「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら歴史は変わっていただろう」パスカルの著書『パンセ』にある有名な言葉だ。フランス語がダメなぼくは原文を読めないので、英語で記述されたサイトを探してみると次のようになっていた。
"Cleopatra's nose, had it been shorter, the whole face of the world would have been changed"
「クレオパトラの鼻がもう少し小さかったら地球の表情はすっかりかわっていただろう」
クレオパトラが美人であったかどうかを含めて、鼻の大小による顔の美醜の受け取り方の違いは民族間で違いがありそうだ。一般的には低い鼻は東洋人のコンプレックスと思うが、映画「クレオパトラ」を演じたエリザベス・テーラーが、若草物語でエイミー役として鼻の低さを気にしていることもあわせて興味深い。いつか記事にまとめてみようと思う。
さて、フランスの哲学者ブレーズ・パスカルは、クレオパトラ7世の美貌と色香がカエサルやアントニウスを翻弄して世界の歴史に影響を及ぼしたと主張しているようだ。このようにたかが鼻のサイズと言えるほんの些細なことが、その後の人生や歴史を大きく変えるというのは非常にドラマチックだよね。
Such is life, and it's getting sucher and sucher.
「人生なんてそんなものさ But they can't help you, because life is what it is.」 は、映画「僕のニューヨークライフ」でウディ・アレン演じるドーベルが言った言葉だ。
もし、クレオパトラがブスだったら世界はどうなっていたかをフィクションで書くとして、その世界が現実の世界とは異なることを読者は容易に理解できる。だから現実世界との対比をそのフィクションに書く必要はないだろう。しかし、この「もし」をクレオパトラではなく、現代社会のどこにでもいるような平凡な女性にした場合、あるいは、「彼女の美貌」ではなく、ごく些細な出来事に運命が転じるきっかけを設定した場合には、両者の結末の相違を対比して記述する必要がある。同じ女性でも、ほんの些細な出来事から彼女の人生は大きく変わるのだ。両方の世界の違いを、読者を混乱させずにうまく小説に書けるだろうか?
なんと、ピーター・ホーウィットはこれをやったのだ。しかも、2つの顛末のドラマを観客に分かりやすくするため、主演のヘレンを演じるグウィネス・パルトロウのロングヘアーをばっさりと切り落としたから、見事と言うしかない。
この映画のタイトルは、冒頭でヒロインの運命を分けるロンドンの地下鉄のドアから来ている。ある朝ヒロインは、地下鉄の駅で駆け込むのだが、その時に電車に乗れた場合と、乗り損ねた場合の2種類の因果が平行して描かれている。いくら運命を変えようとしても、どの道結果は同じになるとする運命論に基づくものではなく、小さな出来事がカオスティックな変化を引き起こすとする東洋的な発想に近い。
電車に乗れた彼女は、早く帰ったために同棲中の恋人の不実を知り、家を出る。一方、電車に乗れなかった彼女は、恋人の浮気に気づかず、それまでと同じ人生を送る。ふたつの世界の時間がときどき同じ場所で交差するのが面白く、異なる世界のふたりのヒロインがわずかな時間のズレの中で対照的な行動をとるのが脚本の妙だ。
ぼくはこの映画の監督は、ウッディ・アレンだとずっと勘違いしていた・・・・・・orz。それぐらい凝ったストーリーとセリフだ。
モンティ・パイソン(Monty Python)は、イギリスの代表的なコメディユニットだが、同性愛や民族・宗教上の差異を扱ったきわどいネタも多く、そのナンセンスさと毒の強さは以後コメディにとどまらず多くの欧米文化に影響を与えている。このモンティ・パイソンはイギリスではものすごい人気なのだが、実はぼくはあまり良い印象を持っていない。というのも、英語のジョークを無理やり日本語で面白くしようとしているが、どうもすべりぎみなのだ。広川太一郎さんなど声優の方々の熱演にもかかわらず、セリフが浮いていて面白くない。どうも、ここで笑わせてやろうとする意図が見え見えだと、逆に笑えないシニカルな状況になってしまうのかもしれない。・・・・・・おっと、話が脱線。
この映画にもモンティパイソンのセリフが出てくる。落ち込んでいる彼女を見かねて、通りすがりのジェームスが彼女にかけた言葉
James: Cheer up. You know what the Monty Python boys say.
元気出せよ。モンティ・パイソンの奴らがなんて言ったか知ってるだろう。
Helen: What, "Always look on the bright side of life"?
ナンだっけ。「いつもいい方向に考えよう」かな?
James: No, "Nobody expects the Spanish Inquisition."
いや、「何事もスペイン宗教裁判よりマシ」だよ。
ジェームズに聞かれたヘレンは、覚えているモンティパイソンのコントの中で「元気が出るようなセリフ」を選んで言う。しかし、ジェームズの返事は「ブー」。「どんな辛いことがあっても、ひどい拷問で有名なスペイン宗教裁判にかかるよりはマシ」が正解だったわけだ。
それで、別の結末の世界。そのラストシーン。ヘレンと知り合うことのなかったジェームズは、精神的にボロボロのヘレンの姿を見かねて彼女に声をかける
James: Hey, you know what the Monty Python boys say...
ヘイ! モンティ・パイソンの奴らがなんて言ったか知ってる?
Helen: "Nobody expects the Spanish Inquisition." I know.
「何事もスペイン宗教裁判よりマシ」でしょ。知ってるわよ。(´д`)
James: Exactly!
そのとおり ( ・ω・) エ・・・
ジェームズが"Nobody expects the Spanish Inquisition." と正解を言うつもりでいたら、ヘレンからその正解がポンと出てきた。驚きとうれしさが入り混じったような表情で、次の言葉を探してヘレンを見つめるジェームズ。何で言おうとしたことがわかった? という驚きと、お気に入りのこのネタで初めてこういう返答があったといううれしさが混在したのだろうね。で、ヘレンは「この人はなぜ驚いているのか」といぶかしげにジェームズを見る。たぶん、2人は良い方向に進むんジャマイカと観客に期待を持たせるしゃれたエンディングだ。
ところで、チョコレート・ミルクシェーク。おいしそうでしたね。
Gerry, for God's sakes, I asked a simple question. There's no need to become Woody Allen.
-Thanks, James. I'm sorry if you had a lousy time.
Are you kidding? In my book, getting to drink two chocolate milkshakes in one sitting represents social splendour. It's one of the perks of being shallow. Take care, Helen. You'll be fine.
-Thank you very much.
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