すずしろ日誌

介護をテーマにした詩集(じいとんばあ)と、天然な母を題材にしたエッセイ(うちのキヨちゃん)です。ひとりごとも・・・。

一所懸命(バックナンバー)

2007-03-29 22:29:33 | うちのキヨちゃん
うちのキヨちゃんは、何に対しても一所懸命である。ただそれが裏目に出ることも多々あるのも事実である。そしてその結果、割を食うのはたいてい家族である。
 若い頃、父が深酒をし、そのまま同じく深酒をした友人と肩を組んで友人宅に行ったまま、戻らないことがあった。心配なキヨちゃんはオロオロと泣くばかり。子供だった私は勇気を振り絞って、雨降る夜の山道を歩いて捜索に出た。墓地の近くではほとんど泣きそうだったが、ほどなく親戚の家で寝入っている父を発見し、無事連れ戻した。
 帰宅してみるとキヨちゃんは、何故かロウソクとコップを持って号泣していた。訳を聞くと、彼女はしゃくりあげながらこう言った。
 「お前に行かせたけど、どうしても心配で。(私が母親なのだから)迎えに行かないかんと思って、外に出たけど電灯はあんたと父ちゃんが使って無いし。ロウソク点けたら雨で消える。濡れんようにコップかぶせたら、火ぃ消えたぁぁ!!」
ろくに学校に通えなかった時代なのだから、キヨちゃんに理科の実験の知識はあるまい。
 また最近ではこんな事もあった。近頃食の細くなった父に、何とか食べて貰おうと、私もキヨちゃんも必死である。ある日、父は体調が悪くスープやおもゆを希望していた。野菜を潰してスープを作り、出勤間際に粥をミキサーにかけようと、担当のキヨちゃんの鍋をみるとなんと一合も炊いているのだ。一合の粥のミキサー食を一体誰が食べるというのだ。私は小言を言ってから出勤した。 さて戻ってみると案の定粥はあまり減っていない。反省しきりのキヨちゃんはこう言った。
 「粥はやっぱり多すぎた。スープは飲めたけど、お前の用意したジュース(野菜くだもの)も一口飲んでやめた。」
そうか、ジュースは好物なのに、よほど体調が悪かったのか・・と私はため息を付いた。そんな私にキヨちゃんは
 「今日は少し寒かったし、おなか冷えたらいかんだろ?そう思って、ジュースもレンジでチンってして出したんやけど、やっぱりぬくいジュースはまずかったかなあ?」
と真剣に語るのであった。
 いつでも、本当にいつでもキヨちゃんは一所懸命なのである。


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前を洗ってください・・・

2007-03-26 22:08:27 | ひとりごと
 お年寄りを入浴介助していて、前から不思議に思うことがある。
 介助と言っても、本人の残存機能を生かさなければならないので、出来ることはしてもらう。だから、だいたい背中を流して、洗髪をすると、前身は自分で洗って貰うようにしているのだ。
 その時、
 「はい、じゃあ前の方はご自分で洗ってくださいね。」
と言うと、女の人はだいたい私たちが思い描くとおり、腕や胸や出来る人は足も洗ってくださる。ところが、男の人に同じ事を言うと、ほとんどの方が「陰部」しか洗わない。男の人にとって「前」はそこのことだと思うのだろうか?
 「出来れば、手の届くところはお願いします。」
というと出来るのだから、ますますそうなのかなあと思う。男女の違いって不思議・・・。

 我が家でも父を入浴介助している。もともと40分かけて全身を洗っていたきれい好きの父のことなので、また自分の父に丁寧な説明も必要なく、背中を流してタオルを渡せば、勝手に前身を丁寧に洗ってくれるので、わざわざ「前」を確認したことはないが、同じなのだろうか??
 「前」といえば、先日ショッキングなことがあった。それこそ丁寧に前身を洗っていた父が「前」になるとタオルを置いた。タオルで洗うと「痛い」ので、手で丁寧に洗おうということらしかった。しかし、私がその時目にしたのは「私のはちみつ石鹸」をやおら掴んで、そのまま股間に持っていく情景だった!!!
 今までも・・・そうしてたのかなあ?父にそれを確認することも、指摘することも私は出来ず静観したが、翌日からその石鹸は父専用になったのは言うまでもない。


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すごいぞ!日本フィギュア!!!

2007-03-24 23:45:04 | ひとりごと
 目が離せなかったフィギュアスケート世界選手権。すごいですねえ!男子高橋大輔選手の初の銀メダルに続いて、女子ミキティと真央ちゃんの金銀!!織田くんはSPでつまずいたけど、それでもフリーで7位まで挽回したし、中野選手だって5位入賞。
 結果もそうだけれど、長くフィギュアのファンをしていると、各選手の成長も見守っているわけで、辛い時期を経験したり、プレッシャーにうち勝ったりというドラマがたまらない。あまりに各選手がすごいので忘れがちだが、16歳とか19歳とかなんですよね。その若さで国の代表として背負っている物・・・想像だにできません。
 私はもうお母さんのような心持ちで見守ってしまった。つい一緒に泣いてしまう。よくがんばったね・・・と。
 だからお母さんは、気になることもあるのだよ。
 真央ちゃんに「ノーミスをして・・・」という日本語はおかしいよ・・・と教えてあげる人はいないのかなあ?世界を相手にしているのだし、コメントのお勉強も大切・・・かな?
 でも、それでいいのかもしれない。伊藤みどり選手だって決してコメントも解説も上手じゃなかった。世界を取るってそういうことなのかもしれない。

 しかし、メダリストを量産するモロゾフコーチって一体・・・!もしかしたら、彼が一番すごいのかもしれない。


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桜散る(バックナンバー)

2007-03-23 22:13:36 | じいとんばあ
    桜散る

 ほらね こんなに痩せちゃった
 骨ばかりの手をかざして あなたは笑った
 足なんか 象さんなんだよ
 ほうら ごはん美味しそうでしょ
 浮腫のひどい足をさすりながら
 水のような重湯を見せながら
 やはり あなたは笑ってた
 そんなあなたに応える為に
 一緒に働いてきた私たちも
 笑って話した

 あなたが 親友の前で嗚咽するのを
 カーテン越しに見た時
 私たちは心底ほっとした
 ああ あなたにも泣けるところがあったのだ

 正月を迎えられないと言われたあなた
 桜の花を目標に頑張ったのね
 今は桜が満開で
 春の風に 花びらがさらわれる
 あなたの魂も
 桜と共に 旅立った

 子供みたいに小さくなった

 あなたの肩に触れてみた
 ああ 人間ってこんなにちっちゃくなっちゃうんだ  
 姉は暗いの嫌いだから
 どうぞみなさん泣かないで・・・
 そう言われても
 後から後からあふれ出た

 精一杯頑張って 
 あなたは幸せだったと思うのは
 正しいことですか
 正しいことですか

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頭の黒いねずみ

2007-03-21 19:36:21 | うちのキヨちゃん
 私の家族はお酒が好きである。最近は父はあまり飲まないし、私も勤務の早い日の前日は飲まない。けれど、家族3人それぞれ専用の酒を持っている。好みの問題である。
 ある日、会社の先輩から「泡盛」をいただいた。それは私の好物であるが、いつも飲むものより度数が倍もあったため、なかなか手をつけられずにいた。
 ところが、毎日それは少しずつ確実に減っていくのだ。あまりに不思議なので私はキヨちゃんにこう聞いた。
 「これ、度数が高いけん、蒸発するんかなあ?」
するとキヨちゃんは
 「あほじゃなあ、蒸発するわけないでえ。飲まんものは減らんわ。」
と笑う。
 「けど、私こんなに飲んでないんよ。」
そう反論する私に、キヨちゃんはこう言った。
 「ほりゃあ、母ちゃんが飲みょるもん。」
・・・・・。なぜ私の酒なのだ?いつも自分の酒を飲んでいるではないか。
 どうやら、最近キヨちゃんは夜中におなかがすいて目が覚めると何かしら間食を、眠れなければ寝酒をしているらしい。それで、私の酒がなくなるわけだ。
 しかし、私はこのネズミを甘く見ていたことを思い知らされることになる。
 私の勤務は大変不規則である。一番早いときは4時半起きである。だから、朝からお弁当を作るのが面倒な時が多い。たいがいは前夜の残り物などを詰めるのだが、その日はたまたま夜出掛けていたので、コンビニで明日の昼食を買い込んだ。
 「よし、これで明日は持っていくだけ。」
そう思って安心して眠ったのだ。
 ところが朝目覚めて私は
 「やられた!」
と叫ぶことになる。
 言うまでもなく、うちの頭の黒いねずみが、私のお弁当を食べてしまっていたのである。


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軽度の認知症状

2007-03-19 19:48:01 | ひとりごと
 最近、父もキヨちゃんも何となく「初期の認知症状」を疑わせる事がある。まあ、天然のキヨちゃんの場合、判断は難しいのだが、最近とみに勘違いが多い。
 父に到っては、時々「幻視」「幻聴」があるらしい。まだおかしなことがあるという自覚があるから、完全な「認知症」ではなさそうだ。
 昨日久しぶりに体調が良かった父を、早番で戻った私が入浴させた。お通じもあり、食欲もひさしぶりにあった。
 「この分やと、父ちゃん、また元気になるな」
と本人も機嫌が良かったのだ。
 そして、本日は本人も
 「久しぶりに母屋に行きたい。」
というので、介助して母屋に。犬も猫も久しぶりの父に大甘え。私は安心して「夜勤の前に整体」に行く予定だった。
 ところが、いざ出掛けようとしたら、玄関で大声。行けば父が転倒している。自分一人では歩けないのに、一人で外へ出ようとしたらしい。
 よく聞けば「玄関にたくさんのお客がきた」との幻覚が襲ったらしい。
 そのまま、病院で「CT」とレントゲン。幸いただの打ち身だったが、痛みはひどく、鎮痛剤が必要なほどだ。メンテナンスが必要な腰で介助したため、私の腰も限界で、実のところ今から夜勤に行くのが不安である。でも、いじっちゃうと返って仕事中危ないので、今は治療できない。
 歩こうとしたということは、少しは元気になったということなのかもしれないが、痛み分け・・・である。もしふたりして、本格的な認知になったらどうしようかと考えてしまう。正念場だぞぉ~。


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メール(バックナンバー)

2007-03-17 16:10:12 | うちのキヨちゃん
 アナログ人間のキヨちゃんには、メールというものが何かよく分からないらしい。一応「これで文章を打って送ると、手紙になって相手にとどくのだ」と説明していた。もちろん、メール何て言葉は返ってややこしくなるので話さない。
 そんなキヨちゃんは、私が仕事の日はいつも着信を入れている。それがもうそろそろ上がる時間とかではなく、どう考えても携帯を触りそうもない時間に入っているのだ。
 まあ着信履歴さえ残っていれば、用事があることは分かるわけだし、急用なら会社にかけるだろうから、見た時点で私の方から電話すれば事は足りる。だから特に疑問にも思わなかったのだ。例えキヨちゃんが「分かった?」と聞いても、それは「着信に気づいた?」という意味だと思って話を続けていたのである。
 そんなことが何回かあったある日、ついにキヨちゃんの言いたかった事が明らかになった。いつものように着信に電話すると
 「今日お風呂沸いてるよって、(メール)入れといたけど、分かった?」
と言ったのである。キヨちゃんがメール?いや、そんなことは不可能なのだ。何故なら彼女はパソコンも携帯も持っておらず、例え持っていても、メールを打てるはずもないのだから。そこでそのことを説明した。
 「え、これって電話口で喋った内容が、文字になって届くんと違うん?」
真剣に語るキヨちゃんであった。そうなのだ。キヨちゃんはそう思い込んでいたため、毎回鳴り続ける呼び出し音に、一所懸命語りかけていたのだ。
 常に時代の先を行くキヨちゃんである。近未来、こんなメールが出来る日は来るだろうか。


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老老介護・・・

2007-03-16 12:59:02 | ひとりごと
 田舎の家庭に多いのが、老老介護、つまり介護される側もする側も老人ということ。それは、ともすれば共倒れになるケースが多い。その為に、施設やサービスがあるわけだけれど、それが上手く利用できるとは限らない。 
 いよいよ限界・・・というわけでなく、ほんの少しの手助けが欲しいことがある。それが、「旅行に行くからショートステイに」とか、「お風呂が大変なので訪問介護で」とかなら、話は早いのだ。必要じゃないけど必要・・・程度があると思うのだ。
 うちにしてもそうだ。私という専門職の娘がいても、日中はキヨちゃんが介護してるわけで、その不安たるやいかなるものか。時折残業して戻ると「遅かったね・・・」と涙ぐんでいることがある。そして私の心労と白髪が増えていく・・・。
 父はたくさんの服薬の他に、血糖測定、インスリン注射、血圧測定、腹膜透析、これを自宅でしなければならない。80近い老人二人が、機械相手に奮闘しているのである。私が四六時中いるわけにはいかないので、二人が手分けしてその作業を覚えて、実践しているのだが、父の調子が悪いと上手く頭が働かず、薬を選べない、血糖が測れないという事態になる。キヨちゃんが代わってがんばってみようとするのだが、自信のなさが伝わって父も不安がり、任せない。夕方の血糖測定だけでもヘルパーさん雇えないかな・・・という心境になる。しかし、「調子が悪いとき」だけ・・・とか、毎日「血糖測定だけ」というわけにはいかない。よって、とにかくぼんやりして測れない時は、測らず私の帰りを待って貰うことにした。低血糖症状ならとにかく糖分摂って電話してと。
 服薬に関しては、市販で売っているお薬ケースで対応した。しかし、これも取り間違えれば何の役にもたたない。
 会社には「産休」「育休」のほかに小さい子供がいて大変な場合の勤務とか、家に介護老人がいる場合の勤務とかの制度がある。それを利用すれば話は早いのだが、田舎の家庭など「老人介護」はつきもので、今いろいろな事情で日勤だけの職員が何人かいるわけで、それに「産休」「育休」がいるわけで、これ以上、夜勤の出来ない人材を増やすわけにはいかない。現に二親とも介護している一人息子が、しばらく宿直も断れなかったわけで・・・。
 心配がいっぱいで、疲れもいっぱいで、痛みもいっぱいで、私はいっぱいいっぱいだ。それでも、私が頑張らなきゃ仕方ないのだから。頑張らない介護・・・を目指しているけど、実現は難しい。


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同志Ⅱ(バックナンバー)

2007-03-13 00:04:43 | じいとんばあ
    同志Ⅱ

 母親が倒れたとき
 彼女は 夜勤をしながら
 ICUへ通い詰めた
 親の死に目に会えないかも
 そんな想いに 涙がにじんだ

 買い物途中で 脳梗塞に倒れた彼女は
 病院から自分で 入院しますと
 電話を入れた
 彼女の上司は 一言
 「困るな・・・」と答えた

 ねぎらいの言葉が欲しい訳じゃない
 誰かが倒れれば 確かに現場は困るのだ
 だけど
 その一言は 飲み込んで欲しい

 痛み止めの注射を打ち続けながら
 家と職場 同時介護
 弱音を吐かない彼女は
 限界まで働いて 現場を去った

 夜中と言わず 早朝と言わず
 呼び出されるナースは

 「どうしてお母さんだけ忙しいの」と
 幼い子供に 言われた

 この仕事が好きだからこそ
 この仕事を続けたいからこそ
 どうか 分かってください
 ほんの少しでいい
 同じ目線で見て欲しい


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サバ(バックナンバー)

2007-03-10 12:07:33 | うちのキヨちゃん
 父とうちのキヨちゃんは三歳違いで、父が上である。彼女はこの年の差がベストであると、いつも自慢気に私に話していた。
 ところが、そう言っておきながら、しばしばキヨちゃんは年をサバ読むのである。しかもそれはごく自然に、悪気もなく「ついうっかり」サバ読んでしまうのである。
 もう二十年以上も前「フルムーン」の名で夫婦の割引切符が売り出されたことがある。それは夫婦の年齢を足して八十歳以上の人を対象としていた。そのCMを見ながらキヨちゃんはこう言った。
 「えーっと、父ちゃんが五十だろ。うちが二十五だから・・・。まあ残念、五年足りん。」
 私は開いた口が塞がらなかった。冗談ではないのだ。本気でそう計算しているのだ。
 また最近ではこんな事があった。前年喜寿を迎えた父を連れて、氏神様にお参りに行った時である。お参りの折は大抵数え年で言うものである。だから父は七十九歳、キヨちゃんは七十六歳ということになる。
 体の弱い父を本殿前で私に預けたキヨちゃんは、家族の分もお参りするからと、元気良く石段を登った。大きな声で祝詞をあげ
 「(父の名)七十九歳、キヨ子四十六歳、(私の名)・・・。」
と言っているのである。サバを読むにもほどがある。神様も三十歳もサバ読まれたのでは、苦笑するしかあるまい。
 そのことを指摘すると、カラカラと笑いながら
「まあ、気つかなんだわ。まあ、ええでえ。」
で済まされてしまうのである。
 どうせなら娘の年もサバ読んで欲しいものである。


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