何回かの短く急な登りを経ながら、気持ちよい尾根歩きを続けた。高度が上がるに連れてシャクナゲが増え、場所によっては辺り一面シャクナゲの群落、というところもあった。6月後半が見頃だというが、満開の時の美しさが思われた。S先生は前回はその時期に登ったということだった。
途中で、白樺の幹から剥がれ落ちた大きな樹皮を見つけた。拾って広げてみると、半紙より一回り大きく、長方形である。表面はアイボリー色で、傷も少ない。私はすぐに書作品に使えると思い、帰りに拾って帰ろうと思い、道ばたの岩の上に置いておいた。
シャクナゲが少なくなってきた辺りで樹林帯を抜け、頭上に大きな青空が広がった。北西の方角の視界が開けた。遠くには北アルプスの峰峰が並んでいる。白馬岳、五龍岳、鹿島槍ヶ岳の姿が、小さいながらもはっきりとわかる。手前には北八ツ連峰が並んでいる。中でもひときわ高く丸い山頂を見せているのが蓼科山であった。いずれも未踏の山で、登山意欲をかき立てられた。(蓼科山は翌年登頂を果たした)
道は平坦となり、樹林帯を出たり入ったりしながら続いていく。目の前には針葉樹に覆われた山塊が見え、どうやらそこが山頂部分らしい。道は一端下り、鞍部にたどり着いた。ここから最後のきつい登りが始まる。山頂は針葉樹に覆われているが、ガイドブックには、木の生えていない岩ばかりの山頂の写真が載っている。山頂がどうなっているのかが大いに期待された。