みちのくの山野草

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賢治からのメッセージか

2019-07-12 10:00:00 | 濡れ衣を着せられた高瀬露
〈「白花露草」(平成28年8月24日撮影、下根子桜)

賢治からのメッセージか
鈴木 実は最近、地元のある先輩から『地元の人間が賢治の伝記について言及することは歓迎されないことであり、タブーなのだ』と言われた。地元出身でない私もそのことは薄々感じ始めていたものの、やはりそういうことなんだと、ちょっとショックだった。
吉田 確かにその実態は否定しきれないな。でもそれは、逆に言えばそろそろ総体的に宮澤賢治を見直すべき時機がやって来ているということだよ。
荒木 つまり、この状態が今後も続くことは大いに問題だということだべ。とりわけ、この<悪女伝説>がこのまま永遠に語り継がれたり、あげく活字となって再生産が続けられたりするということだけは絶対許されないことだ。百歩譲って、仮に賢治が「聖人君子」にされることはあったとしても、そのあおりを受けて、全くそうとは言えない一人の女性がとんでもない<悪女>にでっち上げられていることは許されることではない。
吉田 ところが現実には、昨今でも相変わらずその伝説の再生産が「賢治研究家」によって為されている。そして、ほとんどの賢治研究家はこの重大な過誤・瑕疵をただただ傍観・座視しているだけだ。
 だから、このような状態を天上の賢治は悲嘆しているはずだ。賢治は露からいろいろと教わったり、世話になったりしていたのだから、少なくともある一時期二人の間にはよい関係が続いていたことは明らか。そのような女性がこのような扱いを受け続けていることに対してさぞかし賢治は忸怩たる想いでいると思う。
鈴木 そりゃあそうだよ。賢治の血縁以外の女性の中で一番賢治が世話になったと言えるのが露だというのに。
荒木 これじゃまるで、恩を仇で返したようなもんだからな。
鈴木 そして、このような状態のままに今まで放置されてきたことこそが、宮澤賢治生誕百年も疾うに過ぎた平成19年そして平成22年になってさえも相変わらず再生産の著作をそれぞれ世に出さしめたとも言える<*1>。
吉田 だからもうそろそろ、著名な賢治研究家の誰かがこの現状を改めてる嚆矢を放ってほしいものだ。人間亡くなって百年経てば評価が定まるということだから、賢治を見直す期間はもはや20年を切ってしまったとも言える。このまま放っておくととんでもないことになってしまう。それは、実は賢治を貶めているのと同じことになるからだ。
荒木 うっ? なぜ貶めることになるんだ。
吉田 そりゃあ、巷間言われてる「賢治像」はあまりにも真実からほど遠いからだよ。そもそも「真実は隠せない」はずで、真実は隠すべきものでもなければ、何時までも隠しおおせるものでもない。
荒木 そうだよな、「創られた賢治」「創られた賢治像」なんて天上の賢治自身が到底喜ぶはずないか。
鈴木 それに関してなんだが、以前に引用した、
 二階には先客がひとりおりました。その先客は、Tさんという婦人の客でした。そこで四人で、レコードを聞きました。リムスキー・コルサコフや、チャイコフスキーの曲をかけますと、ロシア人は、「おお、国の人――」
と、とても感動しました。レコードが終わると、Tさんがオルガンをひいて、ロシア人はハミングで賛美歌を歌いました。メロデーとオルガンがよく合うその不思議な調べを兄と私は、じっと聞いていました。
              <『宮沢賢治の肖像』(森荘已池著、津軽書房)235p~より>
という清六が伝えるエピソードは、実は、一刻も早く露を救い出してほしいという天上の賢治からのメッセージではなかろうかと今頃になってやっと気付いた。
荒木 そっか、
 こんなよい関係が私(賢治)と露さんとの間にあったのだし、それを弟の清六もちゃんと証言しているじゃないか。なのに、なんでそのような露さんのことを皆は一方的に悪し様に言うのだ。
と賢治は俺たちに諭そうとしている、そのためのこれがメッセージというわけか。
吉田 おおいいね。この賢治からのメッセージを正しく受けとめ、謂われ無き中傷を受け続けてきてしかもいまだ受け続けている露のことを一刻も早く救い出すような賢治研究家が、上田哲の遺志を継ぐ賢治伝記研究家が早く出でよ、と賢治は希願しているというわけだ。

<*1:註> 平成19年出版の、『 賢治文学「呪い」の構造』(YK著、三修社)という本の57頁以降には、
 さて、このような賢治に、果敢にも猛烈アプローチをしかけた女性がいた。小学校の教員をしている高瀬露という人物である。「露」という名を持つ彼女ではあるが、その名のイメージ――「露」のようにはかなく、控えめ――とはかけはなれた女性であったようだ。
 当時、賢治は四年間勤めた花巻農学校の教師を辞め、本当の百姓になると意気込んで「羅須地人協会」を設立。農作業を行う一方で、農民を対象に稲作指導の講義をしたり、音楽や童話を聞かせるなどの芸術活動も行っていた。男、三〇歳にして理想の道を邁進する独身の賢治。彼のもとには連日様々な人物たちが訪れたが、その中の一人に高瀬露がいたのである。
 ここから高瀬露の猛烈アプローチが展開される。一人暮らしの賢治のもとに、一日何度も訪れ、早朝、彼がまだ寝ている時間にやって来ることもあった。高瀬は明らかに賢治に恋をしていたようであったし、結婚まで考えるようになっていたという。しかし盛り上がっていたのは女性の方だけで、彼自身は彼女が入れこめば入れこむほど、疎んじていったのである。
 彼女を遠ざけるために賢治は涙ぐましい努力をしている。門の前に「不在」と書いた札を建て、顔に灰を塗って自分を「らい病」であると宣言したりもした。時には押し入れの中に隠れてみたりと、賢治は逃げまわり続けたのである。
 しかし、高瀬露はこれしきのことではへこたれなかった。持ち前の積極性と献身で賢治を追いかけまわしたのである。
 最も決定的なエピソードは「カレーライス事件」として語り伝えられている。あるとき、村の人たち数名が賢治のもとを訪れた。高瀬露は彼らのためにカレーライスをつくり、ふるまった。まるで新妻のような態度に賢治は戸惑い、心底嫌気がさしたのだろうか。彼は出されたカレーライスは一切手をつけず、勧められても断固として拒絶したのである。賢治の態度にショックを受けた高瀬露は、その場を立ち去り、まるで嵐のようにオルガンをかき鳴らし続けたという。
 賢治は不快感をあらわにし、村の人たちもただ沈黙するしかなかったというから、非常に気まずい空気であったのだろう。
 感情をむき出しにし、おせっかいと言えるほど積極的に賢治を求めた高瀬露について、賢治研究者や伝記作者は手きびしい言及を多く残している。失恋後は賢治の悪口を言って回ったひどい女、ひとり相撲の恋愛を認識できなかった……
とある。がしかし、例えば、「高瀬露の猛烈アプローチが展開される」などということを、なぜ断定調で書けるのだろうか。そして、何の躊躇いもなさそうに、露をとんでもない〈悪女〉にしている。
 また、平成22年出版の、『宮澤賢治と幻の恋人』(SS著、河出書房新社)という本の143頁以降には、例えば、
 (露は)勝気が表情にあらわれている。野性的な印象すらある。意志がつよく、思いこんだらストレートに行動するタイプであることが窺える。実際、女の方から「紹介してくれ」と言ってくるのだから、時代と場所を考えるとその積極性は特段のものであろう。
とある。しかし、「女の方から「紹介してくれ」と言ってくる」とあるものの、確かに高橋慶吾はそうは言っているが、SS氏ははたした裏付けをとったのであろうか。
 さらに同書の145頁には、
 本を借りたら、返す用事が出来る。その機会にまた賢治に会いに来る。本を返すのは名目であり、あるいは借りるのも名目であった。賢治に会いたい。すがたを見たい。露の恋ごころは重症化してきた。
とある。が、「露の恋ごころは重症化してきた」ということまで書かれていると、なぜそこまでSS氏には断定できるのか、と私はかえって訝ってしまう。
 おのずから、これらの著作における露に関する記述は、検証されたものでもなければ、裏付けがとられたものでもないと、私は言わざるを得ない。

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 賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』

             〈平成30年6月231日付『岩手日報』一面〉
を先頃出版いたしましたのでご案内申し上げます。
 その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました
 そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
 現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813
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