みちのくの山野草

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昭和4年露宛書簡下書「新発見」?

2019-06-09 10:00:00 | 濡れ衣を着せられた高瀬露
〈「白花露草」(平成28年8月24日撮影、下根子桜)

昭和4年露宛書簡下書「新発見」?
鈴木 うん、残っていないわけではない。そしてその最たるものが、「昭和4年露宛書簡下書」だ。
荒木 なんじゃそれは?
吉田 それは、昭和52年頃になって突如「新発見」であるとして『校本全集第十四巻』において公にされた「昭和4年の露宛と思われる書簡下書」のことだ。
荒木 へえ、そんなことがあったのか。ではまず、その「新発見」の経緯を知りたいな。
鈴木 それが私はとても理解に苦しむのだが、『同第十四巻』の28pに唐突に「新発見の書簡252c(その下書群をも含む)とかなり関連があるとみられるので」と断定的に、しかもさらりと述べているのだが、私が探した限りでは同巻のどこにもその「新発見」の詳しい経緯は書かれていないのだ。そして一方では、「本文としたものは、内容的に高瀬あてであることが判然としているが」と同34pにあるが、その根拠も理由も何ら明示されていないから全く判然としていない。
吉田 しかも、「旧校本年譜」の担当者である堀尾青史は、
 そうなんです。年譜では出しにくい。今回は高瀬露さん宛ての手紙が出ました。ご当人が生きていられた間はご迷惑がかかるかもしれないということもありましたが、もう亡くなられたのでね。
             <『國文學 宮沢賢治2月号』(學燈社、昭和53年)、177pより>
と境忠一との対談で語っている。
荒木 それは大問題だぞ。まさに、「死人に口なし」を利用したとしか言えねえべ。
鈴木 同巻では「新発見の書簡252c」と銘打っているが、そこに所収の「旧校本年譜」の担当者である堀尾は、「手紙が出ました」と言っているのか。となれば、筑摩の「新発見」と堀尾のこの「出ました」とでは意味がかなり違うだろうに。
吉田 まして、ここで「新発見の書簡」とか「手紙が出ました」とあるものは、「書簡」でもないし「手紙」でもない、あくまでも「書簡の下書」にすぎない。それらは実際に露の手元に届いたものではない、単なる手紙の反古だ。
鈴木 それから、堀尾は露に対して配慮をしたように言っているが、どう考えても露宛かどうかがはっきりしていない書簡の下書を、しかもそれまでは公的には明らかにされていなかった女性の名を突如「露」と決めつけ、露が帰天した途端に筑摩が公的に発表してしまったということは果たして如何なものか。
荒木 なになに、ということはこの「露宛書簡下書」は「新発見」と言えないだけでなく、そもそも露宛のものかどうかも実は不確かだというのか。しかも、もしかするとこれらの書簡下書の中には〈仮説:高瀬露は悪女ではなかった〉の反例となりそうなことが書かれているんじゃないのか。
鈴木 その可能性がなきにしもあらずだ。例えばそのうちの書簡下書の一つ〔旧不5、252a〕、これはかなり以前から知られていた「書簡の反古」の一つでもあるのだがその中に、
 法華をご信仰なさうですがいまの時勢ではまことにできがたいことだと存じます。どうかおしまひまで通して進まれるやうに祈りあげます。
             <『宮澤賢治全集 別巻』(十字屋書店、昭和27年第三版)101pより>
というくだりがある。しかし、クリスチャンだった人がそんなに簡単に仏教徒に鞍替えするなどということは私には信じられないが、同巻が実はこれは露宛書簡の下書と推定されると活字にしてしまったものだから、露は賢治に取り入ろうとしてキリスト教を棄てて法華経信者になったと読者から受け止められ、結果蔑まれ、それが<悪女>とされる一つの要因にもなっていることは否めない。
吉田 それまで信じていた宗教を異なった宗教に改宗するということは、個人の信仰上極めて重要な問題であるにもかかわらず、露のそれに関してはどうやら筑摩は裏付けも取らずに公に発表してしまったと言える。そのような「要因」になるおそれがあるといういうことは誰にでも容易に想像が付くものなのに。
荒木 逆に、それが取れなかったのであれば筑摩はこんなこけおどしともとれる「新発見」を持ち出すなと俺は言いたいよ。

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      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813

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