思惟石

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『疫病と世界史』 マクロ寄生とミクロ寄生

2024-04-10 11:09:05 | 日記
『疫病と世界史』
ウィリアム・H・マクニール 訳:佐々木昭夫

マクニールといえば『世界史』ですが、
なぜか有名なそちらではなく
『疫病と世界史』を読んでみた。

中公文庫の上下巻で読みましたが、
執筆は1974年、初版が1975年だそうです。
60年前!

なにしろ1997年に加筆された「序」では
エイズについて補足されているのです。
なんで?と思ったら、
エイズという病気が固定されたのが1981年、
『疫病と世界史』初版の6年後。
歴史を感じる!!

初版からの歴史は感じますが、
世界史全体を概観する分には問題なし。

ところでマクニールの文章、難しいな…。
なかなかに読みにくいんですが、
訳の問題というより、構成の問題だと思う。
頭良すぎて話が前後してます先生!という感じ。
泣きながら頑張るしかない。

この本の主張は(自信ないけど)
人類史はミクロ寄生とマクロ寄生の影響下にある
ということなんじゃないかと。
自信ないけど。

ミクロ寄生は、本のタイトルからも分かるけれど
ウィルスとか感染症とかですね。
対してマクロ寄生は、政治・社会的な収奪や、
国家が個人に依存する(税とか)というもの。
要するに「戦争と略奪」による人的被害だな。

都市の人口減はミクロ寄生(感染症)が多いし、
田舎の人口減(時には無人になる)はマクロ寄生が多い。

ひとつのキーになるのが、
1279年から1356年に栄えたモンゴル帝国。
13世紀、モンゴル軍の西方侵略と共にペストが流行する。
14世紀はアジアからシルクロード経由でクリミア・ヨーロッパに
至ったのでは。とか。
民族や歴史の動き(マクロ)と共に、疫病(ミクロ)も動いている。

感染症の種類や感受性(ウィルスへの耐性の低さ)は
人口密度で異なるという話もおもしろい。
都市部の貧民街などで生まれ育った(生き残った)人間の方が
田舎ですくすく育った人間よりも抗体を多く持っているとも考えられる。

で、どうなるかと言いますと。
19世紀フランス陸軍では
スラム育ちで栄養失調気味な若者よりも、
田舎育ちで身体頑健健康そのものの農夫の方が
感染症で死亡する率が爆高だったそうです。
(生活密度高い場所といえば学校と兵営である)
ななななるほど〜。

って感じでマクロ&ミクロ寄生の知識と、
世界史の概論&ディテールが論じられていて
読み込むと結構楽しいのです。

「先生、これ、何の話でしたっけ?」
となって数ページ戻ることも多いけど…。

以下、雑学メモ

◇腸チフスのメアリー
雑学系の本によく出てくるな、この人

◇大航海時代の三大感染症
1450年〜1550年
・梅毒:シャルル8世がナポリ遠征後に傭兵現地解散!でバラ撒いて帰る
・発疹チフス
・イギリス発汗熱:1485年に突然現れ1551年に突然消える

◇新世界(アメリカ)の疫病被害の大きさ
スペイン人がインディオに一方的に疫病を伝染させたという構図。
旧世界(ユーラシア・アフリカ)の生態的複雑さの差であろう、と。
14世紀までにあちこちと交流して疫病&抗体を育てまくった旧世界と、
独立した存在(温室育ち)だったインディオでは
未知のウィルスへの耐性に大きな差があったようです。

◇南アメリカ・カヤポ族の滅亡
記録に残っている感染症被害の事例。
1903年、6000人〜8000人集落だったカヤポ族に
外部から宣教師が一人加わる。
あっという間に未知の感染症が部族を席巻。
1918年、カヤポ族は500人に。
1927年、27人。
1950年、カヤポ族の消滅が記録される。

◇フランス軍、種痘を発見するのは早いが導入は遅い
そういうとこあるよね、フランス。

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