壊の相しかみていないのです。

密集して分子が切断される場合、細胞レベルで小さくみていくと分かります。
しかしICRPでは臓器全体にそれをばらまいてしまう。そうなるとそれぞれの切断
地点が遠くて相互作用がおこりようがない。これでは第二の相がみえなくなりま
すが、ICRPは見えないようにしているのです。いっさいを平均化、単純化していて、
これは科学の観点を無視したものです。平均化、単純化されると科学のしようが
なくなるのです。

第二のICRPの基準で犯罪的なことは、功利主義と呼ばれるものです。「経済的
社会的要因を考慮して、合理的に達成できる限り」防護するとしているのです。
これは人の健康を第一にして、どれだけ線量があったら危ないかということでは
なくて、原発を進める上であまり厳しくすると、商売としては成り立たない。
それで適当に緩くしてやっていこうという考え方なのです。それが年間1ミリ
シーベルトなのです。軽いと言われていますが、その値でも大変深刻な問題を
抱えています。

さきほど、ヨーロッパ放射線リスク委員会を紹介しましたが、1945年から1989年で
内部被曝で亡くなった数を6500万人としています。ICRPでは117万人です。
数字だけみると多すぎるなど言われますが、チェルノブイリの放射性のチリは日本
にもきています。しかしICRPはこれらは勘定してないのです。

それさきほど内部被曝が隠されたといいましたが、アメリカの公開された文章に
はっきりあらわれています。核兵器は通常兵器ではない、放射線で苦しめられる
ことはないといった。またウラン濃縮工場を経常的に運営する必要ありました。
これが採算が取れない。それで原子力発電ということで、ウラン燃料を使わせる
ということで、世界に押し付けたのです。これで日本も押しつけられました。
原子力発電は実は常時、放射能を出しているのです。ICRPは規定以上に薄められて
いるので何ら問題はないといってきた。それを戦略として位置づけたのです。

内部被曝を否定するのに、病理学的に否定するのは難しいので、初めから
放射能がなかったということにしてしまったのです。原爆投下後に枕崎台風がきて
長崎で1000ミリ以上、広島では900ミリ以上の雨が降りました。広島では大洪水が
起こった。太田川の橋が20本流された。その後に放射線を測り、それが基準と
されたので、内部被曝が排除されました。

もう一つは、ABSSによるひどい調査が行われましたが、爆心地から2キロまでは
放射線を浴びているが、その先は被曝ゼロにされてしまいました。しかし黒い雨を
降らした原子雲は非常に広い地域に及びました。

ICRPはこれらに対して科学をすることを排除した説明をしてきました。
低線量被曝を公的に公式記録に残さないことを徹底してやってきました。
広島・長崎の調査結果からは晩発性のリスクも低いと原爆病院長がいったりする。

チェルノブイリでは、IAEAの調査団が放射線起因の疾病は皆無である。最も悪いの
は精神的ストレスといいました。日本の重松氏が団長でした。
これと同じように、いずれ福島の周りでいっぱい調査をして、放射線の影響は皆無
だという報告書が必ず出てきます。そのようなことをさせないことが大事です。

現場の問題で、短期的にも長期的にも、被曝をどうしていくかが重要になりますが、
政府が責任をもってやろうとはしないので、政治の中からいい方法は生まれてきま
せん。国民が自ら獲得していくしかない。これまでは科学者同士が決着をつけて、
それを国民が待っているというスタイルでした。これではダメです。国民のみな
さんが声をださなければ自分の命も守れないという悲しい状態です。

広島・長崎の状況では放射能が最も濃かったのは半径15キロでした。さらに枕崎
台風で多くが流された。ところが福島事故の場合は、汚染範囲が非常に広くなって
います。文科省の発表で167倍といっています。(セシウム換算)
そうした汚染された土地がずっと残ってしまいます。こういう状況の中で、
土地をそのままにしていくと、ずっと日本人が被曝してしまいます。

政府は限度地以下は安全といっています。ICRPですら、低線量でも害はありますと
いっているにもかかわらずです。しかし政府は、1キロあたり500ベクレルといって、
それ以上では大騒ぎするけれどそれ以下では大丈夫だと言っています。

しかも政府の計測では野菜を洗ってから測っています。国民の手にわたるのと
違う状態をわざわざ作ってから測っている。検査のごまかしなのです。
魚も検査するときには、えらと内臓を排除してやっています。一番汚染が強い
ところです。これも流通しているものと違います。

さらに稲藁や腐葉土、お米などに汚染が広がっていることが言われています。
例えば福島県内で比較的汚染が低いところで、1キロあたり9ベクレルといわれてい
ます。低いから安心してといっていますが、ドイツでは子どもには4ベクレルと
いっているのです。それも生活していく上でどこかに線を引かねばならないので
だしている線です。

こうしたことに対して、消費者がこれ以上危険な者は食べないというのがいいと
思います。生産者については、汚染食品を政府が買い取って、政府が保護しろと
言う必要があります。
そのところを一緒にやらない限り、生産者と消費者が食い違ってしまい、政府の
思うつぼになるかもしれません。

ヨーロッパ放射線リスク委員会では、外部被曝で測定した場合、内部被曝について
は600倍すると同じぐらいになるという数字を出しています。
外部被曝だけでものをみると、桁違いの過小評価になるのです。これは人の健康を
守る方法ではない。そのため健康管理をきちっとやらなければいけない。最大防御
をしていくという考え立つ必要がある。そうでないと風評被害とか言われて食べ
なくてはならなくなってしまいます。放射線で汚染されている可能性にあるものを
避けるのはまったく合理的な判断で、けして風評被害とかではありません。この
ことをはっきりさせておく必要があります。

除染においては、汚染物の置き場をどうするかが問題になります。
各市町村で汚染されたものの置き場を作らないといけない状態です。
学校教育はとても悲劇です。文科省は1ミリシーベルトといいだしましたが
まるっきり中味のある対応はしていません。ウクライナなどできちっと1ミリを
基準に対応しても、健康被害は出ているのです。
日本では福島近辺だけでなく、東京近郊まで学童疎開が必要です。巨大な危険が
背後に潜んでいます。

以上




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明日に向けて(262)日本の森と環境破壊と放射能汚染

2011年09月14日 23時00分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110914 23:30)

先月のことになりますが、8月27日に京都府北部の芦生の森を訪問しました。
そのときに埼玉県からわざわざかけつけて下さった方がいました。森國明
さんです。前日の、京北町での平賀緑さんと僕の講演会から参加して下さり、
その感想をご自身のブログに載せて下さっています。

森づくり「風の谷の森」という素敵なブログで、芦生の森については写真も
満載です。みなさまどうかぜひご覧ください。他にも読みごたえのある記事
がたくさん掲載されています。少しスクロールしていただくと、芦生の記事
や講演会のことが出てきます。
http://kazenotaninomori.wordpress.com/


さて今日は少し日本の森の特徴について書いてみたいと思います。みなさん、
「日本の森」という言葉をみて、どのような森を思い浮かべられるでしょうか。
・・・写真集などを思い起こされる方もいるかもしれませんが、少し山に入っ
た経験をお持ちの方は、それぞれに違った風景を思われるはずです。

なぜなら日本は狭い国土の中に非常に多様な気候条件を持ち、そのため植生が
とても豊富で次々に変化していくからです。これだけの多様性に富んだ森の
あり方は他国・他地域ににはそれほどみられないと言われています。その意味で
私たちはもの凄い自然の宝庫の中に住んでいます。

例えば私たちの国土はどんな気候帯の中にあるのか。北から亜寒帯、冷温帯、
北部暖温帯、南部暖温帯、亜熱帯があります。それぞれアカマツ、シラビソなど
の針葉樹、ミズナラ、ブナなどの落葉広葉樹、シイやカシなどの常緑広葉樹、
さらに、ソテツやアコウ、そしてヤシやタコノキなどが生息しています。

しかも太平洋側と日本海側も大きな違いがある。日本は地球上を西から東に
流れているジェット気流が、ヒマラヤ山脈で一旦、北と南に分かれたものが合流
して吹いてくる位置にあるため、冬には極めて激しい北西風が吹きつけ、日本
海から蒸発したたくさんの水分を運んできて豪雪が降ります。

反対に太平洋側には、今年もそうであったように大海から毎年たくさんの台風
がやってきて、暴風雨をもたらします。このため太平洋側と日本海側では、雨量が
夏と冬でまったく逆転するのです。その間に挟まれて、降水量の少ない瀬戸内
地方もあるし、台風の影響とは別のところにある北海道もあります。

しかも日本列島は急峻な山脈に覆われています。高低差が激しい。そのため一
つの山でも上の方が冷温帯、下の方が暖温帯など、違った気候帯の特徴を示し
ている場所がたくさんある。こういうところでは山を登って高度があがるにつれ
生えている木々が変化していくのです。

さらに地層も激しい変化に富んでいます。アルプスを歩くと、のどかに草の
広がる地帯があるかと思うと、いきなり岩だらけの地帯がでてきたりする。それ
にあわせて植生が変わってくる。このため、すぐ隣にある山の頂をみると、自分
のいる場とは全く違った風貌を示していることがあります。

つまりそれほどまでに日本の山は変化に富んでいるのです。この変化に則して
たくさんの種類の動植物が生息しています。しかもこれに四季が重なるため、
同じ地点とて、季節によって表情がまったく変わってしまう。そこに日本の山の
特徴、美しい個性があります。

とくに芦生の森は、冷温帯と暖温帯、太平洋側と日本海側の気候が合わさるところ
に位置しているため、生物種が大変豊富です。そこにこの森の魅力がありますが、
けしてそれは芦生だけに特徴的なことではありません。いずれにせよ、私たちは
世界でも稀な美しい森に囲まれて生きているのです。


その森に近年、さまざまな形での環境破壊が押し寄せていますが、あまり知られて
いないのは、そうは言っても、日本の森は、まだまだ守られており、戦後直後など
に比べれば森林面積が拡大していることです。これは戦争による乱伐の後に、山里
の人がせっせと植林を行ってくれたことによって維持されてきたものです。

これらのために日本の森林面積は現在国土の67%ぐらい。世界の中でも断トツを
示しています。にもかからわず林業が過小評価され、山の価値が正しく捉えられて
こなかったたために、近年、多くの山が荒れてしまい、災害などに弱くなってし
まっています。

さらにこれに拍車をかけているのが温暖化の影響です。山々では気候変動の影響が
如実にあらわれている。それは先にも述べたように、日本の山々が、入り組んだ
気候帯、ユニークな気候条件の重なりにあることと関係しています。ようするに
気候条件がそれぞれの地域で違うので、急激な温度変化の影響を被りやすいのです。

こうしたことの中で顕著に起こっている被害の一つがナラ枯れです。温暖化の影響で
もともとはカシに生息していたカシノナガキクイムシが、移動を開始し、それまで
触れることの無かったミズナラやコナラに接触してしまった。その時、木の構造の違い
から、カシはそれほど枯らさないカシナガがミズナラやコナラは激しく枯らしてしまった。

このため集団枯損が発生しているのですが、これらの木々はどんぐりを豊富に山に
供給しているために、多くの動物たちがたちまち困窮しています。例えばドングリを
使っているチョウやガは400種類もいます。これらが十分な繁殖ができなくなって
しまった。そしてそれは幼虫を子育てに使う鳥たちに多大な打撃を与えています。

さらに目にみえて困窮を深めているのは、ツキノワグマたちです。冬ごもりにむけて
たくさんのタンパク質をため込むべき時期にあるとき、クマたちは大好物のドングリ
が得られず、空腹になって里に降りてきてしまいます。降りて来るのはクマだけ
ではありません。サルたちも、シカたちもどんどん降りてきてしまう。

こうなる前に森はかなり荒れていたのです。臨床植物が食い荒らされ、昆虫の繁殖が
困難にになり、それらが森の中にあった絶妙な生態バランスを崩してしまう。例えば
昆虫を使って受粉をしている多くの植物もまた打撃を受けてしまう。それらが重なっ
て、森の崩壊が進行していき、大雨などに極めて脆くなってきているのです。


さてこれがこの間、日本の森で起こってきたこと、あるいはそう捉えられてきたこと
ですが、今はそこに放射能被曝が加わりました。正確にはこれまでも加わっていた
のでしょうが、何といっても今年、新たに加わった量は甚大です。そして山々の
動植物もやはり被曝しています。ここでもとくに恐ろしいのは内部被曝です。

人間と違って動植物は、原発事故のことを知るよしもありません。また仮に知った
ところで、どうすることもできない。山の木々はいったいどこに避難できるというの
でしょうか。そのため、もろに放射能を浴びたし、浴び続けています。そしてさまざま
に内部被曝が進んでいるはずです。

これがどのように影響してくるのでしょうか。見えやすいのは、鳥類やほ乳類だと
思います。とくに葉っぱに降り積もった放射能を食べたチョウの幼虫を食べた鳥の
雛たちは、今年はどうなったでしょうか。少なくとも福島原発に近い地域では、繁殖
の失敗が予想されますし、これはその気になればカウントできることでしょう。

さらにネズミたちはどうしたでしょう。カエルやヘビたちは、あるいはタヌキや
キツネ、そしてシカやクマたちなど野生動物はどうなっているのか。生態がよく
分からないものほど、実態を知るのは困難ですが、当然にも被害が起こっている
ことが予想されます。

植物はどうなっているでしょうか。当たり前の話ですが、植物も内部被曝します。
被曝してどのような影響が出て来るのだろうか。そのことが調べられる必要がある。
この点について、これまでに紹介してきたペトカウは、ヨーロッパの森林の枯損を、
酸性雨のためだけではなく、放射能の影響と解き明かしています。

考えてみれば、植物も生物ですから、内部被曝するのは当然です。そうなれば植物も
死んでしまったり、そうはならなくても、人間にガンが発生するように、細胞分裂が
阻害され、さまざまな病気が発生してくる。どういう形になるか分かりませんが、
可能な限りの調査がされればと思います。

かくして私たちの周りを取り囲んでいる豊かな山と森は今、重大な危機の中にあります。
森の危機が進行することは、さまざまな形で私たちの生活の危険性を増大させます。
その意味で私たちは自分を守るためにも、山と森に目を向ける必要があります。僕はその
一端として、ナラ枯れ防除活動を進めようと思うのです・・・。

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明日に向けて(261)16日矢ヶ崎さん講演会、17日細川さん除染活動報告会に!

2011年09月13日 00時30分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110913 00:30)

9月16日と17日に、神戸と京都で、魅力的な講演会と報告会が行われます。
もちろん僕も駆けつけます。ご興味のある方、ぜひご参加ください。

一つは矢ヶ崎克馬さんによる、内部被曝に関する公開学習会です。
福島第一原発事故以来、「内部被曝」という言葉がすっかり定着しました。
内部被曝というと、放射性物質を食べたり飲んだりして、内部から被曝する
こと・・・ということは多くの方がご存じだと思います。

しかしその危険性ついては、ほとんどといっていいほど知られていない!

なぜならは、政府やその周りにいる学者たちが、内部被曝の恐ろしさを
覆い隠してきたからです。もちろん中には、覆い隠された内容を、真実と
受け取って、疑ったことのない政治家や、学者さんもいるのでしょうが、
ともあれ内部被曝の人体への恐ろしい影響が非常に低く見積もられている。

例えばある人の被曝量を表現するときに、「外部被曝何ミリシーベルト、
内部被曝何ミリシーベルト、足し合わせて何ミリシーベルト」という表現
がされることがありますが、これは外部被曝と内部被曝を事実上変わらない
ものとする立場です。

しかしここにはかなり大きな違いがある。
最も重要なのは、外部被爆では主にγ線にあたり、いわば体全体にまばらに
放射線が当たる事に対し、内部被曝では、α線、β線、γ線の全てがあたり
しかもα線やβ線は、局所に集中的にあたる事です。とくにα線は、細胞の
中ではごくごく短い距離しかとばず、その間に大きなエネルギーで、細胞に
徹底したダメージを与えます。

人間の細胞は、放射線に傷つけられても修復する能力を持っていますが、
内部被曝におけるα線やβ線での被曝の場合は、ごく限られたところに
全エネルギーが使われるため、細胞が修復できなかったり、誤った修復が
行われ、異常なままに細胞分裂が行われて、ガンが発生するなどのダメージ
がもたらされます。

もちろんγ線被曝でも量が多ければ同じことにいたりますが、α線やβ線に
よる内部被曝では、低線量での深刻な影響がおよばされるのです。
この点だけとってみても、内部被曝と外部被曝とはかなり違うものであり、
おなじぐらいの値の被曝なら、内部被曝の方がはるかに危険な性質を持って
いるといえます。

しかしこの事実がこれまで隠されてきました。

矢ヶ崎さんは、この問題と、被爆者訴訟における被爆者弁護の中で取り組み
始め、今日まで研究を重ねて、内部被曝問題の第一人者としての業績を
積み上げられてきました。何よりたくさんの被爆者を助けてきました。

その矢ヶ崎さんに学ぶのが、16日神戸で行われる公開学習会です。
お近くのみなさんのご参加を呼びかけます。


もうひとつは、京都精華大学の細川弘明さんによる、「福島市での除染活動で
見えてきたこと」と題した報告会です。

おもな話題として以下の内容が列挙されています。

・福島原発事故による地域別の汚染状況
・除染の必要性と可能性(場所によっては不可能性)
・「除染」と「避難」の関係 ── 避難させないために除染するのではない
・「放射能除染・回復プロジェクト」の福島市での活動(5月~8月)
・その他の様々な「除染」活動、やり方/考え方の違い、問題点など
・「除染廃棄物」をどうするか

大変、尊敬に値する行動で、僕も可能ならばぜひ参加させていただきたい
とも思っています。

この間、僕が論じてきた避難と除染の問題についても、深い洞察と実践を
重ねておられます。
みなさんがぜひ聞きにこられますよう、僕からも訴えます。

以下、案内を貼り付けます!

***********

9月16日(金)18:00~
『内部被曝』公開学習会

主催:兵庫県弁護士会
場所:兵庫県弁護士会館
    本館4階講堂

講演:矢ケ崎克馬氏
   (琉球大学名誉教授)

予約不要・入場無料
(連)078-341-7061

*******

9月17日(土曜)19:00-21:00
場所: 堺町画廊 (京都市中京区堺町御池下ル丸木材木町)
    http://www.h2.dion.ne.jp/~garow/information/map.html

「福島市での除染活動で見えてきたこと」
 (トーク・シリーズ 《東北への風》第4章 )

話題提供: 細川弘明(放射能除染・回復プロジェクト)
       http://bit.Ly/josen719
資料代: 500円

主催: 「福島市での除染活動で見えてきたこと」を聞く会
問合せ: 中原( kou840@yahoo.co.jp
070-5650-9834 )

----------------------------------------------

《おもな話題》
 ・福島原発事故による地域別の汚染状況
 ・除染の必要性と可能性(場所によっては不可能性)
 ・「除染」と「避難」の関係 ── 避難させないために除染するのではない
 ・「放射能除染・回復プロジェクト」の福島市での活動(5月~8月)
 ・その他の様々な「除染」活動、やり方/考え方の違い、問題点など
 ・「除染廃棄物」をどうするか

映像、写真、地図などをまじえて、報告したいと思います。質疑応答&
意見交換の時間もとります。

----------------------------------------------
話題提供者のプロフィール

細川弘明(ほそかわ・こうめい)
 アジア太平洋資料センター(PARC)共同代表、京都精華大学 人文学部
(環境未来コース)教授、高木仁三郎市民科学基金 理事、グリーンピース
・ジャパン理事。福島原発事故後、京都精華大の山田國廣教授と福島大学の
中里見博准教授らが立ちあげた「放射能除染・回復プロジェクト」に参加し、
福島市内各地にて通学路ホットスポット調査、民家・農園・駐車場などの
除染テストをおこなってきた。
ツイッター @ngalyak (ログは http://twilog.org/ngalyak
http://www.kyoto-seika.ac.jp/magazine/entry/49.html
公開サーバー https://public.me.com/hosokawakm/ja/
三条ラジオカフェ震災特集 bit.Ly/radio325 bit.Ly/radio328 bit.Ly/radio428 ほか

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明日に向けて(260)911、再び全国で脱原発の声が!

2011年09月12日 23時30分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110912 23:30)

311から6カ月の昨日、9月11日、再び全国のたくさんの都市で、脱原発を掲げた
デモ・ウォーク・パレードが行われました。
僕自身は京都で行われた「バイバイ原発911パレード」に参加しました。
全体で1600人から2000人の参加と聞いています。

今回も会場やウォークの雰囲気がとてもよかった。それぞれが思い思いの
表現で、反原発・脱原発・卒原発・原発ノーという声を発していました。
京都での記録を中心に、全国の行動の様子を、ニュースや動画などで拾って
みました。

とても全部を網羅できていませんが、どうか興味のあるところをご覧ください。
さらに声を重ねて、脱原発のしっかりとした道を作って行きましょう。

****************************

バイバイ原発 911パレード 京都①
http://www.ustream.tv/recorded/17200270
(僕の発言の音が入っていました。ピースウォーク京都で10.8行動を呼びかけています・・・)

バイバイ原発 911パレード 京都②2
http://www.ustream.tv/recorded/17201177

京都のパレードの中心で頑張った方たちの凛々しい姿が観れます!
http://www.facebook.com/photo.php?fbid=10150290020217634&set=p.10150290020217634&type=1&theater
http://2.bp.blogspot.com/-_NknoI1yymE/Tmxu7kdr1bI/AAAAAAAACkA/P5ai6U54MAc/s1600/nuclear.jpg

以下、テレビニュース等々をアトランダムに。
とても全国のものを網羅できていませんが・・・。

京都学生デモ
http://www.youtube.com/watch?v=zVuPdfvzJFk

神戸
http://www.youtube.com/watch?v=uVmW9OSs4NI

福島
http://www.youtube.com/watch?v=YAr2yFkaqnw

広島
http://www.youtube.com/watch?v=HHNNudr7f5k

東京・大阪・松江・仙台
http://news.tbs.co.jp/20110911/newseye/tbs_newseye4823863.html

東京経産省人間の鎖・東京電力本社前デモ
http://www.tv-asahi.co.jp/ann/news/web/html/210911018.html

東京新宿
http://www.youtube.com/watch?v=LUBHsEgLeIY

土浦
http://www.youtube.com/watch?v=IiWj2zp8d3M

新潟
http://togetter.com/li/187225

福岡
http://genkaibai.blog.fc2.com/

なお東京では12名の方が不当逮捕されたそうです。
許せないです。この件について書いているブログを紹介しておきます。
http://matome.naver.jp/odai/2131578819509260701


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明日に向けて(259)放射能との共存時代を前向きに生きる(大江健三郎さんと『世界』と肥田さんについて)

2011年09月11日 02時00分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110911 02:00)

911事件から10年目の日を迎えました。戦争と暴力の10年を思いつつ、この
日の記事として、放射線被曝のことについて触れたいと思います。

9月8日に東京で行われた「講演会 さよなら原発」において、発言者の一人
大江健三郎さんが肥田さんのこれまでの活動に言及され、その中で『世界』
紙上で、僕が肥田さんに対して行ったインタビュー記事のことに触れて下さ
いました。以下から当該発言部分が観れます。どうかご覧下さい。
http://www.ustream.tv/recorded/17137373

大江さんはまず、アメリカのジェイ・M・グールドが書いた『死にいたる
虚構』について触れています。「明日に向けて」でも何度か紹介してきた
もので、肥田さんが執念で訳された本です。グールドはこの中で、アメリカ
の被曝の実態について述べている。

大江さんはこの本に大変感銘を受け、ノーベル賞を受賞した時に授賞式の
行われるストックホルムにもっていき、ホテルで隣り合わせたノーベル物理
学賞の受賞者にその内容を提示したそうです。するとフランス出身の物理学
者は大江さんに同意してくれましたが、もう一人の受賞者は、大江さんの
ことをノーベル賞受賞者の風上にもおけないといったとか。

続いて大江さんは、肥田さんが、原爆による体内被曝の恐ろしさを訴え続け
てきたことを紹介しています。またグールドの本の内容にも触れて、アメリ
カが隠してきた低線量被曝の危険性を力強く訴えています。ここで大江さん
は、これら肥田さんの訳された本が、今後、次々と出て来る・・・と注目
すべきことを語られている。あらたな出版の動きがあるのかもしれません。


さて大江さんはさらに『世界』9月号のインタビューに触れて、次のように
紹介して下さいました。「『放射能との共存時代を前向きに生きる』という
文章は必読の文章であります。とくに福島の子どもたち、お母さんたちには
最良の支えとなるでしょう。ここにもきてくださっている若いお母さんの
ために、私は最も有効な励ましになるものだと思っています。」

そして大江さんは、このインタビューの中で、肥田さんが放射線被曝の恐ろ
しさを語りつつ、しかし被曝したらどうするのか、被爆者に力強い励ましを
行ってこられたことに触れ、とくにインタビューに掲載した、肥田さんが
信頼するアメリカのアーネスト・スターングラス教授から教わった言葉を、
読みあげて下さいました。

それは次のような言葉です。
「そういう被害をもう受けてしまったのなら、腹を決めなさいということな
のです。開き直る。下手をすると恐ろしい結果が何十年かして出るかもしれ
ない、それを自分に言い聞かせて覚悟するということです。」

「その上で、個人の持っている免疫力を高め、放射線の害に立ち向かうのです。
免疫力を傷つけたり衰えさせたりする間違った生活は決してしない。多少でも
免疫力を上げることに効果があることは、自分に合うことを選んで一生続ける。
あれこれつつくのは愚の骨頂。一つでもいい。決めたものを全力で行う。
要するに放射線被曝後の病気の発病を防ぐのです。」

さらに大江さんは次のように続けられました。
「今の肥田舜太郎氏の言葉を引き出したインタビューアーの質問への先生の
最初の明瞭な意志表示を、私の話の8番目に短いものですが引用します。
『一つは放射線の出るもとを断ってしまうことです。これが肝心です。』これ
が肥田先生の結論なんです。放射線の出るもと、この国の54基の原子炉の全廃
を、国家につきつけようじゃありませんか」・・・。

大変、感慨深く大江さんの講演を聞きました。もちろん大江さんが深く共感さ
れているのは、肥田さんの生き方に支えられた力強い言葉であり、僕はそれを
媒介したに過ぎません。それでもそこに関われたことが素直に嬉しいです。


同時になんとも不思議な縁を感じます。というのはこの大江さんの講演内容に
触れたとき、ちょうど僕は大江さんが1963年から65年に書かれた『ヒロシマ・
ノート』を読んでいたからです。しかもそのきっかけは、『世界』のインタ
ビューを読んだ被曝3世の友人が、原爆病院の歴史などを知って欲しいと、僕に
同書を送ってきてくれたことをきっかけとしています。

そもそも『ヒロシマ・ノート』は、『世界』に大江さんが綴ったものを新書に
まとめて出版したものです。当時、20代末から30歳に至ろうとしていた大江
さんは、若く、ナイーブなフランス文学者であり、新進気鋭の小説家でした。
その大江さんと、岩波編集者の安江良介さんが、連れだって広島を訪れる
ところから同書は始まっています。

そのとき二人は個人的にも辛い状態にあったことから同書は書きだされてい
ます。「僕については、自分の最初の息子が瀕死の状態でガラス箱のなかに横
たわったまま恢復のみこみはまったくたたない始末であったし、安江君は、
かれの最初の娘を亡くしたところだった。そして、われわれの共通の友人は、
かれの日常の課題であった核兵器による世界最終戦争のイメージにおしつぶ
されたあげく、パリで縊死してしまっていた。」(同p2)

しかもこのときの広島は、原水爆禁止運動が分裂していく中にありました。い
きおい同書は暗いトーンで進んでいきます。被爆者の過酷な現状とも相まって、
押しつぶされるような、重苦しい現実が横たわっている。そこに飛び込み、
人々の表情の中にうつりゆくものを作家は読みとろうと、全身を鋭敏な受信機
と化して、街を歩いてゆくのです。

さらにヒロシマへの訪問は何度も重ねられていきます。大江さんは米軍占領下で、
長年にわたって蓋をされ、ようやく明らかになりだしてから10年に満たない被爆
者たちの苦しみ、痛み、嘆きのつぶやきに寄り添おうとしてゆく。同時にその
現実に立ち向かわんとする医師たちのたたかいに、共感を深めていきます。

「モラリストの広島」という章から少し内容を紹介します。
「(中国新聞が)、自殺するよりももっと悪い深淵におちこんでしまったひとり
の老人についてつたえている。新聞記者がこの老人を訪ねて行った時、老人は
87歳だった。それより3年前、かれの孫は原爆症で死に、そして老人は、発狂して
(ママ)ずっとそのままだ。青年の両親はすでに死亡していたから、老人は、
かれの孫を独力で育ててきた。青年は東京の大学に入学したが、経済的にゆきづ
まって中退し、広島にかえり、そしてまもなく原爆病院で苦しい死をむかえたの
である。老人が東京の孫にどうしても送金できなくなった時、青年は職をさがす
べくつとめたのだが、すでにかれの体は労働に耐えることのできるものはなかった。
広島に戻ってからのかれはつねに疲労していて、ただ寝そべっていた。そして
青年が視力のおとろえに気づいた時、医者は彼の眼のみならず、腎臓がおかされ
白血球の数も減少していることを見出した。やがて青年は、眼底出血で失明し、
一ヶ月後、新聞の記述によれば、血のヘドを吐き、泣き叫びつづけ、もがき苦し
み、それから突然に静かになって≪寂しいよ、寂しいよ≫といい、そして
≪アーアーアー≫と三回泣きじゃくって、息をひきとったのであった、この
限りなく過酷な死。」

「青年の死のあと、永い期間、老人はじっと黙りこんで仏壇のまえに座ったまま
日をおくっていた。それから不意にかれは死んだ孫にむかって語りかけはじめ、
もう決して沈黙しなかったのである。≪あんた、10円の金がないいうたよのう。
あのときあさましい思いをしたんじゃろうのう、隆ちゃん≫、老人が青年の思い
出にむかって語りかける言葉はつねに金銭に関してであり、金銭的な困窮による
あさましい思いについてである。≪あんたが自転車を売るというたとき、おじい
さんはおこらずに売らせてやればよかったのう。隆ちゃん、ゼニがいったんじゃ
ろうにかわいそうにのう。≫死んだ青年は老人にとって、かれ自身の死のときに
いたるまで(そしてそれは発狂した老人にとって永劫回帰の永遠にかかわってと
いうことだが)つねに、金銭的な困窮によるあさましい思いになやまされている。
それを悔みつづけるこの老人の内部におけるほどにも、絶対に恢復不能のまさに
あさましい絶望があるだろうか?」(同p77,78)

被曝の苦しみに身を焼かれる被爆者の苦しみを前に、作家は無力であり、ただ彼は
必死になって、その痛みを自分のものにしようとしていきますが、まさにそれゆえ
に、作家自身もまた展望を見いだせず、苦しみ、もがいていきます。それはときに
読み手をして、作家はナイーブにすぎるのではないかという思いも感じさせてしま
います。しかし作家はそこから逃げ出そうとはしない。全身で痛みを共有し、痛み
そのものになりきっていく。「痛みをシェアする」。作家はおそらく無自覚な選択
としてその道を歩み、自らを被爆者たちの痛みの中にくぎ付けにしたのだと思います。


そこからすでに45年。その年月を大江さんがどのようにすごされてきたのか、僕は
良く知りません。また大江さんが今、『ヒロシマ・ノート』を読まれてどのように
思うのかも僕にはよく分からない。
ただこのように被爆者の痛みに寄り添おうとしてきた大江さんだからこそ、僕は
今回のインタビューの中で、肥田さんが次のように語られたことに、深く共感され
たのではないかと思うのです。

肥田さんはこう語られました。
「一番不幸を背負って、誰にも助けることができない広島・長崎の被爆者に、
きちんと理屈を説明し、自分の身体を自分で守って放射線の影響と闘って、授けら
れた寿命いっぱい生きるのがあなたの任務だと悟らせ、勇気を持って生きさせるの
が正しい援助なのです。お金やものをあげるのは邪道だ。本人の生き方を変える。
そこまで僕は教わってきました。」

肥田さんのお話を聞いた時に、僕はその前向きな姿勢、力強い姿勢に深く感動しま
した。しかし大江さんの『ヒロシマ・ノート』を読むことで、あらためてそれが、
本当に過酷な運命を背負った被爆者の方たち、その嘆き、苦しみ、涙を共に越える
中から紡ぎだされた言葉であることをあらためて知る思いがしました。

そして今、思うのは、私たちもまた、私たちの前にあるさまざまな嘆き、苦しみ、
涙を越えながら、このように強く、逞しくなっていく必要があるし、きっとまた、
なれるだろうということです。なぜって私たちには素晴らしい先達がいるから。
広島・長崎から紡がれてきたものを私たちは受け取って未来に投げればいいのだと
僕は思います。それもきっとまた未来世代に受け継がれていく。私たちはけして
放射能だけを未来に送るのではないのです。

大事なのは勇気と優しさ、そして諦めない心なのだと思います。
・・・ゆっくりでも、互いに励まし合って、前に進んで行きましょう。










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明日に向けて(258)9月11日は、脱原発行動に!

2011年09月09日 23時30分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110909 23:30)

311から6か月目となる9月11日、各地で脱原発を掲げた行動が行われます。
僕は京都で行われる「バイバイげんぱつ9・11」に参加します。
京都では京都市と宇治市でウォークが行われます。

東京での情報も貼り付けておきます。それぞれで参加可能な方、ぜひ
歩みをともにしましょう。

***************

こどもたちの、みらいのために
バイバイげんぱつ9.11

福島原発事故からもうすぐ半年。被災地では、今も多くのひとが不安な日々を
送っています。福島の悲劇を繰り返さないためにも、今こそみんなで手を取り
合い、立ち上がり、一緒に声をあげましょう。

こどもたちに、安全な野菜と水と空気と、そしてみらいを。

★2011年9月11日(日)★ 
14:00集合/14:46出発

★円山公園 しだれ桜西側広場集合★

■主催:バイバイ原発9.11実行委員会  
■協力:バイバイ原発・京都
http://atomausstieg-action.jimdo.com/

********

・9・11 再稼働反対・脱原発!全国アクション
 http://2011shinsai.info/node/540
<経産省「人間の鎖」1万人包囲アクション+デモ、原発現地のアクションと連携>
○集合場所変更
13:00  日比谷公園・中幸門(日比谷図書館裏)集合[西幸門から変更]
※千代田線・日比谷線「霞ヶ関駅」C1出口より200m
  丸の内線「霞ヶ関駅」B2出口より300m
  都営三田線「内幸町駅」A7出口より150m

・9・11 エネルギーシフトパレード/代々木公園→明治公園 http://www.enepare.org/

・9・11 BE-IN集会/明治公園 http://www.be-in-tokyo.net/

・9・11 新宿・原発やめろデモ!!!!! /新宿 http://911shinjuku.tumblr.com/

************

脱原発:京都と宇治でデモ行進 震災半年の11日に /京都
毎日新聞 2011年9月4日地方版

東日本大震災と東京電力福島第1原発事故から半年となる11日、脱原発
などを訴え、行進するイベントが京都市と宇治市である。

京都市では、54の団体と個人23人(8月末現在)が賛同して、原発から
再生可能エネルギーへの転換を訴える「バイバイ原発9・11」が実施される。

午後2時に東山区の円山公園しだれ桜西側の広場に集合。2時46分に黙とう
後に出発。四条河原町、三条河原町を経て市役所前で解散する。参加スタイル
は自由で、プラカードの他、コスチュームや音楽、踊りも歓迎する。

「京都は福井県の若狭の原発と隣り合わせ。原発止めよの思いを示したい」と
している。問い合わせは、実行委の長谷川さん(090・8124・4945)。

一方、宇治市でも宇治橋西詰から市役所まで約1キロをデモ行進する「9・
11サヨナラ原発アクション」があり、市民の参加を呼び掛けている。

同市宇治半白、団体職員、大河直幸さん(32)がイラク戦争(03年)の
反対運動で知り合った若者と実行委員会を結成。「バイバイ原発」に合わせて
企画し、自然エネルギーへの転換などを訴える。

午前10時に宇治橋近くの市民会館に集合。

同10時半に出発し、JR宇治駅前を経て、同11時ごろ、市役所で解散する。
太陽光発電や風力発電をデザインしたプラカードを掲げ、鳴り物やデコレー
ションも歓迎する。

大河さんは「原発や自然エネルギー問題を身近に感じてほしい」と話す。
問い合わせは大河さん(0774・34・7520)。【太田裕之、村瀬達男】
http://mainichi.jp/area/kyoto/news/20110904ddlk26040276000c.html
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明日に向けて(257)キッチンハリーナ、ひとまち、山水人、信楽、ベジフェスでお話します。

2011年09月08日 22時00分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110908 22:00)

今後の予定をお知らせします。

キッチンハリーナ 守田敏也・内部被曝問題学習会

9月12日午後7時より、京都市左京区キッチンハリーナで、内部被曝に
ついての学習会を行います。連続3回の最後の会です。今回は主に、物理
学者の矢ケ崎克馬さんの話されている内容に則して行います。ちょっと
難しいかもしれませんが、事前学習は不要ですのでどうぞ。参加費500円。
ハリーナのアドレスです。http://kitchen-halina.net/

*****

守田敏也講演会
放射能から子どもを守る・京都・ママ・パパの会主催

9月13日午前と午後、ひとまち交流館でお話しますが、ただし、もう予約
満員だそうです・・・。一応、お知らせを載せておきます。

●講演会
日程
9月13日(火)

時間
午前の部…10時~12時 
午後の部…13時~15時 

場所
ひとまち交流館・京都 第一会議室

フリーライター守田敏也さん講演会
「放射能汚染と内部被曝 これからの日本は?京都は?
 ~内部被曝からカラダを守る基礎知識~」

<午前の部タイムテーブル>
10時~11時 講演会
11時~12時 質疑応答

<午後の部タイムテーブル>
13時~14時 講演会
14時~15時 質疑応答

※午前午後ともに満員になりました※
30人定員の部屋なので、予約制です。
当日参加は受け付けておりません。
http://kodomo-kyoto.sakura.ne.jp/

*****

滋賀県朽木村で行われる祭り、山水人2011に参加します!

「3.11以後の生き方とは?」
山水人2011の中の9月20日(火)のトークセッション
鎌仲ひとみ・冨田貴史・守田敏也

(このセッションに、友人でジャーナリストであり、小水力発電の
水先案内人?古谷桂信さんも参加です!)

なお「山水人2011」自身は9月10日から25日まで開かれます。
僕も19日に、「放射線被曝よろず相談所」を開設します。
場所は滋賀県高島市朽木村の生杉付近。
芦生の森の東部と接したところです。
たくさんのイベントが行われます。詳しくは下記をご覧ください。
http://yamauto.jp/top.html

*****

守田敏也・信楽講演会

9月28日信楽に呼んでいただきました!以下案内を貼り付けます。


震災後、ずっとご自分で見て来たこと、聞いたこと、調べたことを、
真摯に発信してくださるフリーライターの守田さん。
一度、ゆっくりお話を伺いたいと思っていました。あすのわにもとても
注目してくださっています。
京都でのお話会は、すぐに満席!
その守田さんの講演会を信楽でやっていただけることになりました。

気さくなお人柄もあり、今、聞きたいこと、初歩のところからわかり
やすく聞けると思います。

ぜひ、みなさま、ご参加くださいー!!!

守田敏也さん講演会
~放射能から身を守るには?これから日本はどうなるの?~

3.11の原発震災以来、わからないことだらけで、不安がいっぱい
ですよね。日本に放射能汚染がやってきた今、逞しく生き抜くため、
子どもたちを守るため、知ることから始めませんか?

原発事故って何が起こってるの?
放射能から身を守るには?内部被曝って何?
子どもの生活は?
食べ物はどうしたらいいの?

守田さんのお話は新しい情報が満載です。
素朴な疑問・質問に何でも答えてくれますよ。
この機会に分からないこと、知りたいことを聞いてみませんか。  
 

●9月28日(水)
13:00~(約2時間)

*講演の後、ガンガーカウンターで信楽町内を測っていただきます。
その後、一品持ちよりにて夕食もご一緒する予定です。
お時間許す方はご一緒にどうぞ。

●参加費 800円

●信楽町開発センター(信楽中央公民館内)
甲賀市信楽町長野1251
(甲賀市役所信楽支所横/信楽高原鉄道信楽駅下車徒歩3分)
地図はこちら http://g.co/maps/cbs82

参加される方は、予約をお願いします。
●参加申し込み・お問い合わせは市居まで。
メール ichiipk@ybb.ne.jp
Tel/fax 0748-83-0973 080-5365-4362

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
守田敏也(もりたとしや)さん プロフィール

1959年生まれ。京都市在住。同志社大学社会的共通資本研センター客員
フェローなどを経て、現在フリーライターとして取材活動を続けながら、
社会的共通資本に関する研究を進めている 。原子力政策についても独自の
研究を続けている。震災後のデーター収集と鋭い分析力により、震災後、
講演会などに駆け回り、多忙な毎日を送られています。

●明日に向けて 守田さんブログ http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011

岩波書店『世界』9月号(発売中)に、守田さんが、6000人の被爆者を診察
してこられ、内部被曝に詳しい臨床医師:肥田舜太郎先生をインタビューした
記事が載っています。
http://www.iwanami.co.jp/sekai/
http://www.iwanami.co.jp/sekai/2011/09/142.html
ぜひご覧ください。

*****

10月8日、9日に行われるベジフェスティバルでお話します!

ベジフェス 前夜祭 【第1部】10/8(SAT)18:00~19:30 
講演会 @下京区河原町五条下ル ひとまち交流館・第5会議室にて
 (講演会のみの場合は予約不要です)
入場:カンパ制

18:00~18:50  フリージャーナリスト 守田敏也さん 
「放射能汚染と内部被曝 日本は?京都は?私たちどうすればいいの?」 

広がる食料汚染と核のゴミ、迫りくる内部被曝の恐怖・・・。
地球の生きものと、子どもたちを守るために、放射能と立ち向かおう

ベジフェス当日 
14:00~16:00 TALK TALK THINK トークライブ
4名のゲストをお招きします。

守田敏也さん
僕生プロジェクト ごっちさん
いきもの多様性研究所 小山直美さん
team SAKE 大関はるかさん

(なお当日は他にも朝からたくさんのスケジュールがあります。
詳しくは以下をご覧ください。)
http://www.vegetarianfestival.jp/

*****

以上、ご興味がある企画にぜひご参加ください!



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明日に向けて(256)ドイツが脱原発を決めた一因は、原発周辺の小児白血病の多さだった!

2011年09月07日 23時30分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110907 23:30)

明日に向けて(254)において、僕は「よもぎさん」のブログ内容を
拝借しながら、原発から半径160キロ圏内において、放射線被曝の
可能性がある事を紹介しました。これを明らかにしたのはアメリカの
ジェイ・M・グールドらです。邦訳で『死にいたる虚構』『内部の敵』
などが出ています。肥田さんらが執念で訳されてきたものです。

共に自費出版で、なかなか手に入らないのが難点ですが、『死にいたる
虚構』は、「PKO法『雑則』を広める会」(tel&fax 0422-51-7602 
047-395-9727)が、500円以上のカンパで頒布されているそうですので、
可能な方はぜひお手にとっていただきたいです。また出版社の方は、
可能であれば、出版に漕ぎつけていただければと思います。(訳者で
もない僕が言うのはおかしいかもしれませんが・・・)

今回はこの内容を補足するために、ドイツで行われた調査を紹介したい
と思います。ドイツ連邦放射線防護庁の疫学調査で、詳細が原子力資料
情報室のホームページに、澤井正子さんによって、まとめられています。

それによると、これまでも同様の調査がたびたび行われてきたそうです。
「例えば1987年と1989年には、イングランドとウエールズの核施設の周辺
10マイル(16km)圏において小児白血病が統計的に有意な高い頻度で発症
している、という英国の研究がある」そうです。

また「「ドイツ小児がん登録機関(以下小児がん登録)」は、1980年から
1990年までのデータをもとに、原発から5km、10km、15km圏の15歳以下の
子どものがん発症頻度を観察する生態学的研究を実施。1992年に公表され
た報告では、原発から5km以内の5歳未満の子どもの小児白血病の発症率
が統計的に有意に高かった」そうです。

これらを受けて2001年に科学者が招へいされ、新たな調査が行われ、その
結果、次のことが明らかになりました。すなわち、原発から5km以内で、
全小児がん、小児白血病とも他の地域と比べて高い発症率を示しており、
それぞれの発症率は1.61倍、2.19倍でした。また急性リンパ性白血病と
急性非リンパ性白血病も、5km以内では、統計的に有意に高い発症率で
あることがわかりました。10km以内でも急性リンパ性白血病が、有意に
高い発症率を示しました。

こうした結果はドイツが脱原発に踏み切る大きな要因となりましたが、
この研究は、少なくとも原発周辺の地域では、事故が起きなくても、許容
量として出されている放射性物質による「低線量被曝」によって、小児
白血病が起こっていることを示したものだと言えます。ただし報告書その
ものは、最後に「どのような生物学的危険因子によってこの関連が説明
できるのか、本研究では言及できない」として、通常運転している原発
が危険因子とは言えないとして、決定的な結論を避けていることもつけ
加えておきます。

ともあれ、ドイツでこうした調査がなされ、結果が公表されていながら
日本政府がそれを全く無視し、覆い隠してきたことが批判されなければ
ならないと思います。日本でもただちに同様の調査を行うべきことを
私たちは訴えていかなければなりません。そのことで、福島第一原発事故
の問題にとどまらない、核と核施設の危険性を明らかにしていかなくては
ならないと思います。

以下、原子力資料情報室ホームページからの引用をお読みください。
なお長くなるので、注の引用を割愛しました。全文は、直接、以下の
アドレスからお読み下さい。
http://cnic.jp/modules/smartsection/print.php?itemid=122

******************************

原子力発電所周辺で小児白血病が高率で発症
―ドイツ・連邦放射線防護庁の疫学調査報告―

澤井正子

2007年12月、ドイツの環境省(連邦環境・自然保護・原子力安全省)と
連邦放射線防護庁は、「通常運転されている原子力発電所周辺5km圏内
で小児白血病が高率で発症している」という内容の調査研究(以下
『KiKK研究』)【1】の成果を公表した。ヴォルフラム・クーニック放射
線防護庁長官は調査結果について、「原発周辺では放出放射能に起因し
て健康上何らかの影響があるのではないか、という問題が30年以上議論
されてきた。この『KiKK研究』は疫学研究としてより詳しい内容に富む
新たな出発点であり、この問いへの回答を決定的に前進させる意味を
もっている」と述べている。長い間議論されてきた原発周辺での「がん
多発」という問題を科学的に裏付けた調査結果は、ドイツ国内で大変
大きな反響を生んだ。発表直後の放射線防護庁のホームページでは、冷静
な議論を呼びかけるコメントが公表されるほどだった。というのもこの
『KiKK研究』では、高率のがん発症と原発の放出放射能との関連について
は直接調査されておらず、今後の研究に委ねられているためだ。

第1、第2の調査研究

原子力発電所や核施設周辺で小児がんが高率で発症しているのではないか
という研究報告や議論は、今までにいくつか報告されている。例えば1987
年と1989年には、イングランドとウエールズの核施設の周辺10マイル
(16km)圏において小児白血病が統計的に有意な高い頻度で発症している、
という英国の研究がある【2】。「ドイツ小児がん登録機関(以下小児がん
登録)」【3】は、1980年から1990年までのデータをもとに、原発から5km、
10km、15km圏の15歳以下の子どものがん発症頻度を観察する生態学的
研究【4】を実施した(第1研究)。1992年に公表された報告では、原発から
5km以内の5歳未満の子どもの小児白血病の発症率が統計的に有意に高
かった(相対危険度:3.01)【5】。

この研究結果が社会的に大きなな議論を呼んだこと、そして同時期に
クリュンメル原発の周辺において有意に高い小児白血病の発症が認められた
ため、1997年には小児がん登録が第1回の調査データを更新し1991年から
1995年の期間のデータを追加した第2の生態学的調査研究の結果を公表した
(相対危険度:1.49)。調査の結論は、「原発から5km以内の5歳未満の
子どもの白血病発症率は統計的に有意ではないが高い。しかし15km以内では
がんの発症率が高いという証拠はなくこれ以上の調査は必要ない」という
ものだった。

第2研究のデータの扱い方や結果についての外部評価、さらに社会的にも
メディアにおいても批判的議論が巻き起こった。そのため研究結果の公表後
も、子どものがん発症と原発付近に居住することの間に関連性があるのでは
ないかという議論がドイツでは絶え間なく繰り返され、クリュンメル原発
周辺では高率の小児白血病発症も続いていた。

新しい第3の調査研究

ドイツの脱原発へ歩みは1998年に社民党と緑の党の連立政権を発足させ
(~05年まで)、2002年には脱原発法【6】を成立させるなど確実なものと
なっていた。このような動きと連動して2001年、放射線防護庁長官の招聘に
より様々なグループが対等な立場で議論する円卓会議が開催された。この
会議において放射線防護庁は、すでに公表されている第1、第2の研究を
基本としながらも、科学的批判に堪えうる体系的な第3の調査研究開始を
決定し、研究は小児がん登録に委託されることになった。

研究の開始に先立ってテーマと方法については、複数の専門領域にまたがる
12名の専門家で構成される外部検討委員会から、3つの課題が放射線防護庁
に提示された。
1) 原子力発電所周辺の5歳以下の子どもにしばしばがんの発症がみられるか。
2) 原子力発電所の立地地点の周辺でがん発症のリスクが増加しているか、
それには距離による傾向があるか。
3) 得られた調査結果を説明できるような影響要因(危険因子)が存在するか。

これらの課題に対応するため、『KiKK研究』は2つの部分に分かれている。
第1部は小児がん登録のデータを基にした症例対照研究【7】である。
第2部は聞き取り調査(アンケート)付の症例対照研究となっている
(図2参照)。一般的にはこのような症例対照研究では、疾病発症の原因に
ついての質問に回答するようにはなっていないが、第2部は第1部で得られ
た結果を説明できる影響要因を可能な限り明らかにするため、選ばれた
グループに対して聞き取り調査が行われた。『KiKK研究』は2003年に開始
され、4年間の調査研究作業と5回の外部検討委員会の討議を経て、2007年
12月報告書が公表された。以下にその内容を紹介する。

『KiKK研究』報告の概要

『原子力発電所周辺の小児白血病に関する疫学研究』は、ドイツ連邦放射線
防護庁が小児がん登録に委託し実施された。ドイツ国内(旧西ドイツ地域)
の16ヶ所の原子力発電所周辺に住む子どもたちに発症した小児がんと小児
白血病【8】について、原発サイトから 子どもの居住地までの距離と疾病
発症の相関関係が調査された。

【研究デザイン】

この研究は、生態学的手法で行われた第1、第2の研究に続く、第3の調査
研究である。生態学的研究では、集団レベルで疾病と要因との関連が認めら
れても、個人レベルでは必ずしも当てはまらないという問題がある。その
ため研究は症例対照法によって行われた。症例対照法はコホート分析【9】と
違って相対危険度が算定できないため、リスクの近似値としてオッズ比【10】
が推定された。

【調査対象】

1980年から2003年の間に小児がん登録に登録された5歳の誕生日以前に小児
がんを発症した子どもすべてについて調査された。診断時ドイツの16の原発
立地地点周辺地域で暮らしていて5歳以下でがんを発症したケースは1592例
である。発症していない対照群として、同一の地域に住んでいる子ども
4735例が住民登録から無作為に選ばれ、合計6327例が含まれている。

【調査区域】

調査区域は、ドイツの22基の原子力発電所を含む16立地地点、その周辺の41の
郡(自治体)が対象となっている(図1参照)(リンゲン原発とエムスラント
原発の距離は2kmで近接しているが2地域と算定)。

【研究方法】

6327例の子どもすべてについて、原発からの距離は以下のように設定した。
がんと診断された日(発症している場合)、あるいは似たような期日(対照群
の場合)に住んでいた地域と一番近くに立地する原子力発電所との距離を
25メートルの精度で決定した。がんを発症した子供がそれぞれの調査対照群
よりも原発の立地地点により近い地域に住んでいるかどうか、ということが
比較された。放射線の影響は直接決定できないので、原子力発電所と居住地
との距離が援用された。

【結論】

原発から5km以内で、全小児がん、小児白血病とも他の地域と比べて高い発症
率を示している(表1参照)。全小児がんの発症数は77例、オッズ比は1.61
(95%信頼区間下限値:1.26)だった。小児白血病は発症数が37例、オッズ比
は2.19(95%信頼区間下限値:1.51)となった。これはそれぞれの発症率が
1.61倍、2.19倍であることを意味する。表2には、小児白血病全体と、その
うちの急性リンパ性白血病と急性非リンパ性白血病のオッズ比を示した。
いずれも5km以内では、統計的に有意に高い発症率であることがわかった。
また10km以内でも急性リンパ性白血病のオッズ比は1.34(95%信頼区間下限値
:1.05)で、有意に高い発症率である。

【考察】

ドイツ国内の原発周辺地域、特に5km以内に住む5歳以下の子どもの小児がん
と小児白血病の発症リスクが高い、という実態が把握された。しかしどの
ような生物学的危険因子によってこの関連が説明できるのか、本研究では
言及できない。放射線生物学的、放射線疫学的知見に基づいても、通常運転中
のドイツの原発から放出される電離放射線は、危険性の原因として解釈する
ことはできない。

終わりに

ドイツ政府によって実施された『KiKK研究』は、5歳以下の子どもが小児
白血病を発症する危険性について、居住地と原子力発電所立地地点の距離が
近いほど増加することを初めて科学的に立証した。報告を検討した外部検討
委員会は、「研究は科学的検証に耐えうる現時点で世界的に通用する手法で
行われた包括的な調査である」と評価している。『KiKK研究』が提起した
原発の放出放射能とがん発症の関連については、ドイツ政府(環境省、
放射線防護庁)が調査の継続を確認している。今後もその経過と成果を注視
したい。

注は省略(以下から注を含む全文が見れます)
http://cnic.jp/modules/smartsection/print.php?itemid=122

なお以下のブログでも、同様の考察に触れることができます。
http://sakuradorf.dtiblog.com/blog-entry-153.html
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