瀬崎祐の本棚

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エッセイ集「空を流れる川」  野木京子  (2010/10)  ふらんす堂

2010-11-19 20:59:57 | 詩集
 「ヒロシマ幻視行」と副題の付いたエッセイ集で、副題と同じタイトルで「中国新聞」に連載されたものが中心となっている。
 野木の詩集「ヒルム、われた野原」の作品の根底にはヒロシマがあるのだということを、私(瀬崎)は彼女からの手紙で知った(当初はそこまで読み込めていなかった)。このエッセイ集では、原民喜の詩碑を訪ね、今でも当時の人骨が埋もれて残っているという平和公園を歩く。そしてアラン・レネの「二十四時間の情事」を観る。より直接的にヒロシマへの思いを語っている。
 
    戦争のために苦しみ、亡くなった人たちのことを忘れないというこ
   と。私もいつか生をまっとうして、痕跡を残さずに消えてしまうだろ
   うということ。私の詩は、そういう想いから出発しているようだ。
                         (「伸びやかな草地」より)

 第1章、第3章は、詩誌「スーハ!」や「something」、「現代詩手帳」などに発表されたもの。その大部分を掲載当時にも面白く読んだが、こうしてまとめて読むと作者のどこかへ沈んでいくような感覚に浸りきることができる。どれも錯覚、あるいは記憶の問題が根底にあって、生きていることの感覚で確かなものを求め続けているようである。どの文章も詩作品の世界と溶けあいはじめる。
 幼い頃に探検した廃屋の記憶を語った「どこにあるの」では、

   二度と行けない場所というのは実際のところ、今はどこにあるのだろ
   う。もう一度行きたいと願ったときには、はるかな闇の、白昼の影の
   ような気配と声をたよりに(そしておそらくは誰かと一緒に)記憶の
   曲がり道に沿って行くしかないというのに。私は誰と一緒に歩いてい
   のだろうか。
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