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すずしろ日誌

介護をテーマにした詩集(じいとんばあ)と、天然な母を題材にしたエッセイ(うちのキヨちゃん)です。ひとりごとも・・・。

茂市と貞夫

2006-10-02 22:14:26 | むかしむかし
 むかしむかし、ある田舎に仲の良い茂市と貞夫という若者が暮らしておった。ふたりは大変な働き者で、朝早くから山に登り、山仕事にいそしんでいた。
 この山は昔から、よくタヌキに化かされる所じゃった。じゃから、土地の者は日暮れを過ぎると、道々十分に気を配って帰るのじゃった。
 ある日、ふたりはいつものように山仕事を終え、急いで山を下っておった。
 「おい、茂市よ。何か嫌な雲行きじゃ、タヌ公に化かされんうちに、いなんか(帰ろう)。」
 「阿呆言え。みんな言うだけじゃ。タヌキがなんの化かしたり出来るもんか。」
 茂市は大きく笑った。貞夫は気の小さい正直者じゃったが、茂市は明るく楽天的な性格だった。
 しばらく山を下っておったら、ふいにぐにゃりと道が揺らいだ。地震か・・・とふたりは立ち止まったが、どうもそうではないらしい。ははん、騙せるもんかと言うたものじゃから、タヌキめ、意地になったか?そう茂市は感じておった。
 「気ぃつけえよ、おい、貞夫、貞夫!」
貞夫に注意を促そうと振り返った茂市は、そこに貞夫がおらんことに気づいて驚いた。しまった!そう思ったがもはや手遅れじゃった。
 いきなり茂市の目の前の道が、跡形もなく消え失せ、足下には崖があるだけじゃった。後戻りしようとしたが、今度は後ろの道も消え失せ、茂市は高い崖のてっぺんにいるようじゃった。
 化かされているのだとは分かっていても、さすがに何があるか分からず、一歩がどうしても踏み出せない。茂市は覚悟を決めて、その場にあぐらをかいた。
 「かんまんぞ、今夜はここでおってやる。」
行くことも戻ることも叶わず、茂市はまんじりともせず、山の中で一晩を過ごした。
 明け方になり、茂市の前にはもとの山道が現れていた。あぐらをかいておったのは、大きな木の切り株の上じゃった。
 さて貞夫はというと、大変親切な人に家に泊めて貰い、風呂まで貰った・・・と思い込まされて、泥沼に腰まで浸かって笑っておった。
 それでもふたりは懲りもせず、あいかわらず山で働き、タヌキと競い合ったとさ。

以上、またまたタヌキのお話です。タヌキの悪さは結構かわいいのもあれば、きついのもあります。のつぼ(肥溜め)にはめられたりは嫌ですね。しっぽがめっちゃ太くて、目が合うとだまされるそうです。
コメント (3)
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