将棋 十三世名人の「舐めプ」? 関根金次郎vs阪田三吉 明治39年(1906年)

2022年03月10日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 「え? これって舐めプ?」

 なんて、目が点になったのは、ある棋譜を並べていたときのことであった。

 前回(→こちら)は、「棋譜データベース」で検索して、なんと阪田三吉を「角落ち」のハンディ付きで一蹴している関根金次郎の棋譜を紹介したが、実はもうひとつ、

 「ん?」

 となるものを見つけたのだ。 

 それが、4月12日の対戦。

 関根が角落ちで勝った約一月後で、「千日手事件」の10日前だが、手合いは平手

 「角落ち」で関根が勝っているのに、なんで平手なのかも謎だが、これがまた、おかしいのだ。

 まず、先手関根の初手

 


 ▲48銀

 なんですのん、それ。

 昔、若手時代の羽生善治九段が、谷川浩司九段郷田真隆九段相手に、後手番で▲76歩、△62銀というオープニングはあった。

 これは、先手にだけ飛車先の歩をを切られて損だが、その分、早くに銀をくり出して、中央の厚みで勝負しようという意図。

 

 

 

 これは、郷田の対策が見事で、羽生もうまくいかないことを認め、その後は指さなくなった。

 それが、まさかの復活をとげたのが、2018年の第76期名人戦第6局

 佐藤天彦名人相手にも披露して、こちらは昔と違い現代風なアレンジで、を足早にくり出して、主導権を握ろうというものだ。

 

 

 だから、関根もそんな感じでやるのかと思いきや、次には▲38金と上がり、以下▲27金▲26金とくり出す。

 

 なんだこれは?

 まあ、棒金ということなんだけど、玉は囲ってないし、そもそもこの金をどうやってさばいていくのか、全然見えない。

 これ、対戦者の名前を伏せて、ネット将棋とかで見たら、オリジナルの研究手を警戒するか、「舐めプ」(相手をなめてプレーすること)を疑うところ。

 いや、実際に羽生さんが、谷川さん相手に「2手目△62銀」を指したときにも、周囲はおもしろがって「舐めプか?」と話題にしたけど(もちろんそんなわけありません)、関根のこれは本当にそうじゃないの?

 そのことが、ハッキリしたように感じられるのが、△83銀▲69玉△84銀▲76歩△22銀の次の手。

 

 ▲33角不成

 完全に「これ、やってんな」でしょ。

 子供のころ遊びに行ってた道場に、こういうことするオジサンはいたけど、名人位を争うかという2人の対局で、これはないでしょ。

 それこそ、渡辺明名人永瀬拓矢王座が、藤井聡太五冠にこんな「角不成」やったら、間違いなく炎上

 なにがあったのかわからないし、関根に感情的なこじれがあったのか、それとも遊びだったから、両者笑ってたのかもしれないけど、絶対におかしいよ。

 そこからも、阪田は勢いにのって攻めまくり、関根は防戦一方。

 

 右辺に残された飛車、金、銀があまりにヒドイ形で、とてもやる気があるようには思えない。

 意味がわからず、コメント欄にヒントがあるかもと見てみても、

 

 「鋭い」

 「指し手が綺麗…」

 「素晴らしい」

 

 阪田の指し手を称賛するものはあれど(いやそこは実際すばらしいんですが、なんかメチャメチャに能天気な……)、関根の拙戦というか、ふざけたような序盤戦にはふれていないのだ。

 いやいや、見るとこ絶対そこじゃねーって!

 

 

 この将棋がおかしいのは、最後もそうで、これが投了2手前の図。

 ここから、▲76歩△同竜まで、阪田勝ち。

 

 ここで▲76歩ってなに? 

 なんの意味もないどころか、自ら1手詰に持っていくだけで、形づくりにもなってない。

 ただの「敗退行為」。

 序盤戦から、角の不成に、最後こんな手で終わらされたら、ガッカリですよ。

 いや本気で、

 「最後、王手放置で終わってたら、どうしよう」

 そこを心配したくらい。それくらい、なんか異常。

 てか、この▲76歩って、ほとんど王手放置みたいなもんじゃない?

 で、そのあとに「千日手事件」。

 こちらは方々で取り上げられるけど、この「無気力試合」はスルー。

 少なくとも、ネットの記事や私の手元の将棋の本では、正体はわからなかった。

 一体、これはなんなんでしょう(全体の棋譜は→こちら)。

 なにがあったのか。それとも、私がすごい思い違いとか、してるだけ?

 この棋譜の正体はなんなのか、なぜ関根はこんな、ふてくされた子供のような将棋を指したのか。

 妄想しかできないけど、角落ち戦終了後に阪田かあるいは後援者あたりが、

 

 「こんな角落ち下手なんかでは、阪田の力が発揮できないではないか」 

 

 みたいな物言いをつけて「じゃあ平手で」とはなったけど、関根からすれば

 

 「角落ちでボロ勝ちしてるのに、平手とか頭おかしいやろ」

 

 ということで、阿呆らしくなっていたのかもしれない。

 つまりはボイコットに近いのではと。

 この次の「千日手」事件が関根の香落ちだから、このあたりになんらかの話し合いというか、調整のようなものがあったのかもしれない。

 気になるので、明治大正の将棋界にくわしい方がおられましたら、情報求む。

 

 (阪田三吉に捧げた升田幸三の奇手編に続く→こちら
 


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2 コメント

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Unknown (いっぽ)
2022-03-14 16:30:01
失礼ながら、棋譜のURLをはっていただけるとありがたいです。棋譜を見たいなと思うときがあります。
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Unknown (シャロン)
2022-03-14 21:58:33
いっぽさん、コメントありがとうございます。

棋譜ですね。いつもDB2にはお世話になっているんですが、手の解説がないんですよね。

なんで、意味がわからないことも多く、それだけ貼ってもしょうがないかなーと思ってたんですが、興味を持っていただけたのは、うれしいことなので、これからは貼ってみることにします。

これからも、よろしくお願いします
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