梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

時雨月稽古場便り 巻の六

2006年10月02日 | 芝居
本日は正午より『元禄忠臣蔵』の<初日通り舞台稽古>でございました。
今月の公演では、『江戸城の刃傷』『第二の使者』『最後の大評定』の三作。計六幕十二場が上演されますが、師匠は『江戸城の刃傷』のみ、私は『第二の使者』で一役、『最後の大評定』で二役を演じます。
『江戸城の刃傷』では私は黒衣になりまして、師匠の用事に専念いたします。師匠の扮装が、短い上演時間の中で二度変わりますのでその着付け作業と、最後の出番「田村右京太夫邸 小書院の場」では、効果としての<散り花>がございますので、舞台天井近くの<簀の子>からの花降らし。諸々の仕事の段取りをつけながらの今日の稽古では、ちょっとバタバタしてしまいました。
今回はじめて国立劇場大劇場の簀の子に上がりましたが、いや~、その高さのすごいこと。足場も狭く、なかなかのスリルがございました。元来「ナントカの高登り」で、こういう場面には慣れている私ですが、さすがに恐かったです。しかも簀の子の位置と舞台装置の位置の関係で、花びらを降らせるキッカケである、師匠の動きがほとんど見えない! 師匠の動きとほぼ同時に鳴らす、鳴り物さんの本釣り(ゴーンという鐘の音)を目安にすることになりましたが、降らせはじめてからお客様に見えるまでの時間差を計算せねばならず、なかなかの難作業となりそうです。

私自身のお役では、肝心かなめの申し次ぎ役で、あれほど稽古をいたしましたのに、緊張のせいでしょうか、一瞬台詞につまりかけまして、冷や汗をかきました。いつのまにか無意識で喋るようになっていたのかもしれません。「焦っている感じが出ていてよかった」なんて冷やかしまじりにおっしゃる先輩もいらっしゃいましたが、こんなことはもう二度と無いよう気をつけます!
その他のふた役は、大過なく勤められましたが、段取りなどはまだこなれきれないところもあり、明日もう一度の舞台稽古で、しっかりかためたいと思います。今回の演出でいらっしゃる織田紘二氏が、細かく指示を下さるので、それに従えばよいと思っておりますが、場面によっては、自分自身で<役を作る>ということも要求されておりますので、今日判った舞台面、役々の動きをもとに、明日の演技を工夫いたしたいと存じます。

今回の公演には、現在研修中の第十八期生が実習として出演していることは以前ご紹介したと思いますが、今日一日の舞台稽古で思いましたことは、彼らを含めた、私どもから見れば<後輩>といえる立場の役者たちが、惜しいかな<役にふさわしい化粧>をしきれていないということです。今月は演目が演目だけに<大名>や<武士>などの役ばかりなのですが、そうした役柄を勤める上での眉のひき方、目張りの入れ方に、一先輩として、(?)と思う場面が多々ございました。新人ゆえにまだ知らないことばかりというのもよくわかりますし、もちろん私とてまだまだ弱輩の身。偉そうなことを言えた義理ではないのですが、過去に先輩方から口を酸っぱくして言われた「役によって眉を書き分けられなければ半人前」、「化粧の仕方はまわり(先輩)に合わせること」という言葉を身にしみて覚えている我々から見ますれば、もっとこうすればよいのに、と思うことしきり。かつてさんざん怒られて来た立場として、私も言えることは言い、教えられることは教えましたが、こういうものは、各人が自分の顔の作りを見極めながらつかんでゆくものですので、これからもみんなには気をつけていってもらいたいと思います。もちろん私も、人に言うだけのことは実践してゆく決意です。
…居所合わせ、照明チェック、大道具の修正などをしながらの稽古でしたので、全ての幕場が終了いたしましたのは午後八時過ぎ。いやはや、長い稽古でした。六時間以上化粧しっぱなしなんて人もおりましたよ。

夕食は国立劇場そばの「さわらび」というお蕎麦屋さん。なかなか素敵なお店です。お酒のラインナップもこだわりがあるようですし、一品ものも丁寧な仕事、蕎麦はみずみずしく旨味たっぷり。店員さんの対応も親切で、足繁く通いたくなりました。