すずしろ日誌

介護をテーマにした詩集(じいとんばあ)と、天然な母を題材にしたエッセイ(うちのキヨちゃん)です。ひとりごとも・・・。

バックナンバー紹介~むかしむかし~

2011-08-21 20:56:31 | むかしむかし
 我が家にはしだれ梅がある。梅干に漬けたら固すぎて食べられなかったので、今年は梅酒にしてみた。これが結構いける。

 そして、あと少しかな・・・と思われるブルーベリー酢。


 さて、今夜はバックナンバー紹介の第2弾。むかしむかしである。これは、ネタ元がほとんどあちら側に逝ってしまったので、最近は書いていない。これはお年寄りから聞いた昔話である。
 
ねえやんの干し芋

七匹の子犬

ふたりのばあやん

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スーパーおけいさん(バックナンバー)

2008-05-22 22:04:31 | むかしむかし
 むかしむかしあるところに、おけいさんと言う有名な働き手がおった。その名は村中に知れるほどじゃったから、滋も噂くらいは聞いておった。 ある日滋はおじさんに連れられて、おけいさんの畑を手伝うことになった。
 畑に着くと、おけいさんはまだ畑に来てはおらなんだ。朝飯の片づけや、掃除をしておったからじゃ。
 「ばあやん、まだ来とらんで。」
滋がそういうと、おじさんとおじさんの兄は
 「さあ、今の内じゃ。三人並んで下まで溝掘るぞ。」
といって、鍬を渡した。今日は種まきの日じゃったのじゃ。
 滋が言われるまま、並んで溝を掘っていると、
 「早うせんか、おけいばあさん来るぞ。」
おじさんたちはそう言って、滋をせかした。なぜ、そんなに急ぐのか滋にはさっぱり分からなんだ。男三人がどんどん掘っているのに・・・。
 するとそこへ、種を持ったおけいさんがやってきた。おけいさんは豪華な笑い声をあげると、種をまき始めた。
 「お~りゃおりゃ!。早うせんと追いつくぞ!」
驚いたことに、おけいさんが投げる種は、見事に三等分され、各々の溝に蒔かれておった。駈けるように種を三カ所同時に蒔くものじゃから、滋たちがどんなに掘っても掘っても、追いつきそうな勢いじゃった。
 「ほりゃほりゃ、早うせんか。」
 ここに来て、ようやく滋はおじさんたちがせかすわけが分かった。夢中で掘っている内、ふと滋はおけいさんの姿が見えないことに気づいた。不思議に思っておると、家の方からおけいさんの声がした。
 「ほ~りゃ、みんな昼飯にするぞ!」
 おじさんに促されて、手を休めて家に向かった滋は目を疑った。食卓にはバラ寿司が並んでおったのじゃ。一体いつこれを作ったのじゃろう。寿司は確かに作りたてじゃし、汁からは湯気があがっておった。
 「なあ、言うたろう。おけいさんはやり手じゃと。」
おじさんの言葉に、ただただ頷く滋じゃった。


 以上、スーパー主婦のおけいばあさんの話です。ここで鍛えられたら、どこでも勤まると言われたそうです。

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おしろいの香り(バックナンバー)

2008-01-07 00:53:02 | むかしむかし
 むかしむかし、ある田舎に一人の青年がおった。青年は大変な働き者で、朝早くから仕事に出て、帰り道はとっぷりと暮れていることが多かったそうじゃ。
 田舎の山道を日暮れに帰るのは、女子供でなくとも心寂しいもので、青年もいつも周りを気にしながら帰っておった。
 ある秋の終わり頃、青年はいつものように山道を登っておった。するとどこからか、かすかに線香の臭いと、遠い読経が漂ってきた。
 「はて、この辺りに、家があったか?」
薄気味悪くなった青年は、ますます足取りを早めた。しばらく道を行くうちに、はたと線香は匂わなくなった。気づけば読経も聞こえない。
「そうか、風に乗って、遠くの法事の線香が匂ってきたのだろう。」
青年はそう安堵して、また道を急いだ。
 しばらくすると、どうじゃろう、今度は何とも甘美な香りが漂ってきたのじゃ。はじめ青年はそれが何か分からなんだ。よくよく考えてみると、それはおしろいの香りじゃった。こんな山の中に、若い女がいるとは不思議な事じゃ。いるとすれば、あの丘の下あたりか・・・。あれこれ想像しながら、青年は落ち葉をかき分けながら、道を匍匐(ほふく)前進 で進んだのじゃった。
 どのくらい進んだじゃろう。青年はふと我に返った。辺りには夕闇があるだけで、女の姿はおろか、あのおしろいの香りすらなかった。全身泥と枯れ葉にまみれた自分自身を見て、初めてだまされたと気づいたのじゃ。
 「やられた!タヌキめ!」
 毒づいてみても、後の祭りじゃったとさ。


以上、またまたタヌキ話です。色や形だけでなく、嗅覚にも訴えるタヌキの技には感服しましたが、私はタヌキの話より何より、なんでじいやん(当時青年)がおしろいの香りがしたからと、匍匐前進せにゃならなんだのか、そっちの方が疑問で疑問で・・・?男ってそんなものなんでしょうか??

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祭りの夜

2007-07-27 00:04:25 | むかしむかし
 むかしむかし、あるところに15の娘がおった。名を「きぬ」という。きぬは器量よしの働き者じゃったが、家は貧乏じゃった。
 ある日、きぬは朝からうきうきしておった。その日は田舎のお祭りで、きぬは出掛けるのをとても楽しみにしておったのじゃ。
 ところが、いざ出掛けようとした時、きぬは思いがけず父親に呼び止められた。
 「母ちゃん、子供が産まれそうなんじゃ。今日は家におれ。」
きぬの母はちょうどこの月お産を控えており、この日産気づいたのじゃった。
 きぬは悔しゅうて悔しゅうてならなんだ。何で長女なんかに生まれたんじゃ。年に一度の夏祭りを、こんなに楽しみにしておったのに、何でうちだけ家におらないかんのじゃ。
 程なく、母親は元気な男の子を産んだ。あんなに生まれてくる兄弟に悪態をついたきぬじゃったが、その元気な赤ん坊を見ると、途端に愛しさがこみ上げてきた。それは不思議な感情じゃったそうな。
 きぬは翌年嫁に行き、すぐ子宝に恵まれた。年老いて出産した実家の母は子育てが大変で、きぬは弟を預かっては、自分の娘と一緒に乳を飲ませて育てたのじゃ。それはもう、自分の息子も同然じゃった。そんなきぬに弟は「母ちゃんがええ!姉ちゃんの乳や嫌じゃ。」と言うて困らせたと言う。
 時は流れ、齢90を過ぎたきぬだが、いまだに老いた弟の心配ばかりしており、甘えん坊のままいい爺さんになった弟に
 「姉やんの心配やいらん。」
と悪態をつかれておった。
 祭りの恨み言は、度々話すものじゃから、孫たちもしっておったが、ある日ひとりの孫が聞いてみた。
 「ばあちゃん、そんなに祭りに行きたかったん?そればあ、たのしみなかったん?」
するときぬは少し遠い目をして、ほほを赤らめた。
 「ばあちゃんな、その日初めて好きになった人と、祭りに行く約束しとったんじゃ・・・」
 「あ・・・。」
 それが嫁ぎ先の相手ではないことは明らかじゃった。「家族に恵まれて、うちは本当に幸せ者」が口癖のきぬの、遠い初恋のほろにがい思い出じゃった。

ひさしぶりに「むかしむかし」を書いてみました。勿論実話です。昔は親が決めたところに有無を言わさず嫁にだされたのですね。今のきぬさんは本当に幸せそうですが、いろいろあったのでしょうね・・・。

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2007/7/27の記事
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じいやんとコロ

2007-01-13 21:50:09 | むかしむかし
 むかしむかし、あるところにとても偏屈なじいやんが住んでおった。じんやんは人付き合いがとても下手で、いさかいも度々じゃった。家族にすら素直になれず、じいやんはいつも不機嫌そうにしておった。
 そんなじいやんも、唯一素直になれるものがおった。それはじいやんが拾ってきた犬のコロじゃった。
 もともとじいやんは大変動物好きじゃった。あれほど人間に距離をおいておったじいやんじゃが、鯉ににわとりに犬に・・・と動物には笑顔で語りかけ、それを家族に見られては気まずそうにしておった。
 そんなじいやんも齢90を迎えた頃から、徐々に体調を崩していった。何度も何度も死を覚悟するような事態に陥り、その都度奇跡的に回復しておった。
 不思議なことに、じいやんと共に年老いたコロもじいさんが寝込むと必ず飯を食わなくなった。そしてじいさんが回復すると同時に飯を食うようになったのじゃった。
 じいやんと同調したのは犬ばかりではなかった。
 1度目じいやんが危ないとき、池の鯉が訳もなく血塗れで浮いておったそうじゃ。2度目はにわとりがイタチに食われてしもうた。そして、そんなことがあるたびに、じいやんは奇跡的に生還しておったのじゃ。まるで身代わりになったようじゃっだ。
 コロはその中でも一番じいやんと同調しておった。髭という髭は真っ白になり、歯はほとんど無いに等しく、昼こんこんと眠り、夜狂ったように暴れた。まるでそれはぼけてしまったじいやんそっくりじゃった。
 いよいよ、じいやんがこの世を去ろうという時、じいやんは突然正気を取り戻し、家族に笑顔とも泣き顔ともつかない顔で、感謝の言葉でお別れを言った。
 そして、じいやんがこの世を去って初七日の夜、コロも静かに20年の生涯に幕を下ろしたのじゃった。
 寂しがりの、本当は寂しがり屋のじいやんの、最後のわがままなのかもしれん・・・。



 以上、久しぶり「むかしむかし」の実話です。本当はとても優しい人でした。
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こぶ・・・

2006-11-29 14:08:26 | むかしむかし
むかしむかしある村に、治という若者が住んでおった。治は人の紹介で美しく気だての良い嫁を貰った。名を笛といった。
 笛は大変な働き者で、優しく明るく、治はいい嫁を貰ったといつも自慢じゃった。病気がちで少々気難しい姑ともうまくやり、口答えもせず、毎日笑って暮らしておった。治との夫婦仲も良く、近所でも有名なおしどり夫婦じゃった。
 そんなある日、治は笛の額にちいさなこぶを見つけた。
 「笛?それどしたんぞ?」
ところが笛も治に言われて初めて気づいたようじゃった。
 「まあ、ほんまじゃ。どしたんだろ。いつぶつけたんじゃろ。」
 「案外そそっかしいな。気つけえよ。」
そう言うて治が笑うと、笛も楽しそうに笑った。
 しかし、それから何日かが過ぎても、そのこぶは治るどころか、少しずつ大きくなっていた。治は不思議に思い、笛に聞いたが、やはり覚えがないというのじゃった。
 そんなある日、明け方近くに治は喉が乾いて目が覚めた。となりには笛の姿はなかった。もう朝の支度を始めておったのじゃ。
 治は水を飲もうと台所に向かった。そこでは美味しそうなみそ汁の湯気がたち、笛がぼんやりと立っておった。
 とつとつとつ・・・。
 その時、治はその小さな音を聞いたのじゃ。
とつとつとつ・・・。
 何の音かとこっそり覗いた治は、ぎょっとした。そこには静かにしかし確かに、柱に額を打ち付けている笛の姿があった。小さなこぶは真っ赤になり、やがて薄く皮膚が剥がれて、血がにじみ始めた。
 「笛!何しよる!」
慌てて、声を掛けた治に笛は心底驚いたようじゃった。そうなのじゃ、笛自身自分のしておることに、気づいておらなんだのじゃ。
 優しく真面目な笛は、頑張って頑張って、不満を言わず、小さな小さな澱を心に溜めておったのじゃ。
 「すまんかったな。笛。お前も辛いことがあったんじゃな。これからは我慢せんと言うてくれよ。」
 治の優しい言葉に、笛の心も和んでいった。
 その後、二度とこぶができることはなかったそうじゃ。

以上、ちょっとホラーチックな話です。真面目な人が陥りそうな話です。あまりにリアルだったので、かなり脚色しました。
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ちいさなてのひら

2006-11-07 11:02:53 | むかしむかし
 むかしむかし、あるところにさよと言う娘が住んでおった。
 さよは、わずか16歳でにぎりめし3個を持たされて、隣村に歩いて嫁に行かされたのじゃった。道の途中でにぎりめしを食べながら、さよは不安で胸がいっぱいで泣けそうになった。通りかかった村の人が心配して声を掛ける。
 「どしたんじゃ。」
 「うん、うちな、お嫁に行くん。どんな人かも知らんし、もういにたい(帰りたい)」
 「こらええよ。ええ人かもしれんじゃないか。帰りゃ、親が心配する。辛抱したらええこともあるもんじゃ。」
 さよはこの言葉に励まされて、その日に嫁に行ったのじゃ。
 慣れない農家の暮らしは、さよにはそれは苦労の連続じゃった。舅姑に兄弟衆もいて、飯の支度だけでも幼いさよには大変じゃった。
 ほどなく、さよには娘が産まれた。名を艶と名付けた。艶はすくすくと育ち、家族にも可愛がられ、さよはひとときの幸せをかみしめておったが、自分に対する家族の厳しさ冷たさは相変わらずで、人知れず涙する日が多かったのじゃ。
 ある日、くたくたになって寝床に入ったさよは、艶が小さな手のひらに菓子を握りしめているのに気づいた。すると寝ているとばかり思っていた艶が、ちいさな人差し指を口に当てた。
 「ちゃーちゃん、お菓子食べな。じいちゃんもばあちゃんも艶にはお菓子くれるけど、ちゃーちゃんにはくれんけん。黙って食べな。」
そう言って、さよの手に菓子を押しつける艶を観て、さよは涙があふれ出した。
 しかし、その年の暮れ、さよはとうとう限界を感じてしまったのじゃ。逃げるでも、別れるでもない。もう頭には死ぬしか浮かばなかった。真夜中に艶の寝顔に別れを告げ、こっそりと裏口から出ようとしたさよの手を、思いがけず小さな手が引き留めた。艶じゃった。
 「ちゃーちゃん、艶は死ぬのは嫌じゃ。」
はっとなりながら、さよは笑顔を作ってみせた。
 「バカじゃなあ。死なんよ、お前はここで、父ちゃんやばあちゃんに可愛がってもろうて大きいおなり。」
 「艶なあ、ちゃーちゃんと大きいなりたい。ちゃーちゃん死んだら艶は大きいなれん。」
そういうなり、艶は大声で泣き出した。さよも泣いておった。この子のためにがんばろう。何があってもがんばろう。さよは強く心に決めたのじゃった。
 それから80年。さよは今、やしゃご(曾孫の子)が焼いた菓子を食べている。さよの口癖はこうじゃ。
 「どんなに辛い事があっても、死んだらいかん。うちは今日本一の幸せ者じゃ。」


 これは実話2つを混ぜて書きました。私たちには想像もできない苦労があったのだと思います。大きな戦争もありましたしね。今、命を粗末にするすべての人に贈ります。どうか、死なないで。幸せは掴む物だから。2006/11/7の記事
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茂市と貞夫

2006-10-02 22:14:26 | むかしむかし
 むかしむかし、ある田舎に仲の良い茂市と貞夫という若者が暮らしておった。ふたりは大変な働き者で、朝早くから山に登り、山仕事にいそしんでいた。
 この山は昔から、よくタヌキに化かされる所じゃった。じゃから、土地の者は日暮れを過ぎると、道々十分に気を配って帰るのじゃった。
 ある日、ふたりはいつものように山仕事を終え、急いで山を下っておった。
 「おい、茂市よ。何か嫌な雲行きじゃ、タヌ公に化かされんうちに、いなんか(帰ろう)。」
 「阿呆言え。みんな言うだけじゃ。タヌキがなんの化かしたり出来るもんか。」
 茂市は大きく笑った。貞夫は気の小さい正直者じゃったが、茂市は明るく楽天的な性格だった。
 しばらく山を下っておったら、ふいにぐにゃりと道が揺らいだ。地震か・・・とふたりは立ち止まったが、どうもそうではないらしい。ははん、騙せるもんかと言うたものじゃから、タヌキめ、意地になったか?そう茂市は感じておった。
 「気ぃつけえよ、おい、貞夫、貞夫!」
貞夫に注意を促そうと振り返った茂市は、そこに貞夫がおらんことに気づいて驚いた。しまった!そう思ったがもはや手遅れじゃった。
 いきなり茂市の目の前の道が、跡形もなく消え失せ、足下には崖があるだけじゃった。後戻りしようとしたが、今度は後ろの道も消え失せ、茂市は高い崖のてっぺんにいるようじゃった。
 化かされているのだとは分かっていても、さすがに何があるか分からず、一歩がどうしても踏み出せない。茂市は覚悟を決めて、その場にあぐらをかいた。
 「かんまんぞ、今夜はここでおってやる。」
行くことも戻ることも叶わず、茂市はまんじりともせず、山の中で一晩を過ごした。
 明け方になり、茂市の前にはもとの山道が現れていた。あぐらをかいておったのは、大きな木の切り株の上じゃった。
 さて貞夫はというと、大変親切な人に家に泊めて貰い、風呂まで貰った・・・と思い込まされて、泥沼に腰まで浸かって笑っておった。
 それでもふたりは懲りもせず、あいかわらず山で働き、タヌキと競い合ったとさ。

以上、またまたタヌキのお話です。タヌキの悪さは結構かわいいのもあれば、きついのもあります。のつぼ(肥溜め)にはめられたりは嫌ですね。しっぽがめっちゃ太くて、目が合うとだまされるそうです。
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真夜中のノック

2006-09-23 21:49:01 | むかしむかし
 むかしむかし、ある山の中にダムが出来ることになった。そしてダムを造るためにたくさんの男たちが、プレハブ住宅に住み込み、共同生活を送り始めたのじゃ。
 やがてそこに、一匹の野良犬が居着くようになった。何人かの犬好きが、こっそり餌をやり始める。はじめは遠巻きに、残飯をあさりに来ていたその犬も、餌をやるうちに少しずつ少しずつ男たちに近づいてきた。誰が言い始めるでもなく、いつしか犬は「太郎」と呼ばれるようになっっておった。山の中での生活で、太郎の存在は男たちの心を和ませはじめていた。
ところがそんなある日、男たちは上司から犬を飼うことを禁じられたのじゃ。一番可愛がっていた田中が抗議した。
 「いいじゃないですか。みんなも可愛がってますし、懐いてるし。」
 「ここは現場やぞ。ここの仕事が終わったら、出ていくじゃないか。その後、誰が責任持って飼うんぞ。わしやって、犬は好きやが、情の移らんうちに、遠くに捨ててこい!」
 そう言われると、自分が飼うと言える者もなく、太郎は捨てられることに決まってしもうた。
 車に乗せ何十キロも離れた場所に、置き去る。車を追いかける姿をバックミラーで見ながら、男は振りきるようにスピードをあげた。
 犬がいなくなり一週間あまりが過ぎた。男たちは口には出さないが誰もが寂しい思いをしていた。そんなある夜のことじゃった。
 田中は万年床に転がりながら、ぼんやりとしておった。すると誰かが戸を叩く音がする。
 とんとんとん、とんとんとん。
 男だらけの遠慮のない生活、わざわざノックするような奴はいない。せいぜい「入るぞ」と言うくらいのものだ。田中は怪訝に思いながら声をかけた。
 「だれぞ?開いとるぞ、入れや」
 とんとんとん、とんとんとん。
返事はない。戸を叩く音だけが、続いていた。
 田中が気味悪く思いながら、もう一度声を掛けようとした時じゃった。勢い良く戸が開け放たれ、薄汚れた犬が飛び込んできた。
 「太郎!」
それはまさしく太郎じゃった。太郎は嬉しそうに部屋中を駆け回ると、田中にじゃれつくでもなく、すぐ部屋を出ていった。慌てて田中は後を追う。すると太郎は、違う家の戸を叩き始めたのじゃ。  とんとんとん、とんとんとん。
 そして次の家でも同じように部屋の中を駆け回り、次の家へとむかったのじゃ。そうなのじゃ。太郎は自分を可愛がってくれた男の部屋を、ひとつひとつノックして廻ったのじゃ。
 腹も減っておったろうに、ねだりもせず、ただただ「ただいま」を言うために走り回った太郎。男たちはたまらずに男泣きに泣いた。話を聞いた上司も、二度と捨てろとは言えなくなった。
 その後太郎は、男たちと一緒に暮らした。次の土地でもその次の土地でも。そして天寿を全うするまで、幸せに暮らしたのじゃった。

以上、飯場にいた土佐犬の話です。すごく賢い犬で、飯場暮らしの後、田中さんの親戚筋に引き取られ、6匹の子犬を産み、子犬も5匹里親が決まり、1匹は太郎と一緒に飼われたそうです。ええ、太郎はメスです。雄と思いますよね・・・。子犬の話を聞くまでは私は雄だと思ってました。
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七匹の子犬

2006-09-10 08:43:15 | むかしむかし
 むかしむかし、ある家にとても賢い雌犬がおった。名前はシロ、名前通り真っ白で、雑種じゃったが器量よしじゃった。
 ある時、シロが7匹の子犬を産んだ。それを知った飼い主は、どうしたものかと思案したが、処分するしかなかろうと考えた。
 今の時代はペットの避妊や去勢は常識じゃが、昔は飼い犬を医者にみせるなど贅沢で、飼えない子犬は情の移らん目の開かん内に、捨ててしまう事が多かったのじゃ。
 さすがに賢いシロは不穏な事態を予感してか、子犬に飼い主を寄せ付けようとはせなんだ。そうして何日かやり過ごしたが、ある日とうとうシロを子犬から引き離し、飼い主は7匹の子犬を連れだした。
 まだ目も開かん子犬たちが「きゅんきゅん」母犬を探して鳴く様は、さすがに飼い主の心を揺すぶらせたが、振り切るようにその子犬たちを大きな袋に詰め込んで、激しい川の激流に投げ込んだのじゃ。
 その時じゃ、どこからどうやって来たものか、シロが吠えながら駈けてきて、川に迷いなく飛び込んだ。
 「シロ!」
飼い主は、大声で叫んだ。何故なら川の上流は大変な激流で、達者な者でもよくおぼれ死ぬ場所じゃからだ。
 飼い主の声など耳に入らぬ様子で、シロはどんどん泳いで、ついには袋に追いついた。牙で袋を噛みちぎり、1匹子犬をくわえると岸に泳いで飼い主のそばに下ろした。そして次の1匹、さらに1匹。しかしその間にも袋はどんどん流されていて、子犬を迷子にせんために、同じ場所に届けるものじゃから、シロの泳ぐ距離もどんどん長くなった。
 「がんばれ!がんばれ!」
 いつしか、自分が子犬を捨てたことも忘れて、飼い主は必死で応援しておった。飼い主の励ましの声が届いたのか、シロは次々と子犬を助け出し、とうとう7匹全部を助け上げた。
 「シロ、ようやった!ようやった!すまなんだ、わしが悪かった。」
泣きながら抱きしめる飼い主の腕の中、シロ満足そうに「くう~ん」と鳴くと、そのまま力つきて死んでしもうた。
 飼い主は深く悲しみ、反省し、7匹すべての子犬に、いい里親を見つけたのじゃった。やさしく賢かったシロへのせめてもの罪滅ぼしじゃった。


以上、悲しい実話です。今でも田舎では「避妊、去勢」「里親さがし」
「動物病院」は浸透しきっていません。市内でもマナーは悪く、結果、野良犬や野良猫が多く、殺処分も大変多いです。私も子犬を捨てさせられた経験があります。早くみんながマナーを持って、ペットを飼い、愛し育てる、そうなって欲しいと心から祈ってます。
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