瀬崎祐の本棚

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詩集「日の変幻」 本多寿 (2020/12) 本多企画

2020-12-18 18:33:27 | 詩集
 矩形の判型で、109頁に33編を収める。その中の28編は「日の変幻」と題した連作となっている。
 詩集に挟み込まれていた紙片で作者は「メメント・モリ」について触れ、コロナ禍のなかで「きょう、いま、このとき、死をなだめながら生きる。死を忘れずに生きる。」としている。 

 「日の変幻3」。照ったり曇ったりする日に、揚羽蝶は羽ばたき、小綬鶏は鳴きつづけている。どんな日にも生があり、死があることを作者はあらためて感じたのだろう。

   おびただしい死者たちは
   決して来ない未来を回想しながら
   ゆらぐ日の波間に
   海月となって生きつづける

   そこが 日の果て
   日の極み
   時間も方位もない無辺の空

 そして「いま ここ が/ただ/ゆらいでいる」ことを再確認している。
 このように、どの作品も日常の事物に感応して作者のうちに生じたものを端的に捉えている。それは日が変幻していくというよりも、作者自身が変幻していく様を捉えたものともいえる。そして自分が変幻するということは、それだけ自分が終焉の日に近づくことでもあるということをひしひしと感じているのだろう。

 「日の変幻22」。果樹園に残っている貯水槽があり、そこに溜めた水には空が映っている。雨で水位が上がれば「空がこぼれる」し、日照りで干上がれば「空が消える」のだ。そして話者の中にも土の器があり、母の胎に宿った日に生と死が注がれたのだ。

   以来、生と死の水位も、上がったり下がったり
   で、いのちがこぼれてしまうこともなく干上が
   ることもなく、きょうを生きている。生きて、
   きょうも、雀のように貯水槽を覗いている。

 庭の隅に見た貯水槽からこれだけの作品を創り上げる創作力に感嘆する。それだけ真剣に自分と、そして世界と向きあって「きょうを生きている」のだな。
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