邦画ブラボー

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「武蔵野夫人」

2011年02月21日 | ★愛!の映画
戦時中のお話。
武蔵野の大きなお屋敷に住む田中絹代
大学教授で俗物根性丸出しの夫・森雅之を婿にして
家を守っていた。
絹代の父(進藤英太郎)は、「(森は)油断ならない男だから気をつけろ」と
言い残し他界。
 
そこへ従兄弟の片山明彦が復員してくる。
 
再会した時の絹代の喜びようがただならぬので
観客は夫の森雅之より早く
「これは・・・ひょっとして?」と感づくのである。
 
観客のカンは当たり
二人はお互いに密かな想いを抱きはじめるが
絹代の、「武蔵野夫人」としての固い矜持と、
独自の恋愛哲学のため、
一線を越えそうでなかなか越えない。
この哲学は難しいので
何度反芻しても凡庸な筆者には理解不能だった!
 
そうこうしているうち
観客は
二人を嫉妬した森の
隣家の豊満な人妻・轟夕起子を
ちらと見る目が
ねちっこいのに気づく。
森はしつこく
アプローチするが、奔放な轟に翻弄される。
 
森に対してはそっけない態度を取る轟だが、
片山を見つめるまなざしは
露骨に色っぽいので
観客は
「そういうことか」と期待するが
 
さほど凄いことにはならない・・・・・・・
 
・・・・・
 
のような相関関係で物語は進んで行くのです・・
フランス映画を思わせるような
セレブの雰囲気を漂わせた精神的なロマンスと
武蔵野の自然賛歌がうまい具合にからみあっております。
 
見事な旧家の、
大きな古木がどっしりとそびえている庭へと入っていく田中絹代を
上から捕らえ、流れるように追ってくカメラ。
 
武蔵野の自然に絹代が溶け込んだ絵も素晴らしい。
脳裏にやきつく映像は
台詞が無くても成立するほどの説得力である。
撮影は成瀬巳喜男映画でもお馴染みの
玉井正夫。
 
ただ、片山明彦と
田中絹代がどうも「姉」、「弟」みたいで
「カップル」っぽくないと
いいますか、色っぽさに欠けるように思いました。
 
轟夕起子は
崩れる前のフルーツ(?)みたいな豊潤な魅力をかもし出しています。
絹代は地味な和服がほとんどだけど、
轟さんのレースの手袋、帽子、お洒落な有閑マダムファッションはみものです。
 
森雅之は、屈折した嫌味な役も上手いですね・
スクリーンでアップになると端正なお顔立ちの
迫力にため息が出ます。
 
古めかしい道徳観が今かえって新鮮でした。
 
ただ、田中絹代と森雅之というと
どうしても
「雨月物語」を思い出してしまう。
ラストのナレーションで錯覚を起こしてしまいました。
 
 
1951年
 
溝口健二
原作:大岡昇平