私が受話器を耳に当てると夫がその受話器を取った
「俺が出るから」そう言った
夫にとって舅とかかわる全ての事が苦痛以外の何者でもなかった
どんな時も舅の事では自分の存在を消し、係わろうとはしなかった
最初は夫に舅の事を何度も相談したけれど
「そんな話聞きたくない。」と突っぱねられ
「あなたの親の事なのに」と言うと
「あなたの親って言うな!」と最後は逆切れされて話にならなくなってしまう
いつしか諦めて舅の事は自分で何とかしようと思うようになっていた
この時も夫は「どうすんだ!来たのぞ!煩いからドアを開けるか?」と慌てるばかりで、最後には部屋に篭ってじっとタバコを吸っているだけだった
夫は受話器を取り「警察ですか。相談があります。私の母親に暴力を振るうので
連れて匿っています。今、酒に酔って母を迎えに来たと玄関で暴れています
保護してもらえませんか」
まるで書かれた台詞を読むように淀みなく夫は言った
短く「はい、はい」と返事をした後電話を切った
そして私を睨み付け「電話したから。今来るから」と立ち上がった
私は夫の手を握ろうと手を伸ばしたが夫は乱暴に払いのけ部屋へとまた篭った
いつしか玄関が静かになっていた
そうっとドアの方へ行ってみると舅のつぶやく声が聞こえた
「何で?警察呼ぶなんて言うんだ・・・何でなんだ」
まるで叱られた子供のように何度も何度も言っていた
私は胸が締め付けられるような気がしてドアに手をかけた
するといきなり
「おい!ちきしょー!開けろ!開けろ!」とまた暴れだした
私はそっと部屋へ戻って嵐が過ぎ去るのをじっと待った
静かになってどれ位経ったのかチャイムが激しく鳴った
恐る恐る出てみると警察官が立っていた
「呼ばれたのはこちらですか?」
ありがたい事にサイレンも鳴らさずに来てくれた
「これは何ですか?」と指を指した先にメロンと水羊羹が置いてあった
お土産に舅が置いていったのだろう。
ドアを開けて貰えてメロンと水羊羹でいつものように笑って許して貰えると
思っていたのだろう
がっくりと肩を落とした大きな舅の背中が見えるようだった
舅の姿は見当たらなかった
警察が来る前に帰ったようだった
いつの間にか夫が後ろに立っていて、2人で警察に一通りの事情を話した
警察の人は「定年を迎えた男性がお酒にのめり込んで、こういう状況になる場合が多いんですよ。ぜひアルコール専門の精神科に繋がって下さい。
いつ錯乱したり手に負えなくなったときに強制的に入院できるように
家族だけでも相談に行ってカルテを作って貰うと良いですよ
またいつでも電話してください。
この程度と思わずに電話してください。いつでも来ますから」
そう言ってくれた
今まで舅が飲みすぎて暴力や問題を起こすのは意思が弱いからだと
思っていた
飲みすぎる前に飲むのを控えて程ほどに過ごせるのなら
お酒を取り上げるのは可哀想だと思っていた
姑も夫も何度も何度も問題が起きる度に
「飲みすぎるから駄目なんだ。何で決めて飲まないんだ。
自分で量を決めて分からなく前に止めさえすれば良いのに。
本当に意思の弱い人間だ」とがっくりと肩を落としている舅に
この時とばかりに攻め立てた
舅も問題を起こした時は心底反省して
「今度こそ量を減らして、頑張る。半分って決めて飲めば大丈夫なんだ」と
気持ちを新たにするのだった
しかしそんな月日も3カ月も持たない
いつしかサイクルが3ヵ月から1ヶ月へとなりそして夜だけ飲んでいたのが
朝も昼も飲むようになり、そして1日中手放せなくなった
それでも夫や姑はただ
「意思が弱いから。量さえ減らせば。止めるなんてあいつには不可能だ。止めるときは死ぬときだ」そう言い続けていた
警察に病気だと言われて初めて夫も姑も精神科に相談に行く事を許してくれた
次の日に私は前からリストアップしていたアルコール専門病院へと出かけた
私はこれで舅のアル症を治すことができて、また穏やかに暮らせるに違いない
此処へ来れば全てが解決する物だと勝手に思い込んでいた
しかし私はそこでアル症という病を全く理解していなかった事を思い知らさせる事となったのだった
(つづく)
「俺が出るから」そう言った
夫にとって舅とかかわる全ての事が苦痛以外の何者でもなかった
どんな時も舅の事では自分の存在を消し、係わろうとはしなかった
最初は夫に舅の事を何度も相談したけれど
「そんな話聞きたくない。」と突っぱねられ
「あなたの親の事なのに」と言うと
「あなたの親って言うな!」と最後は逆切れされて話にならなくなってしまう
いつしか諦めて舅の事は自分で何とかしようと思うようになっていた
この時も夫は「どうすんだ!来たのぞ!煩いからドアを開けるか?」と慌てるばかりで、最後には部屋に篭ってじっとタバコを吸っているだけだった
夫は受話器を取り「警察ですか。相談があります。私の母親に暴力を振るうので
連れて匿っています。今、酒に酔って母を迎えに来たと玄関で暴れています
保護してもらえませんか」
まるで書かれた台詞を読むように淀みなく夫は言った
短く「はい、はい」と返事をした後電話を切った
そして私を睨み付け「電話したから。今来るから」と立ち上がった
私は夫の手を握ろうと手を伸ばしたが夫は乱暴に払いのけ部屋へとまた篭った
いつしか玄関が静かになっていた
そうっとドアの方へ行ってみると舅のつぶやく声が聞こえた
「何で?警察呼ぶなんて言うんだ・・・何でなんだ」
まるで叱られた子供のように何度も何度も言っていた
私は胸が締め付けられるような気がしてドアに手をかけた
するといきなり
「おい!ちきしょー!開けろ!開けろ!」とまた暴れだした
私はそっと部屋へ戻って嵐が過ぎ去るのをじっと待った
静かになってどれ位経ったのかチャイムが激しく鳴った
恐る恐る出てみると警察官が立っていた
「呼ばれたのはこちらですか?」
ありがたい事にサイレンも鳴らさずに来てくれた
「これは何ですか?」と指を指した先にメロンと水羊羹が置いてあった
お土産に舅が置いていったのだろう。
ドアを開けて貰えてメロンと水羊羹でいつものように笑って許して貰えると
思っていたのだろう
がっくりと肩を落とした大きな舅の背中が見えるようだった
舅の姿は見当たらなかった
警察が来る前に帰ったようだった
いつの間にか夫が後ろに立っていて、2人で警察に一通りの事情を話した
警察の人は「定年を迎えた男性がお酒にのめり込んで、こういう状況になる場合が多いんですよ。ぜひアルコール専門の精神科に繋がって下さい。
いつ錯乱したり手に負えなくなったときに強制的に入院できるように
家族だけでも相談に行ってカルテを作って貰うと良いですよ
またいつでも電話してください。
この程度と思わずに電話してください。いつでも来ますから」
そう言ってくれた
今まで舅が飲みすぎて暴力や問題を起こすのは意思が弱いからだと
思っていた
飲みすぎる前に飲むのを控えて程ほどに過ごせるのなら
お酒を取り上げるのは可哀想だと思っていた
姑も夫も何度も何度も問題が起きる度に
「飲みすぎるから駄目なんだ。何で決めて飲まないんだ。
自分で量を決めて分からなく前に止めさえすれば良いのに。
本当に意思の弱い人間だ」とがっくりと肩を落としている舅に
この時とばかりに攻め立てた
舅も問題を起こした時は心底反省して
「今度こそ量を減らして、頑張る。半分って決めて飲めば大丈夫なんだ」と
気持ちを新たにするのだった
しかしそんな月日も3カ月も持たない
いつしかサイクルが3ヵ月から1ヶ月へとなりそして夜だけ飲んでいたのが
朝も昼も飲むようになり、そして1日中手放せなくなった
それでも夫や姑はただ
「意思が弱いから。量さえ減らせば。止めるなんてあいつには不可能だ。止めるときは死ぬときだ」そう言い続けていた
警察に病気だと言われて初めて夫も姑も精神科に相談に行く事を許してくれた
次の日に私は前からリストアップしていたアルコール専門病院へと出かけた
私はこれで舅のアル症を治すことができて、また穏やかに暮らせるに違いない
此処へ来れば全てが解決する物だと勝手に思い込んでいた
しかし私はそこでアル症という病を全く理解していなかった事を思い知らさせる事となったのだった
(つづく)