明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(256)ドイツが脱原発を決めた一因は、原発周辺の小児白血病の多さだった!

2011年09月07日 23時30分00秒 | 明日に向けて(251)~(300)
守田です。(20110907 23:30)

明日に向けて(254)において、僕は「よもぎさん」のブログ内容を
拝借しながら、原発から半径160キロ圏内において、放射線被曝の
可能性がある事を紹介しました。これを明らかにしたのはアメリカの
ジェイ・M・グールドらです。邦訳で『死にいたる虚構』『内部の敵』
などが出ています。肥田さんらが執念で訳されてきたものです。

共に自費出版で、なかなか手に入らないのが難点ですが、『死にいたる
虚構』は、「PKO法『雑則』を広める会」(tel&fax 0422-51-7602 
047-395-9727)が、500円以上のカンパで頒布されているそうですので、
可能な方はぜひお手にとっていただきたいです。また出版社の方は、
可能であれば、出版に漕ぎつけていただければと思います。(訳者で
もない僕が言うのはおかしいかもしれませんが・・・)

今回はこの内容を補足するために、ドイツで行われた調査を紹介したい
と思います。ドイツ連邦放射線防護庁の疫学調査で、詳細が原子力資料
情報室のホームページに、澤井正子さんによって、まとめられています。

それによると、これまでも同様の調査がたびたび行われてきたそうです。
「例えば1987年と1989年には、イングランドとウエールズの核施設の周辺
10マイル(16km)圏において小児白血病が統計的に有意な高い頻度で発症
している、という英国の研究がある」そうです。

また「「ドイツ小児がん登録機関(以下小児がん登録)」は、1980年から
1990年までのデータをもとに、原発から5km、10km、15km圏の15歳以下の
子どものがん発症頻度を観察する生態学的研究を実施。1992年に公表され
た報告では、原発から5km以内の5歳未満の子どもの小児白血病の発症率
が統計的に有意に高かった」そうです。

これらを受けて2001年に科学者が招へいされ、新たな調査が行われ、その
結果、次のことが明らかになりました。すなわち、原発から5km以内で、
全小児がん、小児白血病とも他の地域と比べて高い発症率を示しており、
それぞれの発症率は1.61倍、2.19倍でした。また急性リンパ性白血病と
急性非リンパ性白血病も、5km以内では、統計的に有意に高い発症率で
あることがわかりました。10km以内でも急性リンパ性白血病が、有意に
高い発症率を示しました。

こうした結果はドイツが脱原発に踏み切る大きな要因となりましたが、
この研究は、少なくとも原発周辺の地域では、事故が起きなくても、許容
量として出されている放射性物質による「低線量被曝」によって、小児
白血病が起こっていることを示したものだと言えます。ただし報告書その
ものは、最後に「どのような生物学的危険因子によってこの関連が説明
できるのか、本研究では言及できない」として、通常運転している原発
が危険因子とは言えないとして、決定的な結論を避けていることもつけ
加えておきます。

ともあれ、ドイツでこうした調査がなされ、結果が公表されていながら
日本政府がそれを全く無視し、覆い隠してきたことが批判されなければ
ならないと思います。日本でもただちに同様の調査を行うべきことを
私たちは訴えていかなければなりません。そのことで、福島第一原発事故
の問題にとどまらない、核と核施設の危険性を明らかにしていかなくては
ならないと思います。

以下、原子力資料情報室ホームページからの引用をお読みください。
なお長くなるので、注の引用を割愛しました。全文は、直接、以下の
アドレスからお読み下さい。
http://cnic.jp/modules/smartsection/print.php?itemid=122

******************************

原子力発電所周辺で小児白血病が高率で発症
―ドイツ・連邦放射線防護庁の疫学調査報告―

澤井正子

2007年12月、ドイツの環境省(連邦環境・自然保護・原子力安全省)と
連邦放射線防護庁は、「通常運転されている原子力発電所周辺5km圏内
で小児白血病が高率で発症している」という内容の調査研究(以下
『KiKK研究』)【1】の成果を公表した。ヴォルフラム・クーニック放射
線防護庁長官は調査結果について、「原発周辺では放出放射能に起因し
て健康上何らかの影響があるのではないか、という問題が30年以上議論
されてきた。この『KiKK研究』は疫学研究としてより詳しい内容に富む
新たな出発点であり、この問いへの回答を決定的に前進させる意味を
もっている」と述べている。長い間議論されてきた原発周辺での「がん
多発」という問題を科学的に裏付けた調査結果は、ドイツ国内で大変
大きな反響を生んだ。発表直後の放射線防護庁のホームページでは、冷静
な議論を呼びかけるコメントが公表されるほどだった。というのもこの
『KiKK研究』では、高率のがん発症と原発の放出放射能との関連について
は直接調査されておらず、今後の研究に委ねられているためだ。

第1、第2の調査研究

原子力発電所や核施設周辺で小児がんが高率で発症しているのではないか
という研究報告や議論は、今までにいくつか報告されている。例えば1987
年と1989年には、イングランドとウエールズの核施設の周辺10マイル
(16km)圏において小児白血病が統計的に有意な高い頻度で発症している、
という英国の研究がある【2】。「ドイツ小児がん登録機関(以下小児がん
登録)」【3】は、1980年から1990年までのデータをもとに、原発から5km、
10km、15km圏の15歳以下の子どものがん発症頻度を観察する生態学的
研究【4】を実施した(第1研究)。1992年に公表された報告では、原発から
5km以内の5歳未満の子どもの小児白血病の発症率が統計的に有意に高
かった(相対危険度:3.01)【5】。

この研究結果が社会的に大きなな議論を呼んだこと、そして同時期に
クリュンメル原発の周辺において有意に高い小児白血病の発症が認められた
ため、1997年には小児がん登録が第1回の調査データを更新し1991年から
1995年の期間のデータを追加した第2の生態学的調査研究の結果を公表した
(相対危険度:1.49)。調査の結論は、「原発から5km以内の5歳未満の
子どもの白血病発症率は統計的に有意ではないが高い。しかし15km以内では
がんの発症率が高いという証拠はなくこれ以上の調査は必要ない」という
ものだった。

第2研究のデータの扱い方や結果についての外部評価、さらに社会的にも
メディアにおいても批判的議論が巻き起こった。そのため研究結果の公表後
も、子どものがん発症と原発付近に居住することの間に関連性があるのでは
ないかという議論がドイツでは絶え間なく繰り返され、クリュンメル原発
周辺では高率の小児白血病発症も続いていた。

新しい第3の調査研究

ドイツの脱原発へ歩みは1998年に社民党と緑の党の連立政権を発足させ
(~05年まで)、2002年には脱原発法【6】を成立させるなど確実なものと
なっていた。このような動きと連動して2001年、放射線防護庁長官の招聘に
より様々なグループが対等な立場で議論する円卓会議が開催された。この
会議において放射線防護庁は、すでに公表されている第1、第2の研究を
基本としながらも、科学的批判に堪えうる体系的な第3の調査研究開始を
決定し、研究は小児がん登録に委託されることになった。

研究の開始に先立ってテーマと方法については、複数の専門領域にまたがる
12名の専門家で構成される外部検討委員会から、3つの課題が放射線防護庁
に提示された。
1) 原子力発電所周辺の5歳以下の子どもにしばしばがんの発症がみられるか。
2) 原子力発電所の立地地点の周辺でがん発症のリスクが増加しているか、
それには距離による傾向があるか。
3) 得られた調査結果を説明できるような影響要因(危険因子)が存在するか。

これらの課題に対応するため、『KiKK研究』は2つの部分に分かれている。
第1部は小児がん登録のデータを基にした症例対照研究【7】である。
第2部は聞き取り調査(アンケート)付の症例対照研究となっている
(図2参照)。一般的にはこのような症例対照研究では、疾病発症の原因に
ついての質問に回答するようにはなっていないが、第2部は第1部で得られ
た結果を説明できる影響要因を可能な限り明らかにするため、選ばれた
グループに対して聞き取り調査が行われた。『KiKK研究』は2003年に開始
され、4年間の調査研究作業と5回の外部検討委員会の討議を経て、2007年
12月報告書が公表された。以下にその内容を紹介する。

『KiKK研究』報告の概要

『原子力発電所周辺の小児白血病に関する疫学研究』は、ドイツ連邦放射線
防護庁が小児がん登録に委託し実施された。ドイツ国内(旧西ドイツ地域)
の16ヶ所の原子力発電所周辺に住む子どもたちに発症した小児がんと小児
白血病【8】について、原発サイトから 子どもの居住地までの距離と疾病
発症の相関関係が調査された。

【研究デザイン】

この研究は、生態学的手法で行われた第1、第2の研究に続く、第3の調査
研究である。生態学的研究では、集団レベルで疾病と要因との関連が認めら
れても、個人レベルでは必ずしも当てはまらないという問題がある。その
ため研究は症例対照法によって行われた。症例対照法はコホート分析【9】と
違って相対危険度が算定できないため、リスクの近似値としてオッズ比【10】
が推定された。

【調査対象】

1980年から2003年の間に小児がん登録に登録された5歳の誕生日以前に小児
がんを発症した子どもすべてについて調査された。診断時ドイツの16の原発
立地地点周辺地域で暮らしていて5歳以下でがんを発症したケースは1592例
である。発症していない対照群として、同一の地域に住んでいる子ども
4735例が住民登録から無作為に選ばれ、合計6327例が含まれている。

【調査区域】

調査区域は、ドイツの22基の原子力発電所を含む16立地地点、その周辺の41の
郡(自治体)が対象となっている(図1参照)(リンゲン原発とエムスラント
原発の距離は2kmで近接しているが2地域と算定)。

【研究方法】

6327例の子どもすべてについて、原発からの距離は以下のように設定した。
がんと診断された日(発症している場合)、あるいは似たような期日(対照群
の場合)に住んでいた地域と一番近くに立地する原子力発電所との距離を
25メートルの精度で決定した。がんを発症した子供がそれぞれの調査対照群
よりも原発の立地地点により近い地域に住んでいるかどうか、ということが
比較された。放射線の影響は直接決定できないので、原子力発電所と居住地
との距離が援用された。

【結論】

原発から5km以内で、全小児がん、小児白血病とも他の地域と比べて高い発症
率を示している(表1参照)。全小児がんの発症数は77例、オッズ比は1.61
(95%信頼区間下限値:1.26)だった。小児白血病は発症数が37例、オッズ比
は2.19(95%信頼区間下限値:1.51)となった。これはそれぞれの発症率が
1.61倍、2.19倍であることを意味する。表2には、小児白血病全体と、その
うちの急性リンパ性白血病と急性非リンパ性白血病のオッズ比を示した。
いずれも5km以内では、統計的に有意に高い発症率であることがわかった。
また10km以内でも急性リンパ性白血病のオッズ比は1.34(95%信頼区間下限値
:1.05)で、有意に高い発症率である。

【考察】

ドイツ国内の原発周辺地域、特に5km以内に住む5歳以下の子どもの小児がん
と小児白血病の発症リスクが高い、という実態が把握された。しかしどの
ような生物学的危険因子によってこの関連が説明できるのか、本研究では
言及できない。放射線生物学的、放射線疫学的知見に基づいても、通常運転中
のドイツの原発から放出される電離放射線は、危険性の原因として解釈する
ことはできない。

終わりに

ドイツ政府によって実施された『KiKK研究』は、5歳以下の子どもが小児
白血病を発症する危険性について、居住地と原子力発電所立地地点の距離が
近いほど増加することを初めて科学的に立証した。報告を検討した外部検討
委員会は、「研究は科学的検証に耐えうる現時点で世界的に通用する手法で
行われた包括的な調査である」と評価している。『KiKK研究』が提起した
原発の放出放射能とがん発症の関連については、ドイツ政府(環境省、
放射線防護庁)が調査の継続を確認している。今後もその経過と成果を注視
したい。

注は省略(以下から注を含む全文が見れます)
http://cnic.jp/modules/smartsection/print.php?itemid=122

なお以下のブログでも、同様の考察に触れることができます。
http://sakuradorf.dtiblog.com/blog-entry-153.html
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1 コメント

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ありがとうございます (みほっち)
2011-09-08 10:17:11
やはり日本でも原発付近の病院では癌で亡くなる方が多いとの統計が出ていると聞きます。(ただ表向きには出されていないようですが…ご都合主義ですよね)また原発から出されている汚染水付近の海には見たこともないような馬鹿でかい生物がいたりするとも。チェルノブイリ事故付近の話は聞きますが、まさか日本で、まして安全とうたわれていた原発でそれらのことがあるだなんて、今回の福島のことがなければ気付きも疑いもしませんでした。
私が実際に目にしたわけでも調査したわけでもなく、ネット情報ですが…。今回のブログを拝見してますます見識を深めねばと思いました。本当にいつもありがとうございます。

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