思惟石

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西川美和『永い言い訳』全ページすごい!

2019-09-02 11:33:25 | 日記
西川美和『永い言い訳』。
全ページ、なんかすごい。

作者は、監督業が本職の方ですね。
『ゆれる』の脚本・監督を手掛けた人。
映画はあまり観ない私ですが、こちらは公開当時に観て、
けっこう衝撃を受けました。すごいなあと。
ノベライズもご自分でされているみたいですね。

で。『永い言い訳』です。
こっちは『ゆれる』とは順番が逆のようで、
小説を書いてから、ご自身で映画化されているとのこと。

映画は観てないのでそちらはわからないんですが
小説は、章ごとに話者が変わります。
色んな人の一人称だったり、三人称だったり。

主人公は社会性がイマイチな小説家のサチオくんで、
彼の妻と、妻の友人ユキちゃんとを巻き込んだ
深夜バスの事故が核にあって。
様々な立場の人が(遺族だったり、小説家の編集だったり)
それぞれの立場と視点で、事故や、世の中や、
主人公でもある小説家の先生の様子を描いています。

どの見方にもうなずけるものがあったり、ハッとさせられたりする。
それぞれの所感の細かさがすごい。
西川美和すごい。

個人的には、小説家のタレント業マネージャーをやってる男性の
育児エピソード(育児で追い詰められた妻が子どもの多動症(?)を疑って
病院に行ったら、お医者さんに「おかしいのは奥さん、あなたですよ」
って言われちゃってなんでやねん!!って思う的な)が生々しくて、
妙に感心してしまった。
すごくわかる。
おかしいのは私かよ!!なんでやねん!って思うよ。
西川美和すごい。こわい。

ストーリーを通じて、小説家の幸夫くんも、寡夫の陽一くんも、
それぞれ妻の不在に向き合って生きるしかないっていう結論は
まあ、わかりきっていたのだけど。
そこに至るまでの人間ドラマや、人間的思考が、なんかすごい。
全ページすごいんですよ。

ただ、やっぱり年齢的にしょうがないのかもしれないけど、
ユキちゃんの遺児である真平と灯は
わかりやすい「生きる意味」への回答を得ることはできなくて
(小説は、事故からたった半年程度までしか描かれてないからね)、
日常への救いも与えられなくて(成長するしかない)、
それはしょうがないのかもしれないけど、すこし悲しい。

わかりやすい救済(鏑木先生と電撃婚とか)なんぞは
小説として陳腐だし求めていないんですが、
真平と灯に何らかの幸せの記号を与えたいと思うのは、
いち読者のワガママでしかないのだけれど。

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