2月14日、NATO加盟国がドイツのミュンヘンに集まり、「ミュンヘン安全保障会議」が開催された。この会議にアメリカ政府代表として参加したバンス副大統領は、異例の欧州NATO諸国(特にイギリス・ドイツ・フランスなど)を次のように批判する演説を行った。「欧州が最も懸念すべき脅威は、ロシアでもない。中国でもない。欧州内部自身だ。」と演説した。
欧州内部自身の問題(懸念)とは、イギリスやドイツ、フランスなどヨーロッパ主要国の現政権(民主主義を標榜し、右翼ポピュリズム勢力と対峙している。)に対する批判であり、この演説は、ロシアや中国のみならず、欧州の右翼ポピュリズム勢力を勢いづかせる演説内容だった。このバンス副大統領の演説について、トランプ大統領は、「素晴らしい演説だった」とバンス副大統領をほめそやした。
バンス副大統領はこの演説の中で、欧州各国の(民主主義)政権が、(特に右翼ポピュリズム勢力などにもよる)ニセ情報のSNS規制強化を批判。「(懸念とは)欧州がアメリカと同じ価値観から後退することだ。欧州が言論の自由から後退していることを危惧している。"移民排斥"を訴える政党が欧州で支持を広げることを希望している」とし、「ワシントンには新しい保安官がいる。トランプ氏のリーダーシップのもと、欧州の言論の自由を守るためにアメリカは戦う」と演説した。この演説は「バンス演説の衝撃」として、世界に衝撃を与えた。
この演説に先立つ2月8日、スペインで、「欧州議会極右会派集会」が開催され、フランスのルペン党首やオランダのウィルターズ党首、ハンガリーのオルバン首相(ロシアとの関係が深い)など、欧州各国の右翼勢力が一堂に会した。バンス演説はこれらの欧州の右翼ポピュリズム勢力のみならず、世界の同勢力を勢いづかせるものとなった。
—トランプ氏が自らを王に見立てた—2月21日、アメリカ大統領府のホワイトハウスは、トランプ氏が自らを王に見立て王冠を被った写真に「王様万歳!」と記したものを全世界に向けて投稿した。バンス演説といい、このような投稿といい、「民主主義とは、あまりにかけ離れた」というか、「民主主義を敵視さえしている」様相を呈しているトランプ政権でもある。
そして、アメリカ国内では、共和党党員であれ民主党党員であれ、両党の議員であれ、トランプ政権を個人が批判することさえも、躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない、かなり決意のいることとなっているようだ。批判すればトランプ氏を熱烈に、狂信的に支持してる、2020年に連邦議会を襲撃したようなトランプ信者の集団からの猛烈な批判・抗議行動にさらされることを恐れるからだ。民主主義制度崩壊の深刻な危機にアメリカもある。
2月18日から、サウジアラビアでアメリカとロシアの高官による「ロシア・ウクライナ」の停戦交渉が始められた。当事国であるウクライナを会議には参加させず、欧州からも参加させない、ウクライナの頭越しの、ロシア寄りの停戦交渉。
2月19日には、「ウクライナのゼレンスキーは独裁者だ。彼は4%の国民の支持しかないのに、大統領の座に居続けている。彼は、(大統領になる前の)コメディアンとしてはそこそこに成功したが、このロシアとの3年間の戦争の間、何も成し遂げられていない、実績を残してもいない。プーチン大統領が望めばウクライナ全土を占領できるだろう。これまでアメリカがウクライナを支援するために使った金額の見返りに、ウクライナ国内のレアメタル鉱山の権利をアメリカにわたせ」などと、ゼレンスキー大統領を罵(ののし)った。
この4%という数字は、ロシア側が主張している数字。実際には、今年2月上旬に信頼できる機関が行った支持率調査では、1年前より下がったとはいえ、57%が「ゼレンスキー大統領を信頼し支持する」というのが正確なものだったにもかかわらずだ‥。
2025年2月24日、ロシアのプーチン政権によるウクライナ侵略・進攻が始まって、まる3年間が経過した。首都キーウのみならず、ウクライナ全土で多くの犠牲者を弔う集まりが行われた。この日もロシアによるミサイル攻撃が首都で行われた。
トランプ大統領とプーチン大統領による、ウクライナの頭越しの停戦交渉や、トランプ大統領のウクライナ国民に対する態度、ゼレンスキー大統領を馬鹿にした言動などに、「トランプ氏は、ロシアを被害者のように扱っている。とても嘆かわしい」と憤るウクライナの人々の姿が報道されてもいた。
この3年間の戦闘や空爆などにより、多くの犠牲者が生まれた。TBSの「報道1930」の報道番組によれば、ウクライナでは、兵士の死者4万5100人、民間人の死者1万5000人以上、兵士や民間人の負傷者は約39万人にもそして、国土の20%がロシアに占領されている。一方のロシアは、兵士の死者は17万2000人、負傷者は61万1000人。
■前号のブログで紹介した、ハーバード大学のマイケル・サンデル教授の「トランプが当選した理由」について語るインタビューは、youtubeでは9分くらいのものもある。(上記写真)前号で記さなかったが、人々を「愛国主義」へと過度に煽りたてる主張も人々を惹きつけるとサンデル教授は述べている。「アメリカンファースト」「アメリカを再び偉大な国へ」という呼びかけだ。これに人々の多くは惹きつけられ、誇りのようなものを感じる。「カナダやグリーンランドの領土化、パナマ運河の所有」などの発言や、「ガザ地区のアメリカ所有」などの発言も、この過度な愛国心や「アメリカを再び偉大な国へ」と、リンクする言動だ。
これは中国では習近平主席の「中国の夢」、ロシアのプーチン大統領の「ロシアを再び偉大な国家に」と合い共通する。過度なまでの国粋的なプロバガンダである。