瀬崎祐の本棚

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ガーネット  62号  (2010/11)  兵庫

2010-11-24 20:16:58 | 「か行」で始まる詩誌
 「背中」池田順子。
 具体的な人間関係も、いきさつも、なにも説明されないままに、ただ二人の人物のその場での関わり合い方が展開される。相手はわたしに背中を向けていて、無言が二人の間の空間をうろついている。背中は居丈高の拒否の姿勢ではなくて、「穴だらけで」、雨が「今にもふり出しそうな」「雲」も漂っているのだが、

   背中だけが
   ひとりすわっている
   よこには
   もう いい
   のことばが
   わたしの方をむいて
   おおきく立ちはだかって
   しまった
   背中の穴に
   もどれなくなっている

 ああ、気まずいなあ、どうやって取り繕うかなあ。傍目にはいささか滑稽にも見える光景だが、そんな人間関係が視覚化されている。そして「こころ」も「次のことば」も、うずくまっているだけで動こうとはしない。「もう いい がうなだれて/しぼんでいく」と、この作品は終わる。後悔、無力感、諦観、そんなものが一緒くたになって、やり直すこともできないままに時間だけが過ぎていく。
 つい言葉にしたくなるような思想や理屈ではなく、一切の説明を省いた感覚だけがこの作品を支配している。その感覚が巧みな擬人法の駆使ともあいまって、人の有り様を深くとらえている。やはり詩には説明は不要なのだな、ということをあらためて感じさせてくれる作品。
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