彦四郎の中国生活

中国滞在記

次世代エネルギー「ペロブスカ太陽光発電」と「全固体電池」❷—世界が注目「全固体電地」研究開発

2024-06-02 19:15:20 | 滞在記

 今後10年~20年の次世代エネルギーの主役は「ペロブスカ太陽光発電」による太陽光発電となっていくだろう。また、その太陽光発電などで発電した電気を蓄える「全固体電池(バッテリー)」も次世代エネルギーの主役となっていくだろう。このため、日本や中国、アメリカをはじめとして、世界各国や企業はこの二つの次世代エネルギーの研究開発に力を注いでいる。特に自動車産業界はこの次世代エネルギーを使ったEV新エネルギー車の開発にしのぎを削っている。

 BS・TBSの社会・経済報道番組「Biz スクエア」でも、この次世代エネルギーの主役「全固体電池(バッテリー)」について、「特集 EV時代の切り札"全固体電池"―第一人者スタジオ出演」と題して報道された。以下、この番組での報道内容など中心に、「全固体電池」の研究と開発について記しておきたい。

①「トヨタのEV電動車戦略」—2030年までに30車種のEV展開—EV販売台数350万台に。全固体電池など次世代電池の開発に約2兆円を投資。「日産のEV電動車戦略」―2028年に全固体電池使用したEV車販売計画。「日産・三菱・ルノー」―今後5年間で約3兆円をEV・電池開発にあてる。「ホンダ」―2030年ころに全固体電池の実用化を目指す。

②全固体電池とは、これまでの(従来の)リチウム電池とは違い、電解質部分が電解液ではなく、電解質部分を固体化。それにより、電池性能(バッテリ性能)が、リチウム電池と比べて次のように飛躍的に向上する。

 1、「エネルギー出力」―〇リチウム「1」〇全固体「2.5 倍」 2、「充電時間」―〇リチウム「1」〇全固体「3分の1」 3、「作動範囲」―〇リチウム「高温・低温では性能低下」〇全固体「高温・低温でも性能維持」 4、「安全性」―〇リチウム「液漏れ・発火・破裂の恐れ」〇全固体「発火などの危険が少ない」 5、「構造」―〇リチウム「単層電池」 〇全固体「積層が可能」 6、「耐久性」―〇リチウム「寿命が短い」 〇全固体「寿命が長い」 7、「大きさ」―〇リチウム「冷却機器が必要なため大きい」 〇全固体「冷却機器が不要のため小さい」

③2011年、日本の東京工業大学大学院の菅野了次教授を中心としたグループが「超イオン伝導体」を発見。これによりリチウムイオン電池に代わる次世代エネルギ電池である「全固体電池」の開発が現実化した。(そして、菅野了次教授は、「全固体電池」研究・開発の世界の第一人者となった。)

※上記写真、左から1枚目「東京工業大学」、2枚目〜4枚目「超イオン伝導体の構造と全固体電池の構造」

※上記写真、「全固体電池の構造」や「リチウム・全固体の性能比較」など

④リチウム電池の研究開発に携わり、1985年に世界で初めてリチウムイオン電池の基本構造を完成させ、2019年、ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏は、この「全固体電池」について、「画期的な大発見」と評価している。

⑤現在、東京工業大学全固体電池研究センターのセンター長をしている菅野了次特任教授。センターには准教授や助手などの中堅・若手研究者など約100名が在籍し、日々、研究開発を行っている。

■全固体電池—中国勢も次々と特許申請を行っている。

 中国の自動車メーカーもまた、電気自動車(EV)向けの次世代電池「全固体電池」(※電解質を液体から固体に切り替えた電池)の開発を、中国政府とともに急ピッチで進めている。関連特許で先を行く日本勢を追いかけ、早期の実現化に向けて続々とさまざまな関連特許申請を行っている。

■この「全固体電池(バッテリー)」の車への搭載により、①航続距離が飛躍的に伸びる(ゆうに1000km以上に)、②充電時間がこれまでの3分の1となる。また、安全性や気温環境への対応が飛躍的に改良されるなど、電気自動車(EV)の性能が飛躍的に評価されるものとなる。また、「ペロブスカ太陽光発電」が車に搭載されれば、家庭や充電スタンドでの充電回数を激減させることもできるようになり、電気自動車(EV)が本格的に世界で使用されることとなるだろう。そのような時代は2035年までには確実に来ると予測されている。

 この時代、今後の10年間、中国と日本の自動車産業界を中心に、熾烈な研究・開発競争が展開されることになるだろう。だが、中国は国家プロジェクトとして、この自動車のEV事業や太陽光発電を取り組み、巨額の資金を注いでいるのに比べ、日本政府の取り組みはまだ小さい。国家産業戦略があまりにも弱いのだ。現在、日本の国会では、与野党ともに「政治資金規正法」などの議論に明け暮れている。それも必要な法整備だが、あまりにも国会論議の議題のスケールが与野党ともに視野的に小さすぎるのだ。残念ながら、日本の政治というものの劣化を感じてしまう。なぜ、野党などもこの産業・経済の世界的現状を踏まえた国家戦略に関することなども議題として提案したりしないのだろうか。

 

 


次世代エネルギー「ペロブスカ太陽光発電」と「全固体電池」➊―世界が注目—ペロブスカ太陽光発電の誕生秘話

2024-06-02 10:23:01 | 滞在記

 次世代エネルギーとして全世界が注目し、開発競争が激化している(特に日本と中国)のが「ペロブスカ太陽光発電」と「全固体電池」。自動車などにも、この次世代エネルギーの実用化が2025年頃から始まろうとしている。(※次世代エネルギーと注目されるようになった「ペロブスカ太陽光発電」と「全固体電池」を発見・開発し始めたのは日本の研究者。中国は国家プロジェクト(戦略)として、巨額を投じて、この次世代エネルギーや自動車のEV車開発を行っている。)

 『大発見の舞台裏で!—ペロブスカ太陽光発電誕生秘話』—「ノーベル賞最有力候補 初めての著書」と書かれてもいる書籍。著者は宮坂力さん(現在71歳)[松陰横浜大学大学院特任教授]だ。次世代エネルギーとして研究開発が進むペロブスカ太陽光発電だが、最近、日本の報道番組などでも特集的に取り上げられることも多くなりつつあるようだ。

※上記写真、左から2枚目は松陰横浜大学、4枚目は小島陽広さん、5枚目は東京工芸大学、6枚目は宮坂・小島

 NHKの教育TV(Eテレ)の「サイエンスZERO」の2022年9月放送では、この「ペロブスカ太陽光発電」の誕生に至る物語が再現映像も含めて放映されていた。その特集報道によると、宮坂力さんがこのペロブスカ太陽光発電と後に呼ばれるものと出会うことになったのは今から19年前の2005年。当時、松陰横浜大学大学院教授だった宮坂さんの研究室(ラボ)に、他大学(東京工芸大学)の大学院生の小島陽広さんが訪れてきた。東京工芸大学大学院の小島さん(修士課程)の指導教官と宮坂さんは知り合いだったので、その指導教官からの紹介で宮坂研究室を訪れたのだった。

 そして、小島さんは「光を当てるとよく光るペロブスカイトという物質を太陽光発電に使えないか研究してみたい」と、宮坂さんに提案してきたのだった。宮坂さんは、軽い気持ちで、「まあ、そんな研究も面白いかもしれないから、うちの研究室(ラボ)も使っていいですよ」言ったのが、後に世界が注目する次世代エネルギーのペロブスカ太陽光発電誕生につながっていくとは、宮坂さんも当時は思いもしなかったようだ。(※ペレストロイカは当時、超電導材料やインクジェットプリンターのヘッドに使われていたので、宮坂さんもその物質の名前くらいは知っていた。)

 それから数カ月後の2006年、ペロブスカイトは光を電気に変える性質を持っているかもしれないと考えていた小島さんから、「ペロブスカイトに光を当てたら微弱な電流が流れました」と、宮坂さんに報告がされ、二人は喜びあった。東京工芸大学大学院の修士課程を修了したら就職する予定だった小島さんに、東京大学大学院の客員教授も兼務していた宮坂さんは、東京大学の博士課程への進学を勧め、小島さんは東京大学博士課程に在籍することとなる。

 そして二人での共同研究が始まった。光エネルギーの何%を電気に換えるかを示す「発電効率」、最初は1%もなかったが、2009年時点で3%の発電効率を作りだすことができ、これまでの研究を学術誌に論文発表した。しかし、その論文に対する関心や反響はほとんどなかった。

 しかし、転機は2012年に訪れることになった。イギリスのオックスフォード大学のヘンリー・スネイス教授が宮坂さんの研究室を訪れた。

 スネイス教授は「作り出した電気を電極に運ぶ部分を液体から固体に変える」ことを研究している科学者だった。スネイス教授の提案を受け入れることで、ペロブスカ太陽光発電の性能は飛躍的に向上し、「発電効率」は10%に達した。そして、米国科学誌「サイエンス」で論文内容を発表すると世界に大反響を呼ぶこととなる。そして現在、ペロブスカ太陽光発電の発電効率は25%までを達成、これは従来のシリコン太陽光発電の発電効率と同程度となっている数値だ。

 BS・TBSの社会経済報道番組「Bizスクエア」でも、「シリーズ未来のエネルギーVOL3、薄い軽い・曲がる!ペロブスカ太陽光発電とは」と題された特集番組が放映されていた。(2023年7月放送)   現在(従来までの)、世界で使用されている太陽光発電電池である「シリコン電池」と「ペロブスカ太陽光発電地」との比較や、現在の太陽光発電の世界的シェアのうち、中国が75%を占めていることなども報じられていた。

 太陽光発電を巡っては、日本には苦い経験がある。シリコン型は2000年代に三洋電機(現パナソニックHD傘下)やシャープ、京セラなどが世界シェアの上位を占めたが、その後中国勢が圧倒的な巨額投資で世界市場を席捲し、日本企業は敗れ去った。

 調査会社の富士経済によると、ペロブスカ太陽光発電の世界市場規模は2035年には1兆円に達する見通しとされる。海外勢ではポーランドや中国では工場での生産がすでに始まっていて、日本勢は先を越されつつある。国際競争に勝ち抜くために、日本政府もようやく支援に本腰を入れはじめ、昨年8月には開発支援費を648億円に増やす方針を決めた。

 日本勢の強みとしては、ペロブスカ太陽光発電地の主原料となる「ヨウ素」は、日本が世界第二位(※一位はチリ。日本とチリで世界の生産量の95%を占めている。ヨウ素は薬品の「ヨードチンキ(うがい薬)の材料」となっている。)であることだ。従来のシリコン電池の主原料である結晶シリコンは中国が主産地で、国際情勢によって供給が不安定になる恐れがある。

 NHK、BS11の報道番組「報道ライブ インサイドOUT」では、宮坂さんも出演して、「ペロブスカ太陽光発電」に関する報道が放映されていた。現在、日本の企業では、「東芝」「積水化学」「カネカ」「エネコートテクノロジー」などの企業がこの開発と商品化を進めているとのこと。主原料である「ヨウ素」と「鉛」は、ほぼ国産で原料調達が可能なことなどが紹介されていた。また、中国・イギリス・ポーランド・韓国などの企業がこのペロブスカ太陽光発電電池生産に力を注いでいることなども。

 報道では、2022年に宮坂さんや小島さん、イギリスのスネイス教授、韓国の研究者など7人に対して、イギリスの「英ランク賞」が授与されたことも報じられていた。ノーベル賞化学賞受賞に近い人が受賞する賞とも言われている賞のようだ。(※その7人の中心的(軸的)存在が宮坂さんだった。)

■従来の「シリコン型太陽光発電」に比べて、「➀厚さは1000分の1、②重さは10分の1、③将来的には価格も半分以下」で、フィルムのように軽くて曲げることができる「ペロブスカ太陽光発電」。建物の屋根だけでなく、壁面などにも設置が可能だ。色彩もさまざまな色に作ることが可能。自動車の屋根やボンネット、ドア側面などにも貼り付けることができる。また、「④雨や曇りの日など太陽光が弱くても発電が可能」などの特徴がある。衣服などにも装着可能になるなど。

この次世代エネルギーは、自動車産業界では、本格的なEV車の開発となっていくだろう。京都大学発のベンチャー企業「エネコートテクノロジー」(本社:京都府久御山町)は、2022年よりこの車の開発試作をトヨタと提携して行っている。

■宮坂さんと小島さんが発見・発明したこのペロブスカ太陽光発電電池は、2012年以降、世界的な研究・開発が各国で始まった。宮坂さんの東京大学の研究室などに所属した中国人の教え子も複数いて、中国での研究開発の中心となっているようだ。巨額の資金を投じて研究開発を国家プロジェクトとしてすすめる中国には、宮坂さんも驚いてはいる。

 ―宮坂力—1953年生まれで現在71歳。早稲田大学工学部の化学専攻。(※特に化学に興味が強かったわけではなく、当時、公害問題などで化学専攻が人気がなく試験に合格しやすかったので工学部の化学の試験を受験したと語っている。) 早稲田大学卒業後は東京大学大学院(化学研究科)にすすむ。そして、「光の吸収によって起こる化学変化や発光現象を調べる"光化学"の面白さに目覚め、研究者の道を歩み始めた。

 大学院の指導教官から、博士課程を修了する際に、大学の助手ポストを勧められる。さんざん迷ったが、大学を去って「富士フィルム」に就職した。その後、20年間あまり富士フィルムで、カメラの電源に使うリチウム電池の開発などに携わった。しかし、富士フィルムの経営陣が、カメラやフィルムは儲からない現状となったことで、研究生産開発を縮小。このこともあり、40歳代中ごろに富士フィルムを退社するために、東京大学や慶応大学、日本大学などの教員採用試験を受けて、面接まではいくが採用までは至らなかった。

 そして、"つて"もあり、富士フィルムを退社して2001年に、松陰横浜大学大学院教員の職に就いた。給料は富士フィルム時代より年収は300万円減に。2005年~2010年、東京大学大学院の客員教授を兼任。2017年より先端科学技術研究センター・フェローを兼任。2020年~現在まで、早稲田大学大学院の客員教授も兼任している。(※松陰横浜大学特任教授でもある。) ノーベル化学賞有力候補と言われている。

     小島陽広さんは、東京大学大学院の博士課程を修了後、古川グループの「日本ゼオン」(樹脂・ゴム、自動車タイヤ製造など)という企業に就職しているようだ。

■ペロブスカ太陽光発電電池の発見・開発に至ることになった小島陽広さんと宮坂力さん。二人がそれぞれ所属していた「東京工芸大学(私立)」と「松陰横浜大学」の偏差値は、37~45ととても低いFランクの大学だ。そのようなランクの大学の大学院生と教員が共同して、世界が注目する次世代エネルギーの開発につながったことも興味深い。