小至仏山を過ぎると、いよいよ至仏山の山頂が目に入ってくる。あとは山頂まで岩とハイマツの間を縫って歩いていく。
ここで初めて見る高山植物があった。小学生の頃に買ってもらった植物図鑑で、その名前だけ覚えていた、ホソバヒナウスユキソウである。ウスユキソウは日本各所に分布しているが、このホソバヒナウスユキソウは谷川岳とここ至仏山にしかない珍しい花である。しかも、蛇紋岩という特殊な岩で形成されている至仏山は、その土壌の成分のために、その名の通りより小さく繊細な感じであった。
近くにはヨツバシオガマもあったが、礼文島や大雪山で見たものと異なり、草丈は低く、葉や茎の色も全般的に赤っぽい。また、花の色も全般に濃いようだ。これもやはり土壌の成分によるものと思われた。
そして花についてもう一つ気付いたことと言えば、小至仏山下のお花畑ではいろいろな花が咲いていたのに対し、この稜線上では、上述の2種類以外は、ほとんど花を見ることができなかったのである。もちろん時期によって咲く花は異なるのだろうが、小至仏山からわずかしか離れていない場所で、急に植生が変わるのは、やはり土壌の影響なのだろうと思った。
稜線の右手には相変わらず燧ヶ岳が雄大に聳えている。手前には、何度も歩いた尾瀬ヶ原が広がり、川が蛇行し、池塘が点在している様子が見える。左手には上信越の山々。中でも左手奥には、至仏山同様に百名山に数えられている平ヶ岳と、越後駒ヶ岳・中ノ岳の連山が見える。これらの山々は、以前会津駒ヶ岳の山頂からも眺めたことがある。今日こうして、かつて会津駒ヶ岳から眺めた山に登り、その山から見たのと同じ山を、違った方角から眺めているのは、何とも感慨深いことであった。