約束の時間、午後2時よりも少し前にスキー場内の丸池ホテルモンテ・モア前に行く。そこには、すでに2人の若い男が待っていた。2人とも年齢は30代前半であろう。一人は、白のフェニックスのスキーウエアーに身を包んだ見るからに体育会系風の男。もう一人はスターウォーズに出てくるチューバッカ(森林惑星キャッシーク出身のウーキー族で、年齢は約200歳の架空の人物)を連想させる背の高い若者だ。オレンジのジャケット、ニットキャップ、黒のパンツを身につけている。オレンジのジャケットを着た彼に近づいて目が合った時、なぜか背中がゾクッとするような感覚を覚えた。しかし、どう考えても30代前半の現役の彼らは、メールでやり取りしていたネットの香具師たちと結びつかない。むこうも、こっちを強く意識している様子だから、待ち合わせの相手には違いない。当日の飛び入り参加も呼びかけていたので、そのメンバーなのだろうか?と思っていたら、白いフェニックスの男が声をかけてきた。
「あの方ですか?」
<来たーーーー!!>
あらかじめ、打ち合わせておいた合言葉だった。返事の言葉は
「ですが何か?」
白のフェニックスの男は、「ワタナベカズキ」と名乗った。たしかにスキーはうまそうに見える。でも、絶対、「ワタナベカズキ」は本名ではないだろう。ハンドルネーム(ニックネーム)を名乗ったとしても、その名前はあまりにも香ばしすぎる。本物の「渡辺一樹」は、スキーフリークからすれば神様だからだ。ぼくは、苦笑を浮かべると「ワタナベカズキ」と挨拶を交わした。彼は名古屋から昨晩一人で来たらしい。昨夜、駐車場に止めた車の中で仮眠しての参加だった。日帰りの予定で今日は17時にはスキー場を出る予定とのこと。そして、もう一人のチューバッカ・・・
「彼」はヒロコさんだった。本名「町山」の後に、ニヤっと笑って「ヒロコです」と告げられた時には、ぼくは思わずめまいを覚えた。今回のOFF会で、唯一の女性参加者は実は男だったのだ。一人で頭を悩ませていた宿泊の部屋割りの問題が、思いもかけない方向で一気に解決したので、たしかに嬉しいには嬉しい。しかし、切れ長の目で時々流し目をくれながら底抜けに明るく話す「彼」を見ていると複雑な気持ちになってしまう。「彼」に言わせれば、さきの映画にでてくる男の名前はすでにハンドル名として他の人に使われていたので、勢いで女性名を名のってしまったとのこと。それにしては、メールの文章は完全に若い女性の文章だったのですっかりだまされてしまった。おそらく彼は、ネットではいつも女性として振舞っているのかもしれない。
世間に許容されるかどうかは別にして、日常生活でのオカマは変態とされるのが一般的だと思う。しかし、ネットでの自己表現のために女性を演じているネカマの場合は、これを変態と呼ぶのかどうかはどうにも自信が無い。というのも、日本の文学には、土佐日記のように男が女性の言葉で書いたものがある。男性が自己表現のために女性の表現様式を使うのを『変態』とするなら、『紀貫之』も変態ということになってしまう。文学を志す者にあって、日本文学の古典を冒涜するわけにはいかないのだ。ネカマの「彼」は、3月で33歳になるアパレル会社の社員とのことだった。彼の業界は、バレンタインのこの時期は超忙しいにもかかわらず、仕事を休んでの参加らしい。昨日から宿に先行して宿泊しての参加だった。そして、彼が今日泊まる宿の手配をしてくれていたのだった。
「あの方ですか?」
<来たーーーー!!>
あらかじめ、打ち合わせておいた合言葉だった。返事の言葉は
「ですが何か?」
白のフェニックスの男は、「ワタナベカズキ」と名乗った。たしかにスキーはうまそうに見える。でも、絶対、「ワタナベカズキ」は本名ではないだろう。ハンドルネーム(ニックネーム)を名乗ったとしても、その名前はあまりにも香ばしすぎる。本物の「渡辺一樹」は、スキーフリークからすれば神様だからだ。ぼくは、苦笑を浮かべると「ワタナベカズキ」と挨拶を交わした。彼は名古屋から昨晩一人で来たらしい。昨夜、駐車場に止めた車の中で仮眠しての参加だった。日帰りの予定で今日は17時にはスキー場を出る予定とのこと。そして、もう一人のチューバッカ・・・
「彼」はヒロコさんだった。本名「町山」の後に、ニヤっと笑って「ヒロコです」と告げられた時には、ぼくは思わずめまいを覚えた。今回のOFF会で、唯一の女性参加者は実は男だったのだ。一人で頭を悩ませていた宿泊の部屋割りの問題が、思いもかけない方向で一気に解決したので、たしかに嬉しいには嬉しい。しかし、切れ長の目で時々流し目をくれながら底抜けに明るく話す「彼」を見ていると複雑な気持ちになってしまう。「彼」に言わせれば、さきの映画にでてくる男の名前はすでにハンドル名として他の人に使われていたので、勢いで女性名を名のってしまったとのこと。それにしては、メールの文章は完全に若い女性の文章だったのですっかりだまされてしまった。おそらく彼は、ネットではいつも女性として振舞っているのかもしれない。
世間に許容されるかどうかは別にして、日常生活でのオカマは変態とされるのが一般的だと思う。しかし、ネットでの自己表現のために女性を演じているネカマの場合は、これを変態と呼ぶのかどうかはどうにも自信が無い。というのも、日本の文学には、土佐日記のように男が女性の言葉で書いたものがある。男性が自己表現のために女性の表現様式を使うのを『変態』とするなら、『紀貫之』も変態ということになってしまう。文学を志す者にあって、日本文学の古典を冒涜するわけにはいかないのだ。ネカマの「彼」は、3月で33歳になるアパレル会社の社員とのことだった。彼の業界は、バレンタインのこの時期は超忙しいにもかかわらず、仕事を休んでの参加らしい。昨日から宿に先行して宿泊しての参加だった。そして、彼が今日泊まる宿の手配をしてくれていたのだった。