瀬崎祐の本棚

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詩集「さんざめく種」  佐川亜紀  (2017/08)  土曜美術社出版販売

2017-09-14 17:58:15 | 詩集
第5詩集。110頁に29編を収める。
 社会への洞察を抜きにしては佐川の作品を読むことはできないだろう。それほどにどの作品にも堅い意志があり、堅い言葉がそれを支えている。常に内在している問題意識が言葉の源泉となっている。
 
 そんな社会をみつめる視線には強いものがある。本詩集中でもっとも長い「聖なる泥/聖なる火」は170行近い作品。人類が掲げた火と、それを汚した泥をモチーフとして、釜が崎などの労働問題、世界中で侵略と祈りが入り乱れている宗教問題、原発事故・原爆投下の原子力問題、人間性を凌駕しそうな科学の発展問題、など、それらを朝鮮語に絡めながら視野はさまざまな社会問題を俯瞰していく。

   聖と卑は逆転し 混ざり 転がる
   異形のエネルギーとして
   転がる地球の笑いとして
   生命の怒りの熱として
   聖と卑は弾け 壊れ 潰され
   新たな泥は創られるのか

どこにも甘えも妥協も許そうとしていない。

 「魚をみごもった日」は、億年の生命の歴史を我が身に感じている作品。それを引きうけなければ自分の存在理由が薄れてしまうといっているようだ。このままでは何かが決定的に破滅してしまいそうな焦燥も感じている。

   妙に重い弾のようなものが胎のなかに生じる
   ずっしりと尖り輝くものにうっとりする
   日に日にリトルボーイに似て成長する
   昂ぶる気持ちでいっぱいになる
   もう少しで腹を突き破る秒針の響きがする

 「後書」で作者は「時代の闇と危機をみつめ、わずかなりとも光と平和を求め、言葉の多様なさんざめく種を大切にしたい」と言っている。この詩集が編まれた意図もそこにある。
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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ご書評ありがとうございました。 (佐川亜紀)
2017-09-22 19:41:23
過分のご書評を掲載していただき、ありがとうございました。堅すぎるのは自分でもどうかと思いますが。
「何かが決定的に破滅してしまいそうな焦燥」はまさに
この詩集を出した時の気持ちです。丁寧にお読みくださり感謝いたします。
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