気の向くままに

山、花、人生を讃える

馬の目に涙 ②

2015年07月15日 | 読書

昨日の続きですが、以下の話は「日本教文社」から出版されている『ユーモア先生行状記』(著者 佐野一郎)という本に書かれている話です。

 時は佐野一郎先生が大学生の時、つまり今からおよそ60年ぐらい前、そして場所は先生がその頃住んでいた別府でのこと。先生の義理の父親は獣医をしていた関係で、佐野先生は近所の人から通称「若先生」と呼ばれていました。

或る日、大学の授業が休講になった若先生は自宅でのんびりくつろいでいました。すると、激しく玄関のドア―を叩く音がする。「すわー、何事か!」と出てみると、ねじり鉢巻きをした大男がただならぬ気配で立っていた。「先生はいるか」と問うので、「今往診中で留守だ」と答えれば、さらに「どこへ?」と聞いてくる。事情を聴くと、荷車に鉄材を山と積んでこの先の国道と県道が交差する三叉路まで来たら、何が気に入らないのか馬が突然動かなくなってしまって、困り果てている。ここの獣医先生なら何とかしてくれるというので、頼みに来た」というのだった。しかし、あいにくその獣医先生はいない。その馬子は「あんた獣医先生の息子ならなんとかしてくれ」というが、若先生は医学的知識もなんにもないから「わたしが行ってもどうにもならない」と再三断るのですが、相手の必死の頼みに断り切れず、若先生はのこのこ出かけました。

 現場に到着すると、黒山の人だかり。十重二十重に人垣ができ100人、いや200人もいるかと思われるほど。それを見た若先生、「こりゃだめだ」と引き返そうとしたところ、誰かが、「獣医先生とこの若先生が来た。もう大丈夫だ」と叫んだらしい。その言葉を合図のように、別の誰かが若先生の手を引っ張って人垣を押し分け、現場最前列へと押し出されてしまいました。

 するとそこに見たのは悲惨な光景。馬が動かなくなり、交通の邪魔をしているので、ドライバーたちからさんざんにクラクションを鳴らされ、「何をもたもたしているんだあ!」と怒声を浴びせられ、残っていたもう一人の馬子はなんとか必死で馬を動かそうと、引っ張ったり、鞭で叩いたり、それでも動かない馬に頭にきたのか、白眼をむき、口から泡を出している馬に向かって、大声でわめきながら太い角ばった薪で馬をなぐっていた。辺りには鮮血が飛び散っている。それを見た先生、思わず、「何をする!殴ったって動くか~!」と叫びながら、その馬子からその薪を取り上げた。それを見ていたヤジ馬はやんやの大喝采。そこまでは良かった。が、その後シーンと静まり返りました。「次に若先生はどうするのか?」と群衆の興味はその一点です。若先生も瞬時に自分が今おかれている立場に気づいたとのこと。こんな馬をどうして動かすことが出来るのか、獣医でもないのに分る筈がありません。かといって、この場から逃げたくても逃げるわけにもいきません。若先生はどうしようもない窮地に立たされました。

 その絶対絶命の時、「神さまあ~、吾が為すべきを知らしめ給え!」と、生涯でもこれほど必死な気持ちで神の名を呼んだことがないというほど、呼んだとのこと。するとその時、天来の声というか、言葉ではいいようのない閃きがあり、「『甘露の法雨』を読もう!」という気持ちがむら雲の如く湧いてきたとのこと。そして、その『甘露の法雨』を胸から取り出して、馬に近寄り、その経本で馬の鼻をなでながらこう言ったといいます。

「これアオよ、何が気に入らず立腹しているか知らないけれど、ここは国道、みんなの迷惑、今から生長の家の有難いお経を読んであげるから、心落ち着け、平常心に戻っておくれよ」と。

そうして、『甘露の法雨』の冒頭にある「七つの燈台の点燈者の神示」を読み始めました。それは

○汝ら天地一切のものと和解せよ。天地一切のものとの和解が成立するとき、天地一切のものは汝の味方である。

という書き出しで始まっています。それを三分の一辺りまで読み進むと、あちらの隅、こちらの隅から「ブワッ」とか「クスリ」とかの笑い声が聞こえはじめ、さらに誰かの「アララー、この馬はもうダメばい。先生がお経読み始めたもんね」という素っ頓狂な声をきっかけにして、どっと笑いが起き、群衆が笑い転げ出したとのこと。これには若先生も参ってしまい、もともと信念があって『甘露の法雨』読み始めたわけでもないので、区切りのよいところでやめようと心に決めます。ところが、その区切りのよい所へ来ても自分の「もうやめよう」という意思とは関係なく、声が先行して勝手に先へ先へと読み進んで行ってしまう。何度区切りのよいところへ来ても同じで、「こんなバカな!」と心があせりながら、結局最後まで読んでしまったとのことです。

読み終わって気がつくと、あれほど笑いころげ、騒がしかった群衆がシーンと静まり返り、一点を凝視しているので、若先生もそこへ目を向けました。すると目をむき、口から泡を出し、足を突っ張り反抗していた馬が、まるで別人、いや別馬のように温和になっており、さらには、その両目からナスビぐらいの大きさの大粒の涙を流していたとのことです。

 さすがに動物の心に鈍感な私も(ひとの心にも鈍感ですが)、この時、大粒の涙を流したという馬の気持ちが痛いほど分る気がしました。そして、牛や馬が涙を流すという話は、「間違いない」とすっかり疑いが晴れることになりました。おめでとう!馬のおかけです。いや、若先生のお陰かな。

さて、馬のナスビのような大粒の涙を見てビックリ仰天していると、また、あの天来の声が聞こえ、「今なら動く、早く動かせ」と言った。そこで馬の手綱をしっかり握り、願いを込めて「オーラ」と引っ張ると、馬が動き、さらに「オーラ、オーラ」と声をかけながら引っ張りつづけると、荷車もガラッガラッと音を立てながら動き出したとのことでした。

本ではまだ少し話が続いていますが、ここでは、ここまでにさせてもらいます。合掌

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