瀬崎祐の本棚

http://blog.goo.ne.jp/tak4088

詩集「猫町diary」 中尾一郎 土曜美術社出版販売

2022-09-05 20:03:17 | 詩集
第2詩集。109頁に27編を収める。
タイトルそのままにこの詩集のいたるところに猫がいる、話者は猫と酒を飲み交わし(「土曜日の猫と僕」)、ついには猫に変身したりする(「春泥の底の猫町」)。猫の目から見た人間社会は新鮮でもあるのだろう。

「猫町のコドク或いはそれに等しいもの」では、人間だった頃の「精神の背骨が/歪んでいくことに気付かな」かった日々を思ったりもする。そして、

   猫町での猫としての暮らしは
   風呂に入って肩まで冬を沈めることはできないが
   猫背だけれど
   自分を曲げずに真っ直ぐに生きていくことはできる

猫としての生き方は「孤高の自由を楽しむことができる」のだ。群れなければ他者との軋轢からは解放されて自身を見失うこともないだろう。しかし、その代償としてのコドクはあるわけだ。解決策などない悩ましい問題である。

「秋が速度を上げる」では、猫たちが屋根裏に潜んで季節が移ろっていくのだが、それと共にタマシイが溶け出していく。鎮魂の雰囲気が漂う作品で、

   夜は泣きながら濡れた靴を履いて
   時間の流れている川を渡ろうとしているが
   その傍を
   意味のないものまでが歩いている

そしてノアの船は「一人で歩いている見えないものを」乗せていくのだ。はっきりとした説明はないままに、ただ哀切の気持ちが強く伝わってくる印象的な作品である。

詩集後半では幼くして亡くなった人への思いが静かに重なってくる。「背中」という作品では、今は見送ることしかできないという、

   七歳の少女の小さな背中が
   向こう岸に
   辿り着くまで

そして「風風吹くな」では、シャボン玉のように飛んでいこうとするいのちに、「もう少し/もう少しだけ/ここにいて欲しい」と祈っている。

こうして疑うこともなく読めて、しかも確かなものを伝えてくる作品は貴重である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする