みちのくの山野草

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東京 名倉淳子

2020-09-28 12:00:00 | 甚次郎と賢治
〈『追悼 義農松田甚次郎先生』(吉田六太郎編)、吉田矩彦氏所蔵〉

 では今回は、次のような「追悼」を転載させてもらう。
   東京 名倉 淳子
昭和十四年八月東京都有樂座で新国劇上演の土に叫ぶを見て私は初めて農村のありさまを知りました 歸途求めました御高著を拝見し私は打たれた様に感じました。こんなにも眞劍に土を愛し求道の心に燃えて生きて行かれる方がある それに比べてと自分の越し方をふり返りました 都會生まれの都會育ちの短所を余り身につけ過ぎた私でした その日からひとりぎめに松田先生を師と仰ぎ朝に夕に師にを想ひ反省につとめました その秋新聞で土に叫ぶ館全焼を知りあの御辛苦の中から生まれた塾舎を失れた師始め塾生方の御心中如何ばかりかと思ひ藝道修行中で力もてお手傳ひの出来ぬ身故せめて一本の釘なりもと思ひました事に思ひもかけぬ御丁寧なお手紙を頂き驚いて居りますとその年の十二月廿四日はからずも御上京の師にお越し頂きました 言葉少なの師のお話が一度お仕事の事に移るや熱をおび力の籠り いかにも眞心から土に打ち込まるゝ御様子に道こそ違へ人は皆かうあり度と深く感じました…投稿者略…晴れて師と仰ぐ事を許された喜びに一杯でした。其の後時にふれ折にふれてお手紙に又御上京の折はわざわざお立寄り下さつて私の藝への力強いお導きを頂きました 翌春温習會二度目の出演の折には五月のお忙しい中を遠い山形からお出で下さりほんの歩み始めたつたない踊を御覧下さいました 私は有難さに涙のあふれる思でした その折の 誠に事の成るは或る日に成るにあらず 日々刻々精勵の重積なるべし のお言葉を今も日々のはげみに致して居ります 幾度もくづれ様とする私をはげまして下さつたのは師でした 師が土に打込まるゝ日々を想ひつゝ藝道に突き進みました やがて流名を師範を許されさゝやか乍ら稽古所を持つ事の出来ましたのも師のおかげによるものでした…投稿者略…

師の君に捧ぐ
悲しみとはいまだ安きよ苦しさに涙さへなき今日の別れ路
果さざりき誓なりけ藝の道捧げん折よ君は奥津城
せめて一夜我いとなみの舞の會に君を迎へんとぞ思ひしに
現身の去りませしともみそなはせ日々に勵まむさゝげし道に
現身の去りませし世を生きて命限りを君に捧げむ
             〈『追悼 義農松田甚次郎先生』(吉田六太郎編)より〉    

 ここまで引いた「追悼」の多くは農村青年の、それも男性のものが多かったのだが、今回は東京の、しかも女性からのものである。
 この「追悼」によれば、名倉 淳子は新国劇で上演された「土に叫ぶ」を観て感動し、次に著書『土に叫ぶ』を読んでいたく心を打たれたということなのであろう。そしてそれは何故かというと、「こんなにも眞劍に土を愛し求道の心に燃えて生きて行かれる」甚次郎の生き方に胸を打たれたからであり、其の後は「ひとりぎめに松田先生を師と仰ぎ朝に夕に師にを想ひ反省につとめました」となる。まるで、賢治から「小作人たれ/農村劇をやれ」と「訓へ」られて、そのとおりに実践した甚次郎と同じ構図だ。
 そして実際に、名倉はその努力の甲斐あって師範となり、しかも稽古所まで持つようになったということをこの追悼は教えてくれる。しかも、そうなれたのも甚次郎のおかげであると、名倉は感謝しているのである。よって、この名倉の追悼は、甚次郎の生き様は多くの農村青年に感銘を与え、その模範となるただけでなく、農村青年以外に対してもそうであったということを示す証左だ。
 言い方を換えれば、
 甚次郎の実践は「農本主義」の色濃いものではなく、もっと普遍性のあるものであった。
ということを、この追悼は示唆しているということになるのではなかろうか。

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の三部作から成る。
            
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