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『ラウィーニア』星5つ!

2021-12-09 16:56:16 | 日記
『ラウィーニア』
アーシュラ・K・ル=グウィン
谷垣暁美:訳

詩人ウェルギリウスの『アエネーイス』を、
登場人物の一人であるラウィーニア視点で紡ぎ直した作品。

『ゲド戦記』でも有名なル=グウィンの最後の長編小説です。
(2008年刊行)



原典でもある『アエネーイス』は、
ラテン語教養の必須科目。
要するに、『アエネーイス』の内容は、
長い歴史に於いて教養人と呼ばれる人たちの
共通認識だったということです。

現代では「必須感」は薄れていますが、
ナントカ神話とかナントカ文庫とかゲームやファンタジー作品なんかで
よく見かける内容が多々。
トロイア戦争とか、カルタゴ女王ディードとか、地獄巡りとか、
人間を振り回す神々ウェヌス(ヴィーナス)やユピテル(ゼウス)やら、
古代ローマの礎になるであろう都市や王の物語とか。

で、この作品の主人公は、古代イタリア・ラティウムの王女ラウィーニア。
『アエネーイス』では、ラティウム王の資格を得るためだけに存在する
「ザ・トロフィーガール」のラウィーニアに
人格と思考を与えた物語でもある。
その視座の変え方だけでも、めちゃおもしろい。

ラウィーニアはこの作中で、『アエネーイス』作者である
ウェルギリウスの霊と時空を超えて会話するんだけど
(って突然言われて着いてこれる人はどれだけいるだろうか笑、
でも文字通りなんだよ)、
「男が勝手に戦争する」という本質的な感想をずばり言う。
誠に現代的な感覚の人間像である。
これはル=グウィン好みの性格だと思うけれど
古代ラテン系(ラウィーニアたちイタリア系の人々)と
ギリシャ系(アエネーアスたちトロイア人も含む、異国人たち)の
文化の違いとも語られている。そうかもしれない。

歴史としての整合性がどの程度かはわからないけれど、
読んでいるこちらとしては共感しやすいし、おもしろい。

ちなみにラウィーニアは紀元前1700年〜1200年のどこか。
『アエネーイス』を書いた悪斬りウスは紀元前1世紀の人。
ル=グウィンの『ラウィーニア』が2008年です。
(作中の小ネタで出てくる『神曲』は13世紀ですね。
 作中の詩人は、時を超えたネタをぶっこみまくる)

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