すずしろ日誌

介護をテーマにした詩集(じいとんばあ)と、天然な母を題材にしたエッセイ(うちのキヨちゃん)です。ひとりごとも・・・。

ちいさなてのひら

2006-11-07 11:02:53 | むかしむかし
 むかしむかし、あるところにさよと言う娘が住んでおった。
 さよは、わずか16歳でにぎりめし3個を持たされて、隣村に歩いて嫁に行かされたのじゃった。道の途中でにぎりめしを食べながら、さよは不安で胸がいっぱいで泣けそうになった。通りかかった村の人が心配して声を掛ける。
 「どしたんじゃ。」
 「うん、うちな、お嫁に行くん。どんな人かも知らんし、もういにたい(帰りたい)」
 「こらええよ。ええ人かもしれんじゃないか。帰りゃ、親が心配する。辛抱したらええこともあるもんじゃ。」
 さよはこの言葉に励まされて、その日に嫁に行ったのじゃ。
 慣れない農家の暮らしは、さよにはそれは苦労の連続じゃった。舅姑に兄弟衆もいて、飯の支度だけでも幼いさよには大変じゃった。
 ほどなく、さよには娘が産まれた。名を艶と名付けた。艶はすくすくと育ち、家族にも可愛がられ、さよはひとときの幸せをかみしめておったが、自分に対する家族の厳しさ冷たさは相変わらずで、人知れず涙する日が多かったのじゃ。
 ある日、くたくたになって寝床に入ったさよは、艶が小さな手のひらに菓子を握りしめているのに気づいた。すると寝ているとばかり思っていた艶が、ちいさな人差し指を口に当てた。
 「ちゃーちゃん、お菓子食べな。じいちゃんもばあちゃんも艶にはお菓子くれるけど、ちゃーちゃんにはくれんけん。黙って食べな。」
そう言って、さよの手に菓子を押しつける艶を観て、さよは涙があふれ出した。
 しかし、その年の暮れ、さよはとうとう限界を感じてしまったのじゃ。逃げるでも、別れるでもない。もう頭には死ぬしか浮かばなかった。真夜中に艶の寝顔に別れを告げ、こっそりと裏口から出ようとしたさよの手を、思いがけず小さな手が引き留めた。艶じゃった。
 「ちゃーちゃん、艶は死ぬのは嫌じゃ。」
はっとなりながら、さよは笑顔を作ってみせた。
 「バカじゃなあ。死なんよ、お前はここで、父ちゃんやばあちゃんに可愛がってもろうて大きいおなり。」
 「艶なあ、ちゃーちゃんと大きいなりたい。ちゃーちゃん死んだら艶は大きいなれん。」
そういうなり、艶は大声で泣き出した。さよも泣いておった。この子のためにがんばろう。何があってもがんばろう。さよは強く心に決めたのじゃった。
 それから80年。さよは今、やしゃご(曾孫の子)が焼いた菓子を食べている。さよの口癖はこうじゃ。
 「どんなに辛い事があっても、死んだらいかん。うちは今日本一の幸せ者じゃ。」


 これは実話2つを混ぜて書きました。私たちには想像もできない苦労があったのだと思います。大きな戦争もありましたしね。今、命を粗末にするすべての人に贈ります。どうか、死なないで。幸せは掴む物だから。2006/11/7の記事
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4 コメント

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Unknown (PN まいど)
2006-11-07 14:08:36
初めて投稿します(^○^)
自分の手で、命を絶つのはいけませんね
生きたくても、病気なので出来ない人もいます

人は一人では生きていけません
さよちゃんには艶がいます
バンバ♪ガンバ♪ですね

又寄らせてもらいます ☆いいですか☆



いらっしゃいませ (すずしろ)
2006-11-08 00:17:30
PNまいど様

いらっしゃいませ。コメントありがとございます。
ぜひぜひ、またお越しください。
Unknown (こじか)
2006-11-08 17:21:10
 どんなに辛いことがあっても、「生きててよかった!」って思う瞬間ありますよね!



 やっぱり、生きててほしいなぁ…。
 逃げてもいいし、かっこわるくてもいいから、生きててほしいです><

 


 昔に比べると、すごく恵まれてると思う、現代。
 なにもかも揃っていると、人は生きる力をなくしてしまうのかも…。

 絶望するような情報も多く入ってきますし…。



 それでも、人生なんて、誰にも分からないものですから、生きてるだけでお得だと思います


 そう思えないときもありますがw
いまるちゃん?? (すずしろ)
2006-11-08 22:09:52
こじかさま

そう言えば、明石家さんまさんのむすめさんのいまるちゃん「生きてるだけで、まるもうけや!」と彼が言ってましたっけ・・・。名前の由来・・・。

本当に生きてなくちゃ!そして、生きてて良かったと思える世界を、作らなきゃ・・・ですよね。

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