思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『雲』エリック・マコーマック

2021-09-21 13:10:17 | 日記
『雲』エリック・マコーマック
柴田元幸:訳

主人公の浮雲のような人生を
本人の一人称(回想)で綴る長編小説。
「幻想小説」と紹介されることが多いみたいだけれど、
そんなにファンタジーは感じないな。
『ストーナー』みたいな、
一人の人間の人生を淡々と描くのに近い感じかな
と思いましたけど。

とはいえ
ファンタジーと言うほどではないけれど
「ちょっと不思議」なエピソードはてんこ盛りで
おもしろかった。

主人公の初恋の人ミリアムが語る
地方独特の「奇怪な噂」は特に「ちょっと不思議」で、良い。
スコットランドの片田舎ダンケアンと、その周辺。
目玉をほじくる鳥や、傷が無いのに血だらけになる男の話。

さらに主人公は放浪を続けて
色んな人に出会い、色んな不思議に出会います
(ここら辺はストーナーと対極だな)。
アフリカ内戦地での凄惨かつ不思議な儀式。
フィジー近くの島でのヘンテコな夜の風習。
どれも理屈とかなくて、でも、
そういうこともあるかもねって感じの「ちょっと不思議」。

これらが、雪が積もるように静かに集積された人生が、
主人公ハリー・スティーンになるのかもしれない。

結構な長編で、淡々と物語が積み重ねられていくので
途中でちょっと集中力が切れたこともあったけど、
のんびりと慌てずに読むのがちょうどいいのかもしれない。

マコーマックは
スコットランド出身でカナダ在住(スタートとゴールはハリーと一緒だ)。
1940年生まれなので、2019年の『雲』刊行時は79歳。
短編が多い作家らしいので、この長編は集大成と言ってもいいのかもしれません。
私は『雲』がはじめましてだから、逆に、若い頃の作品も読んでみたいと思う。
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『medium 霊媒探偵城塚翡翠』おもしろかった!

2021-09-17 15:28:49 | 日記
ミステリはもともと好きだったんですが、
昨今の「いま話題のミステリ」というものには
期待しなくなって久しいこの頃…。

なんとなくオチが見えるとか、
登場人物と会話がラノベっぽいとか、
無駄に美人ばっかり出てくるな、とか。
フツー程度におもしろいけど帯が煽りすぎ
(史上最高とか今世紀最大のとか、ボジョレーヌーヴォーか)とかね。

でも、読んじゃう。
ミステリ好きだから。

で。
『medium 霊媒探偵城塚翡翠』
相沢沙呼(あいざわさこ)

これはおもしろかった!

主人公がさ、すごく不安を煽るんですよ、私の。
お約束っぽい「とりあえず美少女」「しかも金持ち天然系」
「でも寂しさや闇を抱えていて理解者を求めている」
という。
半笑いしつつも、生温い寛容さを総動員して
「こういうキャラじゃないと売れない時代なのだよ」
とか思いながら読みました。

それだけではなかった!
良い意味で裏切った上で、
カウンターパンチまで喰らわせてくださった。
ありがたいね!

この作品、連作短編のように4つの事件が描かれているけれど、
ひとつの長編作品となっている4話構成モノ。
途中でぶん投げずに読み切っていただきたい。

もちろんぶん投げる必要などなく、
それぞれの事件が、ちゃんと読書時間を楽しめる物語だった。
が、
最後がやっぱり良かった。

さらにエピローグの、真ちゃんのセリフが良かった。
「まだおかわり出すの?!」って感じで良い。

現代ミステリ(というか「いま話題のミステリ」)を
舐めてました。

「このミス」や本格ミステリ大賞で1位を
獲っているのも凄いけれど、
第41回吉川英治文学新人賞候補ってのが、良いですね。
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『堆塵館』19世期のヘンテコおもしろファンタジー

2021-09-16 17:14:35 | 日記
『堆塵館』
エドワード・ケアリー
古屋美登里:訳

<アイアマンガー三部作>と呼ばれているシリーズの一作目。
アイアマンガーという変わった名前の一族の物語です。

舞台は19世紀後半のイギリス。
アイアマンガー家は、
ロンドンから出る大量の「ゴミ」を司る一族という設定。
(当時のロンドンの汚さとゴミ問題は凄かったらしい。
 『香水』で描かれる肥溜め臭ただようパリを思い出す)
「堆塵館」はそんなロンドンから出た廃屋やゴミをツギハギした
一族の住む広大なお屋敷。
表紙と裏表紙に堆塵館のイメージイラストが描かれていて
見ているだけでも色んなイワクが有りそうで、楽しい。

さらに一族には「誕生の品」を持ち歩かなければいけない
というヘンテコな掟もある。
バスタブの栓やら片手鍋やら茶こしやら。

一族を支配するおじいさまを乗せた地下列車。
お屋敷に隣接するゴミ山と、そこでの宝(?)探し。
ゴミの津波とゴミの嵐と、さらにはゴミ人間(!?)。
ヘンテコだらけの設定がおもしろい上に、
最後まで読むとただのヘンテコ設定じゃなかった!
という驚きと嬉しさまである。
凄い。

主人公は一族の少年で、モノの「名乗り」が聞こえる
クロッド・アイアマンガーと、
孤児の女の子ルーシー。

自分の変な能力や、一族の変な歴史や罪に悩み向き合う
クロッドは応援したくなる。
一方で、
ルーシーは盗癖があって(超ナチュラルに物を盗む)
我が強くて(盗癖を正当化するな)
あまり好きになれない。
この子、2作目以降で変わっていくのかな。
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『追懐の筆 百鬼園追悼文集』内田百閒

2021-09-15 16:07:40 | 日記
本屋をぶらぶらしていて、何か買おうと思って、
買いました。
『追懐の筆 百鬼園追悼文集』内田百閒

内田百閒の何回忌か何かの作品選集かと思ったら、
内田百閒の筆になる追悼文を集めたものだった。

まあ私としては、百鬼園先生の文章なら
何でも良いんです。

随筆の名手だし、長生きだったし、
ということで長い人生の間に
あちこちから追悼文のお願いがあったんだろうな。

寂しさ悲しさもあっただろうけど、
兎に角、どれもこれも名文です。

夏目漱石のこと、本当に尊敬してたんだな。
芥川も太宰も、百鬼園先生のこと好きだったのね
ってのもよくわかります。

内田百閒、ホント好きだなあ。
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『レパントの海戦』塩野七生

2021-09-13 15:55:23 | 日記
『レパントの海戦』塩野七生
読みました。

これにて塩野先生の<戦記もの三部作>読了〜。
『コンスタンティノープルの陥落』(1453)
『ロードス島攻防記』(1522)
『レパントの海戦』(1571)

今回、オスマン帝国側は、
スルタン自らは出馬しないのね。
せっかくオスマン帝国史を勉強したのに、
スルタンの出番がほぼ無くて残念である。

ちなみに今回のスルタンは、
スレイマンの次代で大酒飲みのセリム2世。
政治に関心が無かったので、大宰相次代の始まりとも言われる。

時代としては、ヴェネツィアもオスマンも共に
国としての隆盛期を過ぎた状態。
落日の始まりというか、
落ち目同士の戦いというか。
読んでいてちょっと寂しい感じもありますね。

なにはともあれ、今回も楽しめた!

『海の都の物語』もそろそろ読もうかな。
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