瀬崎祐の本棚

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詩集「カルシノーマ」  伊藤公成  (2013/11)  澪標

2013-12-23 00:19:05 | 詩集
 第3詩集。100頁に24編を収める。
 詩集タイトルからは、”病としての癌”を取り上げているのかと思ったが、違っていた。癌は作者の研究対象として存在しており、取り上げられているのはその研究過程で向き合った実験動物たちの命であった。
 臨床ではなく、基礎。それゆえに生命そのものが剥き出しになって眼前にあらわれている。そこに在る生命は、生活も感情も剥ぎ取られた純粋な組織の、細胞の生命だ。
 人間の生命のために、実験動物の生命を利用する。ときには薬剤を与え癌を人工的に誘発する、あるいは癌細胞の増殖抑制効果を検討している。「年の瀬」では、妻とふたりでだれもいない実験室で、

   季節のない熱帯の国の 年のかわり目
   ふたりは没頭する
   強力な発がん剤の計量に

 そして「どうぞ 毒が動物に効きますように/来年は立派なガンを/たくさんあたえてくださいますように」と今年最後の空を仰ぐのだ。
 個々の生命体にとって癌は否定したいものであることは言うまでもないだろう。しかし作者には、もっと大きな視点の宇宙規模で生命をみたとき、癌にもそれが存在する合目性があるのかも知れないと考えているようだ。そのように使われる生命を見詰めている。そのように生命を扱う痛みを感じている。

   どこをどうすれば
   「死体」になるのか
   Sampleになってくれるのか
   内臓がかわきはじめている
   はさみによって切りこわされた渡し橋
   道を失ったいのちが
   そこで立ち往生している
   血のりが紙いっぱいにひろがる
                     (「赤い地図」より)
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