みちのくの山野草

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石灰岩抹の粒子の大小

2021-03-26 12:00:00 | 賢治の「稲作と石灰」
【東北砕石工場技師時代の賢治(1930年頃 撮影は稗貫農学校の教え子高橋忠治)】
<『図説宮澤賢治』(天沢退二郎等編、ちくま学芸文庫)190pより>

 『私の賢治散歩 下巻』(菊池忠二著)の中の「肥料展覧会と石灰工場の技師」には、例の、昭和6年2月25日付け関豊太郎博士宛書簡を引きながら、次のようなことも紹介されている。
 就職の契約が決まった後、実際の仕事につく前に宮沢賢治は、仕事の内容や給料、さらに生産技術の疑問点などについて、関豊太郎博士宛に次のような問い合わせの手紙を出している。
「私に嘱託として製品の改善と調査、広告文の起草照会の回答を仕事とし、場所はどこにいてもいいし、年給六百円を岩抹で払うとのことでございます。それで右に応じてよるしうございませうか。農芸技術監査の立場よりご意見お漏し下さらばなんとも幸甚に存じます。尚石灰岩抹の効果は専ら粒子の大小にあると存じますが、稲作などには幾ミリ或いはセンチぐらいの篩を用ひてよろしうございませうか。いづれにせよ夏までには参上拝眉いたしたく紙面を以て失礼の段は重々お赦しねがひ上げます。」
            〈『私の賢治散歩 下巻』(菊池忠二著)218p~〉
 私はこの中の「石灰岩抹の効果は専ら粒子の大小にあると存じますが、稲作などには幾ミリ或いはセンチぐらいの篩を用ひてよろしうございませうか」という賢治の恩師に対する疑問に「あれっ」、と声を発して読み返した。この書簡については、今まで何度か目にしたいたはずだがそう思ったことはなかったのに、何でだろう?
 そしてそれは、まずは「稲作などには」とあったからに違いない。私はこれまで「東北砕石工場技師時代」の賢治を調べてきたつもりだったが集中力が足りなくてそれを認識できずにいたので、サラリーマン賢治の「稲作」に直結した証言等に出会えずにいたのだが、それが今回たまたま認識できて、これがその実質的な最初の出会いになったからだったのだろう。
 そして次が、「稲作などには幾ミリ或いはセンチぐらいの篩を用ひてよろしうございませうか」と恩師に訊いているわけで、もしかするとこの時点(昭和6年2月25日)では、「稲作などには幾ミリ或いはセンチぐらいの篩を用ひ」の適否を賢治は知らなかったのではなかろうか、と訝ることができるようになったからであろう。
 
 延いては、「東北砕石工場技師時代」以前である「羅須地人協会時代」の賢治は、このことを精確には知らなかったのではなかろうか、とつい疑ってしまった。次に、「羅須地人協会時代」の賢治の稲作指導における石灰岩抹指導の仕方が最適であったのかということに、私は少し不安を抱かざるを得なくなったきた。 
 言い換えれば、賢治自身は稲作において最適な土壌は中性とばかり思っていたのだが、たとえば、羅須地人協会時代に〔教材用絵図 四九〕を作りながら、実はそうとも言い切れないのだということに気付き、その不安が恩師に対して「稲作などには幾ミリ或いはセンチぐらいの篩を用ひてよろしうございませうか」と質問させたのではなかろうか、ということである。そして、そもそも東北砕石工場時代技師時代の賢治は、稲作のために炭カルを推奨することには無理があるということを薄々覚悟していたのだが、それを承知で、お金を儲けるためには嘘も方便だと、生きていくためにはそれも仕方がないのだと葛藤し始めていたのではなかろうか。

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