彦四郎の中国生活

中国滞在記

祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり—沙羅双樹と菩提樹の花咲く、6月の京都真如堂

2022-06-19 10:12:26 | 滞在記

 「夏至(げし)」の日となる6月21日まであと2日。近畿地方は、例年より1週間ほど遅く、今週の火曜日14日に梅雨入りとなった。町中の家の前に咲く紫陽花(アジサイ)の花は、雨の日には特に美しく映える。

 京都市市バスに乗っていたら、アジサイの花柄の浴衣(ゆかた)に身を包んだ若い女性が一人で乗車してきて、目の前の席に座った。帯も髪飾りもすべてアジサイをあしらっている。季節を感じる涼し気ないでたちに感心する。この女性、銀閣寺前バス停で下車していった。銀閣寺や哲学の道の界隈を散策するのだろう。

 吉田山山麓にある京都・真如堂は、この6月の季節、青モミジや苔(こけ)とともにアジサイも美しく咲く。そして、菩提樹(ぼだいじゅ)や沙羅双樹(さらそうじゅ)の花が開花するのもこの6月。

 真如堂の本堂の裏手には、たくさんのアジサイが見られる。まあ、アジサイ苑ともいえる場所。手水舎(てみずしゃ/しょうずしゃ)には、水の中に青モミジを沈め、アジサイが生けられていた。

 『京都花散歩』(水野克比古著)という写真集の6月には、建仁寺・開山堂の菩提樹、妙心寺・東林院の沙羅双樹が掲載されている。

 沙羅双樹(さらそうじゅ)は、沙羅(さら)[夏椿]のこと。紀元前456年、仏教の開祖である釈迦(しゃか)[ブッダ]が、インドのクシラガラという地で亡くなった(入滅)。80歳だったという。沙羅の木々がある場所だった。涅槃図(ねはんず)という絵がある。釈迦が亡くなる時、弟子たちや釈迦を慕う人々、そしてたくさんの動物たちが、臥して、臨終まぎわのいる釈迦(ブッダ)を囲む絵だ。釈迦が横たわるベッドの東西南北に2本(双樹)ずつ、8本の沙羅の木が描かれている。

 この沙羅は、日本の『平家物語』(作者不詳)の冒頭の文、平家物語冒頭に記されている。

 祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理(ことわり)をあらはす。おごれる人も久しからず、唯(ただ)春の夜の夢のごとし。盛者も遂(つい)にはほろびぬ、偏(ひとえ)に風の前の塵(ちり)に同じ。

 特にこの2020年から今日に至るまでの2年半、コロナ禍やロシアのウクライナ侵略にともなう核使用の現実化の恐れなど、この平家物語冒頭文の「諸行無常の響き」「盛者必衰の理」などの言葉が実感もされる世の中‥。 

 この6月上旬ころから、真如堂本堂前の沙羅双樹の白い花が数輪開花し始めた。6月中旬にはたくさんの花が開花してきた。まだ蕾の方が多いので、夏至の日の頃は最も花が多く開花し、この6月いっぱいまでは、沙羅双樹の花が見られそうだ。

 沙羅双樹の花は、「朝に咲いて、夕方に花が落ちる」ことから、「諸行無常」(常ならず)を象徴するような感のある花だ。日頃、よく孫の寛太(1歳半)とともに真如堂に行き、沙羅双樹のようすを見続けてきた。沙羅双樹の純白な花とともに寛太を一枚撮った。

 真如堂の6月上旬から中旬にかけては、毎年、「菩提樹(ぼだいじゅ)」の花が開花する。山門近くの塔頭の前に1本の菩提樹があり、本堂の前には菩提樹の1本の大木がある。このため、6月10日頃に満開を迎えるころには、広い境内中に菩提樹の高貴な甘い香りが漂う。花は淡黄色となる。真如堂に隣接する金戒光明寺(黒谷さん)にも、2本の大きな菩提樹があり、香りを漂わせていた。

 菩提樹は沙羅双樹とともに「仏教三聖木」の一つ。釈迦(ブッダ)が、インドのブッダガヤの地の、この木の下で悟りを開いたとされる。日本には、中国から12世紀(1100年代)に伝わった樹木だ。私がこの樹木を初めて見たのは、中国福建省泉州市の開元寺という古刹だった。

 甘く高貴な香りの菩提樹の花。「菩提樹蜜」として蜂蜜が杉養蜂園から販売されているので、コーヒーに入れたりして飲んでいる。

 「仏教三聖木」のもう一つは、「無憂樹(むゆうじゅ)」。この樹木は熱帯性気候の樹木なので、日本では植物園の温室などでしか見られない。花は黄色から橙っぽい色へと変化する。釈迦(ブッダ)[本名:ゴータマ・シッダッタ]は、紀元前624年4月8日に誕生した(インドの小国の皇子として)とされている。生誕地はネパールとインドの国境にあるルンビニという地。この生誕の場所にあった木が無憂樹。今年2022年4月8日、釈迦生誕2646年となった。

 吉田山の麓にある娘の家の近くにある地蔵さん。京都では毎年、お盆や大文字の送り火が終って1週間後の8月22日・23日に地域の「地蔵盆」がおこなわれる風習がある。そして、そのお地蔵さんには白い前掛けがあり、その1年間に誕生した子供の名前が書かれている。昨年はこの地蔵盆はコロナ禍のため中止となっていたが、今年は再開されるだろうか。前掛けには孫の寛太の名前が書かれていた。「諸行無常」のこの世のならわいだが、子どもたちはこれからの未来だ。

■今年の祇園祭は、3年ぶりに7月1日~31日の期間に開催され、17日(前祭)と23日(後祭)には山鉾巡行が予定されてもいる。

 

 

 

 

 

 


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