彦四郎の中国生活

中国滞在記

「全国人民代表大会」—中国はどう動くか❸国家主席任期撤廃から1年、人民からの支持を得よ!

2019-03-12 10:18:01 | 滞在記

 3月5日から始まった全国人民代表者大会(全人代)は、10日間の日程を経て15日には閉幕予定だ。ちょうど1年前の全人代では「国家主席の任期は2期10年」という憲法規定を改変、任期を撤廃して世界を驚かせた。あれから1年間が経過した。この1年間の中国政治状況で最も大き対外的な出来事は米中貿易摩擦の深刻化を序章とする「米中対立」だろう。経済の急激な減速に伴って、国内の失業や倒産、労働争議なども増加しているとも伝わる。

 このような国内外の状況なかで開催されている全人代に関するANN報道(日本のテレビ報道)では、中国共産党序列4位の王洋常任委員の報告演説の中で「習近平同志を中核として」「習近平新時代における中国思想を学習し」など、40分間の演説で20回以上も習主席の名前を連呼したと伝えていた。このような動きは、米中貿易摩擦が激しくなった去年の秋ごろから目立つようになったとも。

 企業(会社)内でも、「習近平新時代における中国思想」の学習会をその担当者を中心に広がっているとも伝えられていた。携帯電話アプリを使っての学習会を行い、クイズ形式の問題もあるようだ。学習会担当者の「政治思想への勉強意識が高まるでしょう」との話が報道で伝えられていた。

 また、全人代が開催される前に中国の各テレビ局では、ゴールデンタイムに12日間にわたって「平語近人—習近平総書記用典」と題された報道番組が放送されたとANNは伝えていた。「習主席はこのように発言しています」「この決心は党と国家の未来への責任から来たものであり」「人民への深い愛情から来たものであり」などの学習内容への助言の言葉などのテレップが流されていテレビや携帯電話アプリなど、あらゆる機会を活用して「習近平主席路線」の国民・人民への支持を得るための方策が全国的に強く進められているようだ。

 このような動きは大学でもある。閩江大学では、昨年の秋ごろに大学構内の正門(南門)や4つある大学食堂など、学生が最も多く出入りする場所に大型スクリーンが新しく設置され、常時、中国共産党の政策関連の報道がされ続けている。特に意識してそれを見ていなくても、いつのまにか「中国共産党一党支配は必要だ」「中国すごいぞ」の意識は刷り込まれてくる。このような刷り込み意識の受け入れは、私も例外ではなく、この報道の影響(洗脳)される部分もあるように感じている。手をかえ品をかえ、新しい映像報道がくりかえされると、人は知らず知らずに刷り込まれてくる。

 このような中国国内の動きについて、ANNのコメンテーターは、「経済成長が鈍り始め、習主席の求心力が低下することを非常に懸念している」「政権側の危機感の表れかと思います」とコメントしていた。

 中国製造戦略「2025」や中国対内外経済・政治国家戦略「一帯一路」戦略において、「一帯一路一海一空一天」戦略をおし進め、中国と米国との覇権争いに最終的に勝利するための壮大な国家戦略。それを阻もうとする米国との戦い。「今は少し苦しい時だが、人民の支持を広げて、持久戦に勝利しよう」と国内外にアピールしているのが、今回の全人代に思える。

  「中国は、これからどう動くのか」は2019年全人代の内容をみていくとある程度は見えてくる。いままでに述べてきたことの他に、全人代では、「1100万人の就業機会をつくり、失業率5.5%前後を4.5%以内におさえる。」「民営企業の活性化のために減税などの税制改革をする。また、零細民営企業への大手国有銀行からの融資を30%以上増やす。」など、国内の就業・起業への国内対策もある。

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 今回の全人代を見た限りでは、1年前に比べて李克強首相の存在感が強まってきている感もある。その反面、習近平主席側近の劉鶴氏などの存在が希薄になってきているように感じる。これは、劉氏などがこれまで「中米関係」政策の中心となっていたが、「読みを誤った」「米国の出方を過小評価していた」ことが裏目に出ていることからきているとも伝わる。

 全人代で習近平主席は、2020年末までに全地域を貧困から脱却させる目標を必ず達成するよう改めて号令をかけた。達成できなかった幹部が虚偽の報告をすることを警戒し、「百里を行く者は九十九里を取り締まり強化を半ばとする」という故事を引用して戒めたと伝わる。2017年の党大会で、今世紀半ばに世界一流(NO1)強国になると宣言。第一歩として20年末までに「小康社会(ややゆとりのある社会)」を全面実現するとした。貧困脱却は小康社会実現の重要な条件と位置付けている。

 中国政府は2011年に貧困ラインを年収2300元(約3万8000円)以下と定義。過去6年間で8000万人の貧困減少を減少させたが、昨年末時点でまだ1660万人が取り残されていると指摘している。今回の全人代では、昨年比18.9%増の貧困対策予算が計上されている。金額とし1261億元(約2兆円)となる。(※2018年の大学卒の初任給が全国平均的には3500〜4000元くらいとなっているので、中国の貧困ラインは凄く低く設定されているように思う‥‥。2300元の金額は、一日4箱のタバコを吸う私の1カ月のタバコ代金の約半額となる。)

 今回の全人代で、中国国民にとって、とても嬉しい決定がされるという報道もあった。毎年の「春節」(中国やベトナムなどの正月)時期の国民休暇は土日を入れて7日間だったが、これを10日間にするということ。また、4月の「清明節」(先祖の墓参りなど)を土日を含めた3日間だったのを7日間にするという決定だ。来年2020年よりの実施予定だ。「清明節」は毎年4月5日前後の4月上旬なので、日本の桜が満開になっている時期と重なりあう。来年度の日本での桜見の中国人観光客が激増することが予想される。

 全人代での李克強首相は、「一帯一路」で日本との協力推進に言及し、王毅外相は、「日本との関係は良好な関係へとすすんでいる」と報告していた。この良好な方向に進んでいるとされる「日中関係」は、いつまた、激変する可能性も大きくある。