彦四郎の中国生活

中国滞在記

世界の自動車産業の動向➍—大変動時代に、トヨタなど日本のメーカーはどのような戦略を持っているのか

2024-05-31 11:11:42 | 滞在記

 2021年~24年、世界の自動車産業の世界は大激動・大変動の時代の真っただ中に入っている。中国のBYD社などの自動車会社のEV車などの新エネルギー車が、中国国内市場のみならず、世界の自動車販売市場を怒涛し始めているからだ。また、米国のテスラ社のEV車の躍進も目覚ましかった。

 そんな大激動の自動車産業界だが、今年の春、日本のトヨタ自動車の昨年度(2023年)決算会見が行われた。その会見では、昨年度の売り上げは45兆953億円(前年比21.4%増)となり、純利益(営業利益)も5兆3529億円(前年比96.4%増)との報告がされた。1年間の営業利益が5兆円を超えたのは、日本企業としては史上初となった。

 なぜ、そのような売り上げと純利益の情況となったのか。それは、世界的にブームとなっていたEV車の販売増加が一旦落ち着き(EV車の課題もあって)、トヨタなどが主力車としているハイブリット車が再び評価されたことが要因のようだ。(※EV車は一旦は小休止となっているが、しかし再び、2027年頃から新たなEV車の世界的増加の流れはあると考えられている。だから、トヨタの2023年売り上げ増加も、この2~3年間だけのEV車の小休止によるものと認識されている。)

 そして、世界の自動車産業界は、今後の10年間、「EV機能+ハイブリット機能(※電気充電施設から充電可能なPHEV車)+固体バッテリー+太陽光充電+IT機器(OS)」の開発競争となる予測。さらに、「進化したEV機能車」の開発へと進むと予測されている。

 トヨタがこの20年間余り世界の先進をいっていたこれまでのハイブリッドカーについてだが‥。

 ―ハイブリッド車—世界に先駆けてハイブリッド車を開発し、1997年に販売し始めた日本の自動車メーカー・トヨタ。そのハイブリッドカーの代表的な自動車がプリウスだ。2003年、2009年、2015年にモデルチェンジを行い、2023年のモデルチェンジ車が4代目となる。

 そのハイブリッド車の仕組みとは、ガソリンエンジンと電気モーターの使い分けで、車が走行できること。発進の時はバッテリーとモーター、走行中はガソリンエンジンと電気モーターを使い分ける。タイヤの回る力を利用して電気を作りバッテリーに充電しモーターが回せる。

 日本でのハイブリッドカーの保有台数割合は、2022年で自動車全体の約16%、6台に1台がハイブリットカー。2000年代以降、このハイブリッドカーは世界の自動車販売シェアーを大きく占めることともなった。最近では、プラグインと呼ばれる、自宅や充電スタンドでバッテリーに充電できるハイブリッドカー(PHEV)も中国では先進的に販売されている。このPHEVの技術面では、トヨタは中国のBYDに遅れをとっている。

 このような世界の自動車産業の大変動の時代、日本のトヨタはどのような戦略でこの新たな時代を切り開こうとしているのか。最近、視聴したYou Tubeドキュメント特集番組で参考になったものを以下(1~8)にその内容を紹介しておきたい。

—You Tube特集番組より(1~8)—

1、EVは多くの問題をかかえていますが、その一つが充電に関する問題です。ガソリン車の場合、給油は数分で終わりますが、EV充電は充電スタンドでも30分から1時間ほどかかります。急速充電(料金は高くなる)の場合でも15分はかかるため、充電待ちの行列ができることもあるほどです。(※家庭での充電の場合、8時間から15時間ほどが必要)そうしたEVの充電問題が解決されない限り、世界でこれ以上EVソフトが進むことが難しいでしょう。

2、そのような中、トヨタなどがこれを解決するために動き出しました。それがペロブスカ太陽電池を掲載した自動車の開発です。ペロブスカ太陽電池は、その名の通り太陽光発電により発電する電池ですが、太陽光を効率的に電気に変換できます。そして、最大の特徴は、非常に軽量で柔軟性に優れていることです。印刷技術を使って製造することができます。その厚さは1mmで、従来の太陽光パネルの1000分の1、重さは10分の1となっています。また、フィルム状であるため、折り曲げることができます。さらにこのペロブスカ太陽電池をトヨタの車のEV車に設置すれば、充電施設を使う頻度が限りなく減ります。

3、ペロブスカ太陽電池は、2009年に日本の研究者が発見した新しいタイプの太陽電池です。宮坂力・松陰横浜大学大学院教授は(※最初は所属する大学院生の発案による)ペロブスカという結晶構造を持つ物質を用いて高い光電変換効率を実現する方法を発見しました。この発見は、ノーベル賞級の業績とも評されています。そしてこの研究は、京都大学発のベンチャー企業「エネコテクノロジーズ」が提携し、より高効率なペロブスカ太陽電池の材料技術の進歩を研究もしています。そして、この「エネコテクノロジー」と提携しているのが日本のトヨタ自動車です。

4、トヨタはすでに、プリウスなどの一部の車種で太陽光パネル搭載モデルも展開してきましたが、今後、充電施設スタンドなどを利用せずに太陽光パネルでのEV車などの実現も将来的に期待されています。これによりEV化の最大の課題とされてきた充電インフラ整備や充電時間の問題が改善・解消されEVの普及がさらに加速されていく可能性があります。トヨタとエネコテクノロジーは2023年5月から、車搭載用ペロブスカ太陽電池の開発に着手しており、2025年を目標に試作車を完成し、2027年頃にはこのペロブスカ太陽電池掲載のモデル発表を目指しています。

5、トヨタはあえてEV化に遅れをとっていたのは、次世代のEVを投入することで一気にEV市場のシェアを獲得しようとするためです。長年のハイブリッド車の開発で培った技術を活力にして効率的で革新的なEVを投入することです。トヨタ会長の豊田章男氏は、「EV化は避けられない流れだが、単にEVを作るだけでなく、より良いEVを作ることが重要」と述べています。

6、最近、EV市場の動向に世界の注目が集まっています。従来のEVはリチウムイオン電池(バッテリー)の課題から、環境性能に疑問がもたれてきています。豊田会長は、「EV市場の最近の不振の一つはリチウムイオン電池バッテリーの課題が消費者に認知されてきたことが原因として大きい」と述べています。つまり、EV=安全かつ効率的なクリーンエネルギーというという単純なイメージ図式が崩れつつあり、人々が現在のEVの欠点を理解し始めたということなのです。実際、テスラの株価は下落してきています。これはEV需要の一旦減少の影響です。

7、トヨタはEV以外にも水素車やハイブリッド車の進化の開発を進めてきました。このようなトヨタに対して、「EV開発に立ち遅れている。トヨタは時代遅れだ」という批判もありました。しかし、2023年~24年にかけてのEV市場の一旦減速をみれば、「トヨタの戦略には正当性がある」と、ドイツのフォルクスファーゲン社をはじめ、世界も改めて注目をし始めています。(※最近のアメリカの新車販売台数の40%近くが日本車なのです。)

8、トヨタはまた、従来のリチウムイオン電池バッテリーとは異なる「全個体電池バッテリー」の開発も提携企業と先進的に行っています。「全個体電池」とはリチウム電池のような電解液がなく、固体の材質のみで構成される電池です。この構造の違いにより全固体電池には大きなメリットがあります。

エネルギー密度の向上により、充電時間が大きく短縮されます。さらに安全性も高まります。(※従来のリチウムイオン電池バッテリーのように、熱暴走による発火の恐れがなくなります。)加えて、全固体電池は環境の変化にも強く、寒冷地での性能低下といった課題を解決できるのです。そして注目なのは、トヨタがこの全固体電池バッテリーを搭載した次世代EVを2027年までに市場に投入する計画を立てていることです。

■このYou tube動画などを視聴して思うことは、トヨタの戦略とはつまり、2027年を初年度の目標に、全固体バッテリーやペロブスカ太陽光発電を車に搭載することにより、より優れたハイブリッドカーを制作・販売する戦略を持って開発を進めていることかと思われる。このハイブリッドカーが作られれば「➀ガソリンエンジン+②太陽光発電と優れたバッテリー+➂家庭や充電スタンドでも充電可能なPHEV」の三種の神器的な機能を持つ自動車が開発されることとなる。

そして、この三種の神器的な機能を併せ持つ自動車の開発は、中国のBYD社も着々と進めいているようだ。まさに、トヨタとBYDの熾烈な競争ともなっているが、総合的にはBYDがやや優勢に進んでいるかもしれない感はある。つまり、➀のガソリンエンジンではトヨタ優勢、②は五分五分、③はBYD優勢、そして、④IT(OS)機能はBYD優勢かと推測される。

 中国の自動車産業は、中国政府の新経済産業政策国策としての大きな資金援助を背景に急成長をしてきている。一方、日本は政府の経済産業政策の国策が弱い。だが、自動車産業の世界的大変動に直面し危機感が強くなり、ようやく国としての動きも見られるようになってきた。

  日本政府(経済産業省と国土交通省)がこの5月20日に発表した自動車産業のデジタル化戦略案。自動車のデジタル化で、中国や米国勢が先行する中、「SDV」と呼ばれる次世代車の世界販売で2030年に日本勢の世界シェアー(占有率)を3割に伸ばす目標を掲げる。そのために、日本の自動車産業界のメーカーの垣根を超えた連携を促すとしている。(※日本の自動車会社NO1のトヨタ(※ダイハツを傘下)と、NO3の「マツダ」や「スズキ」が業務提携した。また、国内2位のホンダは、日産や三菱と、そしてSONYとの業務提携。)

■トヨタは中国のテンセント(IT機器大手会社)との協定を締結もしている。OS面での強化のためだ。また、同じくトヨタは、ライバル会社である中国のBYDとの技術協定も行うと発表した。BYDが先行しているプラグインハイブリッドの技術提供を得るためだ。中国側の会社としては、「世界のトヨタとの連携」というネームバリューが、企業価値を高めることができる。

■日本の三菱の「アウトランザー」(PHEV車)なども中国で最近、時々目にするようになっている。ちょっと中国人の間でも人気が出始めているのかもしれない。日本のマツダの「MX30」なども注目され始めているようだ。中国の人たちも、BYD車やテスラ車だけでなく、総合的によりよい自動車を求め始めているようにも思えた。