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北村薫『太宰治の辞書』良い文学探索

2018-10-23 20:06:10 | 日記
北村薫の「円紫さんと私シリーズ」の最新刊(実に16年ぶり!)である
『太宰治の辞書』を読みました。

なんとなく勢いで手に取ったので
シリーズをイチから復習する気力はなかったのですが
とりあえず『夜の蝉』をまず読み返しておきました。

なつかしいな…。

超絶美人の代名詞である姉の描写とか
学生(早稲田の第一文学部だと思われる)から見た都内の描写とか、
意外と時代を感じてしまった。

それはさておき、そんな女学生だった「私」も気づけば母親です。
息子さんは中学生です。でかい!

『夜の蝉』で、まだ見ぬ伴侶のことを「未来の旦那さま」なんて
抵抗なく言っていた彼女ですが、
ま、四十路になった現在では現実的に「連れ合い」と描写しております。
いや、これで恋愛経験ゼロのあの頃からブレずに
「旦那さま」とか言ってたら私は辛くで読めなかったけどね。

それは本題ではなく。

16年のブランクの間に、「私」だけでなく、
作者の心持ちも変化したのでしょう。

今作は、「日常の謎」フォーマットではなく
どちらかと言うと「私」による文学探索です。
すべてが、なんていうのかな、リアルな資料を作家はどう作品にするのか
というテーマになっていると思います。
良きにつけ悪しきにつけ。


『花火』は、ピエール・ロチの『日本印象記』をベースにした
芥川龍之介の短編『舞踏会』のはなし。

『女生徒』は、タイトル通り。
有明淑の日記をベースにした太宰治の『女生徒』のはなし。

『太宰治の辞書』は、
あの有名すぎる一説「生まれてすみません」の元ネタを巡るはなし。
だけではないけど。まあ、軸は、そこ。

そしてシリーズの探偵役である円紫さんは『太宰治の辞書』まで登場しません。
キレのある推理もありません。
この一冊は、とにかく「私」の文学探索に尽きるお話しと言えます。

にしても、作者は本当に本読みですよね。。。
これを読むと、うっかり「趣味は読書です」なんて言えない。

そして余談ですが、私は収録作『白い朝』という短編が
初読ではなかったのです。
どこかで読んだぞ!これ!!
と、いきなり文学探索のお題が!
巻末の初出は『鮎川哲也と十三の謎 '90』ですが
鮎川哲也関連の本は私は読んだことはないはず。
うーむ。
探偵の血が騒ぐ!
と思ったらあとがきに『紙魚家崩壊』に再録されていたって
書いてあったわ。それだわ。読んだわ。

というわけで私の探偵業は一瞬で終了しました。

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