明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(262)日本の森と環境破壊と放射能汚染

2011年09月14日 23時00分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110914 23:30)

先月のことになりますが、8月27日に京都府北部の芦生の森を訪問しました。
そのときに埼玉県からわざわざかけつけて下さった方がいました。森國明
さんです。前日の、京北町での平賀緑さんと僕の講演会から参加して下さり、
その感想をご自身のブログに載せて下さっています。

森づくり「風の谷の森」という素敵なブログで、芦生の森については写真も
満載です。みなさまどうかぜひご覧ください。他にも読みごたえのある記事
がたくさん掲載されています。少しスクロールしていただくと、芦生の記事
や講演会のことが出てきます。
http://kazenotaninomori.wordpress.com/


さて今日は少し日本の森の特徴について書いてみたいと思います。みなさん、
「日本の森」という言葉をみて、どのような森を思い浮かべられるでしょうか。
・・・写真集などを思い起こされる方もいるかもしれませんが、少し山に入っ
た経験をお持ちの方は、それぞれに違った風景を思われるはずです。

なぜなら日本は狭い国土の中に非常に多様な気候条件を持ち、そのため植生が
とても豊富で次々に変化していくからです。これだけの多様性に富んだ森の
あり方は他国・他地域ににはそれほどみられないと言われています。その意味で
私たちはもの凄い自然の宝庫の中に住んでいます。

例えば私たちの国土はどんな気候帯の中にあるのか。北から亜寒帯、冷温帯、
北部暖温帯、南部暖温帯、亜熱帯があります。それぞれアカマツ、シラビソなど
の針葉樹、ミズナラ、ブナなどの落葉広葉樹、シイやカシなどの常緑広葉樹、
さらに、ソテツやアコウ、そしてヤシやタコノキなどが生息しています。

しかも太平洋側と日本海側も大きな違いがある。日本は地球上を西から東に
流れているジェット気流が、ヒマラヤ山脈で一旦、北と南に分かれたものが合流
して吹いてくる位置にあるため、冬には極めて激しい北西風が吹きつけ、日本
海から蒸発したたくさんの水分を運んできて豪雪が降ります。

反対に太平洋側には、今年もそうであったように大海から毎年たくさんの台風
がやってきて、暴風雨をもたらします。このため太平洋側と日本海側では、雨量が
夏と冬でまったく逆転するのです。その間に挟まれて、降水量の少ない瀬戸内
地方もあるし、台風の影響とは別のところにある北海道もあります。

しかも日本列島は急峻な山脈に覆われています。高低差が激しい。そのため一
つの山でも上の方が冷温帯、下の方が暖温帯など、違った気候帯の特徴を示し
ている場所がたくさんある。こういうところでは山を登って高度があがるにつれ
生えている木々が変化していくのです。

さらに地層も激しい変化に富んでいます。アルプスを歩くと、のどかに草の
広がる地帯があるかと思うと、いきなり岩だらけの地帯がでてきたりする。それ
にあわせて植生が変わってくる。このため、すぐ隣にある山の頂をみると、自分
のいる場とは全く違った風貌を示していることがあります。

つまりそれほどまでに日本の山は変化に富んでいるのです。この変化に則して
たくさんの種類の動植物が生息しています。しかもこれに四季が重なるため、
同じ地点とて、季節によって表情がまったく変わってしまう。そこに日本の山の
特徴、美しい個性があります。

とくに芦生の森は、冷温帯と暖温帯、太平洋側と日本海側の気候が合わさるところ
に位置しているため、生物種が大変豊富です。そこにこの森の魅力がありますが、
けしてそれは芦生だけに特徴的なことではありません。いずれにせよ、私たちは
世界でも稀な美しい森に囲まれて生きているのです。


その森に近年、さまざまな形での環境破壊が押し寄せていますが、あまり知られて
いないのは、そうは言っても、日本の森は、まだまだ守られており、戦後直後など
に比べれば森林面積が拡大していることです。これは戦争による乱伐の後に、山里
の人がせっせと植林を行ってくれたことによって維持されてきたものです。

これらのために日本の森林面積は現在国土の67%ぐらい。世界の中でも断トツを
示しています。にもかからわず林業が過小評価され、山の価値が正しく捉えられて
こなかったたために、近年、多くの山が荒れてしまい、災害などに弱くなってし
まっています。

さらにこれに拍車をかけているのが温暖化の影響です。山々では気候変動の影響が
如実にあらわれている。それは先にも述べたように、日本の山々が、入り組んだ
気候帯、ユニークな気候条件の重なりにあることと関係しています。ようするに
気候条件がそれぞれの地域で違うので、急激な温度変化の影響を被りやすいのです。

こうしたことの中で顕著に起こっている被害の一つがナラ枯れです。温暖化の影響で
もともとはカシに生息していたカシノナガキクイムシが、移動を開始し、それまで
触れることの無かったミズナラやコナラに接触してしまった。その時、木の構造の違い
から、カシはそれほど枯らさないカシナガがミズナラやコナラは激しく枯らしてしまった。

このため集団枯損が発生しているのですが、これらの木々はどんぐりを豊富に山に
供給しているために、多くの動物たちがたちまち困窮しています。例えばドングリを
使っているチョウやガは400種類もいます。これらが十分な繁殖ができなくなって
しまった。そしてそれは幼虫を子育てに使う鳥たちに多大な打撃を与えています。

さらに目にみえて困窮を深めているのは、ツキノワグマたちです。冬ごもりにむけて
たくさんのタンパク質をため込むべき時期にあるとき、クマたちは大好物のドングリ
が得られず、空腹になって里に降りてきてしまいます。降りて来るのはクマだけ
ではありません。サルたちも、シカたちもどんどん降りてきてしまう。

こうなる前に森はかなり荒れていたのです。臨床植物が食い荒らされ、昆虫の繁殖が
困難にになり、それらが森の中にあった絶妙な生態バランスを崩してしまう。例えば
昆虫を使って受粉をしている多くの植物もまた打撃を受けてしまう。それらが重なっ
て、森の崩壊が進行していき、大雨などに極めて脆くなってきているのです。


さてこれがこの間、日本の森で起こってきたこと、あるいはそう捉えられてきたこと
ですが、今はそこに放射能被曝が加わりました。正確にはこれまでも加わっていた
のでしょうが、何といっても今年、新たに加わった量は甚大です。そして山々の
動植物もやはり被曝しています。ここでもとくに恐ろしいのは内部被曝です。

人間と違って動植物は、原発事故のことを知るよしもありません。また仮に知った
ところで、どうすることもできない。山の木々はいったいどこに避難できるというの
でしょうか。そのため、もろに放射能を浴びたし、浴び続けています。そしてさまざま
に内部被曝が進んでいるはずです。

これがどのように影響してくるのでしょうか。見えやすいのは、鳥類やほ乳類だと
思います。とくに葉っぱに降り積もった放射能を食べたチョウの幼虫を食べた鳥の
雛たちは、今年はどうなったでしょうか。少なくとも福島原発に近い地域では、繁殖
の失敗が予想されますし、これはその気になればカウントできることでしょう。

さらにネズミたちはどうしたでしょう。カエルやヘビたちは、あるいはタヌキや
キツネ、そしてシカやクマたちなど野生動物はどうなっているのか。生態がよく
分からないものほど、実態を知るのは困難ですが、当然にも被害が起こっている
ことが予想されます。

植物はどうなっているでしょうか。当たり前の話ですが、植物も内部被曝します。
被曝してどのような影響が出て来るのだろうか。そのことが調べられる必要がある。
この点について、これまでに紹介してきたペトカウは、ヨーロッパの森林の枯損を、
酸性雨のためだけではなく、放射能の影響と解き明かしています。

考えてみれば、植物も生物ですから、内部被曝するのは当然です。そうなれば植物も
死んでしまったり、そうはならなくても、人間にガンが発生するように、細胞分裂が
阻害され、さまざまな病気が発生してくる。どういう形になるか分かりませんが、
可能な限りの調査がされればと思います。

かくして私たちの周りを取り囲んでいる豊かな山と森は今、重大な危機の中にあります。
森の危機が進行することは、さまざまな形で私たちの生活の危険性を増大させます。
その意味で私たちは自分を守るためにも、山と森に目を向ける必要があります。僕はその
一端として、ナラ枯れ防除活動を進めようと思うのです・・・。

コメント (2)
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