80ヤード独走 佐藤康光vs渡辺明 2013年 第62期王将戦 第3局

2023年07月09日 | 将棋・名局

 「いや、やっぱり苦労が多かったような。ははは」
 
 
 そう言って笑ったのは、控室で検討していた佐藤康光九段であった。
 
 舞台は先日行われた、棋聖戦第3局でのこと。
 
 藤井聡太棋聖(竜王・名人・王位・叡王・王座・棋王・王将)が挑戦者である佐々木大地七段にお見舞いした、顔面受けが話題となった。
 
 
 
 
 
 ガツンと体当たりの後は、一転相手にゆだねる一手パスで、これで佐々木大地の暴発を誘い中押し勝ち。
 
 これを受けて、私は
 
 
 「佐藤康光九段っぽいなー」
 
 
 と感じたわけだが、思うのは皆同じらしく、これを受けて行方尚史九段も
 
 


 「やばいっすね。これは分かるわけないっすよ。将棋史上でない手じゃないですか? 康光さんなら浮かぶのかもしれないけど」



 

 そこで今回は佐藤康光による「康光さんなら浮かぶのかもしれない」特殊な将棋を見てもらいたい。
 
 
 
 2013年の第62期王将戦
 
 佐藤康光王将渡辺明竜王による七番勝負は、挑戦者の2連勝で第3局に突入。
 
 苦しい出だしの佐藤王将としては、もう負けるわけにはいかないわけだが、そこは強気で渡辺得意の横歩取りを堂々受けて立つ。
 
 むかえたこの局面。

 


  
 
 渡辺が玉頭から襲いかかって、を食い破ろうというところ。
 
 後手の攻めも細いが、こういう蜘蛛の糸をなんのかのと繋げて攻め切ってしまうのは、渡辺のお家芸ともいえるワザ。

 後手が2筋をガッチリとロックしているため、先手の飛車がまだ使えず、攻め合いは見こめないところ。

 ゆえに先手はしばらく守勢にまわらないといけないのだが、そこでひるむような佐藤康光ではないのだ。

 

 


 
 


 
 ▲87玉と大将自ら突っこんでいくのが、なにも恐れない受けっぷり。
 
 こうやって上部に勢力を足し、後手の桂香を取っ払ってしまえば、あとは▲56▲66飛車をいじめて自然に勝てるという寸法。
 
 それはたまらんと、渡辺は△98歩成から攻めを続行。
 
 ▲同香△同香成からバリバリ攻められそうだから、▲85歩とこちらを取り、渡辺は△94飛とかわす。
 
 


 
 
 
 目障りな桂馬こそ除去できたものの、これでが完全に破れている。
 
 ▲83角成が利けばいいが、その瞬間に△97香成とされて後手の攻めが早い。
 
 うまい受けがないと一気に突破されそうだが、やはり佐藤はここで引く男ではないのだ。

 

 

 
 


 
 
 ▲95歩△同飛▲86玉がパワフルすぎる特攻。
 
 この強情ともいえるショルダータックルで、後手にうまい攻めがない。
 
 いやまあ、強気というかなんというか、ほとんどムリヤリ肩をぶつけて因縁をつけるヤンキーみたいである。どんだけオラオラなんや。
 
 後手はたまらず△91飛と逃げるが、ここで押し戻されては切れ筋に陥った。
 
 すかさず▲84歩と突きだして、△99歩成▲92歩△81飛▲83歩成と、こんなところにと金ができては勝負あった。

 

 


 
 以下、佐藤は玉をどんどん前進させて、入玉模様で不敗の体制を築き快勝。
 
 もう見ただけで「佐藤の将棋やなー」とゴキゲンになれる、カッコイイ受けであった。

 

  (佐藤康光の魅力的すぎる将棋はまだ続く)

  (その他の将棋記事はこちらからどうぞ)
 


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