みちのくの山野草

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南城産業組合へのタンカル売り込み

2021-03-27 12:00:00 | 賢治の「稲作と石灰」
【東北砕石工場技師時代の賢治(1930年頃 撮影は稗貫農学校の教え子高橋忠治)】
<『図説宮澤賢治』(天沢退二郎等編、ちくま学芸文庫)190pより>

 『私の賢治散歩 下巻』(菊池忠二著)の中の「肥料展覧会と石灰工場の技師」にはこんなことも述べられていた。
 その頃に花巻町の南城産業組合に勤めていた照井又右衛門氏(後に花巻農協組合長)は、「葵の花」という一文の中で、炭酸石灰の注文取りに歩いていた宮沢賢治の姿を次のように生きいきと回想している。
「梅の花も咲き終わってもうそろそろ桜の花も開き始める頃、組合(今の農業会商城支所)は春肥の入荷で毎日多忙を極めて居た。
 ある日『御免くなんせ』見ると宮沢先生だ。『どうぞ御入りんせ』事務所に入った先生は、『今度私は東磐井郡の松川村の炭酸石灰を造る工場に出ることになりあすた。炭酸石灰を組合の皆さんに使ってもらへながんすか』
 私は農事講習会に於て、先生の御話を御聞きして土壌改良に炭酸石灰の絶対必要なことは知って居ったので、『早速御願いしあす』と云って其の時は一車を注文申しあげた。種々肥料の話、土壌の話を詳しく御話して帰られた。
 田植間近になって岩酸石灰がついて早速組合の人達に配ってやった。秋になって使った人達から実りの具合がよく効果の覿面(てきめん)だった報告を得て先生への感謝の誠を捧げるのだった。」⑦
            〈『私の賢治散歩 下巻』(菊池忠二著)220p~〉
 ところで、この南城(産業)組合については先の投稿〝東蔵への最後の手紙〟においても紹介したように、〈482 昭和8年〔8月〕4日 東蔵宛葉書〉に、
拝復 調整器は一箇八拾銭(賢治の葉書では銭の字の旁が使われている)の趣右に先日の見本も添附して送料矢張八拾銭位かとの事にて候。…(投稿者略)…炭酸石灰は今春頂戴の分の内、南城組合等思はしからず尚残荷有之御諒察仰上候。…(投稿者略)…
            〈『新校本 宮沢賢治全集〈第15巻〉書簡・本文篇』452p〉
と書いているということだから、この時には「炭酸石灰は今春頂戴の分の内、南城組合等思はしからず尚残荷有之」という記述に従えば、タンカルの売り込みは思わしくなかったということになる。

 そこで、再び『私の賢治散歩 下巻』に戻れば、著者は次のようなことも引き続き述べていた。
 花巻近在の地域では、賢治が花農時代に農事講習会や羅須地人協会での集会、肥科相談所などで炭酸石灰の有効性を説いていたから、他の地域にくらべて比較的受け入れやすい、という事情はあったにちがいない。それがまったく未開拓の地域では、販路の拡張というものも容易なことではなかったはずである。
            〈『私の賢治散歩 下巻』(菊池忠二著)221p〉
 そこで考えられることは、先の〝⑦〟の場合には、南城組合の照井謹二郞は一車(三百噸(三十車)」ということだから、一車は10㌧)分のタンカルを注文したわけだが、これは賢治が昭和6年に猛烈に営業していた時の成果であり、この推察どおり、「農事講習会や羅須地人協会での集会、肥科相談所などで炭酸石灰の有効性を説いていたから、他の地域にくらべて比較的受け入れやす」かったのであろう。ところが、昭和8年頃になるとその時と同じような成果は得られなかったということになりそうだ。
 つまり、賢治が最初の営業に来た昭和6年の場合は恩師が直接訪れて「炭酸石灰を組合の皆さんに使ってもらへながんすか」と頼まれたから恩師のために一車分の注文をしたが、それから2年後の昭和8年になるとそうはいかなかった、ということになりそうだ。たしかに菊池の指摘のとおり、「販路の拡張というものも容易なことではなかった」ことであろう。

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